3月に入る頃、早摘みが店頭に並ぶのを皮切りに、初夏にかけて旬を迎える沖縄県産のモズク。じつは私たちが食べているモズクは、9割以上が沖縄県で養殖されています。今回は、野菜ソムリエ、アスリートフードマイスターなど食に関する資格をもつ津波真澄さんが、名前の由来や期待できる効果など、「沖縄モズクの魅力」をご紹介します。
「モズク」は「藻付く」? 名前の由来とは
「モズク」の名前は、ほかの海藻にくっついて育つ「藻付く」に由来しています。平安時代中期に編纂された辞書、和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)には、すでに「水雲」「毛豆久」と、野菜の一種として記載されており(現在では、モズクを含む褐藻は、陸上植物とは近縁関係にないことが明らかになっています)、古くから食されていたことがわかります。
また沖縄でも昔から三杯酢で食されていたことから、沖縄の言葉では、酢のり=「スヌイ」と呼ばれています。
モズクは美容・健康効果が期待できる
モズクを含む海藻類に期待できる健康効果は広く知られていますが、モズクには以下のような効果が期待されます。
(1) 肥満防止、腸活に
100gあたり、わずか4〜6キロカロリー(種類による)なので、ダイエット食品として。また水溶性食物繊維も豊富で、腸内環境を整える効果が期待できます。
(2) 免疫機能向上に
モズクのぬめり成分でもある「フコイダン」には、免疫機能を活性化させたり、胃の健康を維持したりし、抗ウイルスや抗アレルギー作用があるとされています。
(3) 美肌に
緑黄色野菜などに多く含まれるベータカロテンを含有し、その抗酸化作用が活性酸素の働きを抑え、皮膚の新陳代謝を促すことによる美肌効果が期待できます。
このように優れたモズクをもっと食べてもらおうと、沖縄県モズク養殖業振興協議会ではレシピコンテストを行ったり、POP素材を作成して、会員業者に提供したりしています。
炊き込み飯からデザートまで。もずくざんまい定食
さまざまな美容・健康効果が期待できるモズク。沖縄に来たら、モズクざんまい定食はいかがでしょう。南城市の「くんなとぅ」というレストランの定食は、対岸、奥武島で採れたモズクをふんだんに使っています。
メインのモズクそばは、麺にモズクが練りこまれています。写真は野菜そばですが、三枚肉やソーキが載ったものもあります。モズク入りジューシー(炊き込みご飯)、モズク天ぷらのほか、中央に並んでいるのが左から酢モズク、そばのトッピング用の生モズク(おかわり自由)、モズクゼリー。右上のカップ入りのモズクゼリーは、モズクの日(4月第3日曜日)に行くと、サービスでついてきますよ(数量限定)。
研究で生まれた養殖モズク、希少な天然モズク
現在流通しているモズクは、ほぼ養殖ものです。沖縄では恩納村漁業研究グループと水産業改良普及所の共同研究により、昭和50年から養殖手法の実証試験が行われ、昭和52年に初めて養殖モズクが水揚げされました。
その後、さまざまな改良・試験を繰り返して現在の養殖技術を確立し、沖縄県の生産量は、全国生産量の99%以上を占めるまでになっています。2020年は好天にも恵まれ、過去最高の2万2907トンを記録しました。
以前、一大産地・勝連地区の水揚げを見学したことがあります。収穫したモズクをコンテナに入れ、次々とクレーンで引き上げる風景は圧巻でした。この収穫作業は初夏まで続きます。
ちなみに、養殖モズクは機械で吸い上げますが、かつては天然のモズクを素潜りで採取していました。豊作の年には、年間約1000トン~約2000トン採取されていたようです。現在の天然モズクの主な産地は久米島と八重山。手摘みによる稀少な天然モズクは、ぬめり、歯ごたえが違います。運よ良く見つけたら、ぜひ試してみてください。とくに採れたてのモズクの味は格別です。
じつは、海域によってモズクの種類は異なる
沖縄県で水揚げされるモズクのほどんとは、オキナワモズクと呼ばれる太モズクです。同じオキナワモズクでも海域によって形状が異なることは知られていましたが、2020年に、沖縄科学技術大学院大学(OIST)が、海域ごとのオキナワモズクの違いをゲノムレベルで解明しました。(画像:OIST提供)
勝連では太く硬い側枝で中型藻体を持つK株、恩納では高密度側枝で小型藻体のO株、知念ではやや細い枝で中型藻体のC株、そして伊平屋では2015年に「イノーの恵み」として品種登録された長く柔らかい側枝で大型藻体のS株。それぞれの食感の違いの食べ比べも楽しそうです。
(参考:沖縄県もずく養殖業振興協議会、OISTプレスリリース<2020年6月>)
<取材・文>津波真澄
津波真澄さん
広島県出身、那覇市在住。外資系企業などに勤務し、海外でも生活。10年ほど前に沖縄に移住。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級、インナービューティープランナーほか、食に関する資格を持ち、「沖縄」「環境」「食」の知識や経験をもとに、料理教室を主催し、企業やメディアからの依頼でレシピ開発やメニュー監修をするほか、通訳や講演・執筆活動も行っている。美と健康の知識を要するミセスジャパン2019世界大会で第4位(2nd Runner-up)を受賞