すっきり上品な甘さ。貴重な国産メイプルシロップの採取に同行

メイプルシロップといえばカナダ産が有名ですが、最近は日本でもつくらたものも見かけるようになりました。原料となる樹液を採取するのは2月から3月、雪深い山に分け入って作業します。新潟県北魚沼に移住した中川光嗣さんが、採取の様子をレポート。

新潟でスタートしたプロジェクト「魚沼メイプル」 

びん詰の魚沼メープル

 ここ数年で知られる存在となった国産のメイプルシロップ。とはいえカナダ産のものと比べればまだまだ流通が限られ、ちょっと手を出しにくい高級品かもしれません。

 魚沼の里山で小さな産声をあげた「魚沼メイプル」もそんな国産品のひとつ。新潟県の協力のもと3年前に地域で協議会が立ち上がったばかりのプロジェクトです。豪雪地帯の山にはたっぷり雪の残る2月から3月にかけて樹液が採取され、樹液を煮詰めて濃縮したものがメイプルシロップとして春先、店頭に並びます。

イタヤカエデの樹液を採取

 日本のメイプルツリー(モミジ、カエデ科)でシロップ用の樹液が採れるのは「イタヤカエデ」という樹種で、カナダ産のメイプルツリーである「サトウカエデ」とは少し異なります。「イタヤカエデ」は北海道から九州まで自生する山に入れば出会うことの多い木で、秋には鮮やかな黄色い葉が目につきます。木材としては堅くて丈夫なため、ひと昔前まではスキー板や家具の材料として、さらに昔は伐った木を雪の上を運び出すためのそりの材料であったため、イタヤカエデの木は大切にされていました。また、昔からこの木から甘い樹液が出ることは知られていたそうです。

カンジキを履いて、雪深い山に分け入る

雪山での樹液採取

 今回の取材にあたり、樹液採取の工程を生産者に同行させてもらいました。雪山に入るとなれば、当然、防寒着とカンジキは欠かせないアイテム。それと樹液を溜め込む交換用の大きなボトルをいくつも携え、イタヤカエデの樹幹を巡回していきます。
 
カンジキを履いて雪山へ

 まだまだ雪の表面が凍み固まらない場所がところどころあったので、カンジキを履いていてもズボっと足を深くとられ、思うように進まないこともしばしば。この辺りの里山ではブナ林より少し低い斜面に比較的まとまってイタヤカエデが自生しているエリアがあり、それぞれの木々の間は離れていません。よく晴れて澄みきった朝のスノーシューウォーク(カンジキ歩き)はじつに爽快です。

すっきり上品な甘さの魚沼メープル

ペットボトルをカエデの木に取り付ける

 肝心の味はといえば、とても上品ですっきりとした甘さ。やはりどこか和を感じる風味があり、和の甘味として葛切りやわらびもちなどとの相性もよさそう。数種類のメイプルシロップを比べてみれば違いはハッキリと分かるはずです。

 越後の山里の春はもう少し先ですが、森が香る「魚沼メイプル」は市内の道の駅いりひろせにて販売中。まさに知る人ぞ知る、雪国のメイプルシロップいかがでしょうか。

<取材・文/中川光嗣>
神奈川県湘南地方で育ち、大学で建築を学び、首都圏の建築事務所などで住宅建築や都市設計などに携わる。30代で新潟県十日町市に地域おこし協力隊として移住。その後、県内の魚沼市に移り、「小屋丸」の屋号で地元の木材を使った木工作品を制作している。