北海道札幌市で生まれ石狩市で育ち、東京や中国・天津市でもさまざまなキャリアを積んだ後、2021年の暮れに北海道天塩町へ移住。現在は地域おこし協力隊として活動する三國秀美さんが、日々の暮らしを発信します。今回は、稚内市の南地区活動拠点センターで1月末に開催された、ベトナムの旧正月懇親会をレポート。
ベトナム人にとって大切な行事「テト」
旧正月に関するニュースがメディアで流れだす頃、稚内市から、ベトナム人有志が主催する旧正月(テト)懇親会の案内がありました。
2024年9月に開催された「日本語学習支援者養成講座」に参加し、ベトナム人と交流していたことでつながった縁。天塩町から1時間ほどクルマを走らせて到着した会場は、若手を中心とする有志の手づくり料理や飾りつけで彩られ、底抜けに明るいテト懇親会が待っていました。
中国の大移動などで話題になる旧正月は、健康や繁栄を願う大切なイベント。日本で暮らす多くのベトナム人も国に帰り、家族と祝うそう。帰国せず、遠く離れた北海道の地でテトを迎える人たちに向け、若手の有志が工夫を凝らしてお祝いする姿から、伝統を大切にしながら時代を生き抜こうとする強い意思を感じました。
テーブルには豪華な料理が並び、まるでレストランのよう。なかでもテトを代表する一品が「バインチュン」。薄味でくせがなく、食べやすい料理です。見た目からヨモギや青のりのような風味を想像しがちですが、調べてみると、もち米をガランガル(ナンキョウ)やパンダン(ニオイタコノキ)リーフの汁で緑に染め、豚肉と緑豆を詰めてゆでた優しい味のちまきです。
そのほか、おなじみの生春巻きや野菜とハムの和え物などが並びます。ピクルスのような野菜の味つけもどれも薄味で、それぞれ好きな調味料で味を加えていました。
乾杯、ビンゴ、カラオケと大盛り上がり
70名近い参加者が集まった懇親会の始まりは乾杯から。「モッ ハイ バー ヨー!モッ ハイ バー ゾー!モッ ハイ バー ウォン!」と、会の間じゅう、あちこちでベトナム式の乾杯の音頭が響き渡ります。見る見るうちにビールの空き缶が増え、カラオケの歌声もかき消されるほどのかけ声に圧倒されました。
続くビンゴゲームも大変な盛り上がり。私もめでたくビンゴとなり、ホクホク顔でまな板を持って帰りました。副賞として手渡された手づくりの小袋を家で開けてみると、中からお年玉とメッセージが。縁起として現金を包む心の豊かさにジンときました。
去年、天塩町の多文化共生支援でサポートした技能実習生イベントと違い、今回は自主企画の懇親会ということで、ベトナム人の趣向に合った進行だったよう。カラオケでは積極的にみんなが前で歌い、ポップスやバラード調など、日本と変わらない歌謡の世界を知ることができました。なかには日本語の曲を情感豊かに歌う女性も。
カラオケ大会のあとは再度抽選会があり、たくさんのふるまいが行き交うなか、記念撮影でクライマックスを迎えます。明るい笑い声が終始会場に響き、稚内市や就労先、そして支援者たちとの関係がとてもいいのだろうと察することができました。
市内に住むベトナム人が打診してきたことがきっかけで実現したこのイベントは、今回が2回目で会費制のこと。「彼らは仕事の合間に何日もかけて飾りつけをしたり、料理も昨日から仕込んでいます。こうした活動を市では今後も支援していくつもりです」(稚内市企画総務部交流推進課・青木秀貴課長)
現在、国内の統計では外国人技能実習生の数は増加傾向に。母国を離れても、みんなたくましく働きながら助け合って暮らしています。
会の途中、私は20歳ぐらいのベトナム人の女性に尋ねました。「南の海が広がるベトナムとは違って、ここは日本の北の端。寒くて帰りたくならないの?」。すると彼女は「寒くないよ、大丈夫」と笑顔で答え、コップを掲げて仲間と再度乾杯の声を合わせ始めました。もっと多くの日本人に、飾らないこの明るさを見てほしいと思わずにはいられませんでした。
<取材・文・撮影/三國秀美>
【三國秀美(みくにひでみ)さん】
北海道札幌市生まれ。北海道大学卒。ITプランナー、書籍編集者、市場リサーチャーを経てデザイン・ジャーナリスト活動を行うかたわら、東洋医学に出会う。鍼灸等の国家資格を取得後、東京都内にて開業。のちに渡中し天津市内のホテル内SPAに在籍するも、コロナ感染症拡大にともない帰国。心機一転、地域おこし協力隊として夕日の町、北海道天塩町に移住。