煮豆を天ぷらにして食べる!香川県では残った煮物を揚げます

「豆の天ぷら」というとインゲンやエンドウ豆を思い浮かべますが、香川県では煮豆を揚げたものがよく食べられているそう。豆だけではなくいろいろな煮物を天ぷらにするという、香川の食文化をご当地グルメ研究家の大村椿さんが紹介します。

豆の煮物を天ぷらにして、うどんと一緒に食べる!

金時豆の天ぷら

 子どもの頃は、自宅で食べている家庭料理になんの疑問ももたない人がほとんどだと思います。大多数の子どもたちの食事は、家のご飯か、学校で食べる給食が基本ですよね。私もその1人でした。

 大人になってから仕事で「食の地域差」を紹介するテレビ番組のリサーチを担当することになりました。各自治体や飲食店などに電話取材をしているなかで、「あれ?これってもしかして…」と思うことがしばしば起きました。

 そのひとつが、香川県では「煮物を天ぷらにする」という調理法でした。香川県でよく見かける総菜のひとつに「金時豆の天ぷら」があります。パックで市販される甘く味つけされた金時豆。家庭でもつくる、いわゆる「煮豆」ってありますよね。あれに衣をつけて揚げるのです。
 
 お玉などにのせてかき揚げ状になっていることが多いでしょうか。なにも知らずにこれと対面すると、その見た目に「ええっ、ナニコレ?」という、得もいわれぬ気持ちになるのですが、香川では非常にポピュラーな料理。スーパーの総菜コーナーや、讃岐うどん店のセルフの天ぷらコーナーにも並んでいて、「豆の天ぷら」とか「金時豆のかきあげ」などと表記されています。

 うどんと一緒に食べると、だしが染みて甘塩っぱくなるのでとてもおいしいです。天ぷらなのでおかずなのですが、おやつ感覚でも食べられます。煮豆が甘いので、サツマイモやカボチャの天ぷらっぽい味わいをイメージしてもらうと、わかりやすいかもしれません。

 私は14歳まで徳島県で過ごしましたが、母はお隣りの香川県出身でした。当時は、母や祖母がつくる、家のご飯が同級生の食べているものと少し異なることには気づいていませんでした。徳島県でも金時豆はよく食べられています。家庭でつくる「ちらし寿司」の具材として使用されていたり、お好み焼きの中に入っていたりもします。

 しかし、大人になってから香川の祖母宅を訪ねたときに、近所のスーパーに行って『金時豆の天ぷら』が整然と並んでいるのを見かけて、「そういえばほかの地域で見たことない!」と衝撃を受けたのを今でも鮮明に覚えています。

タケノコに高野豆腐、煮物ならなんでも揚げちゃう

高野豆腐

高野豆腐の天ぷら
高野豆腐の天ぷら

 思い起こせば、高野豆腐やコンニャク、レンコン、ゴボウの煮物なども揚げていました。天ぷら用に下味をつけるというわけではなく、煮物をたくさんつくって、翌日以降に余ったものを揚げる、という感じです。元は煮物ですから、しっかり下味がついているので、基本的に天つゆや塩などはつけず、そのままでとてもおいしいのです。外側サクッと、中はしっとりです。

 田舎暮らしをしていると、春になると親戚やご近所さんからタケノコを丸ごと1本いただくことがあります。早速タケノコご飯や煮物がおかずとして並び、「春だねぇ。おいしいねぇ」と喜びながら和やかな夕食。しかし、翌日もまたタケノコの煮物、さらにその翌日も。つまり「ああ、もう煮物を食べ飽きたな…」と家族が思い始めるころ、そいつは天ぷらに変身して食卓に登場するのです。そんな風景が香川の人々の中では当たり前。私も、数日間にわたって祖母宅に滞在していると、用意してくれる食事のなかに「煮物のリメイク天ぷら」が現れた記憶があります。

煮物の天ぷら

 先日、香川県在住の人たちに話を伺う機会があり、そこでも皆さん口々に「ああ、煮物の天ぷら、ようつくるよな。味がしゅんで(染みて)おいしいんよ~」「え、なんで?県外では天ぷらにせんの(しないの)?」とおっしゃっていました。また、「厚揚げの煮物を天ぷらにしている」という話も飛び出してきて、冷静に考えると「揚げて・煮て・揚げる」という複雑な調理工程を経ている料理だと気づき、皆さん爆笑でした。そのなかに「県外出身だけど香川県在住」という人がいらっしゃったのですが、転勤族でひとり暮らしのためか、「まったく知らなかった」と呆然としていたのが印象的でした。

大根の煮物のてんぷらはおつまみにもピッタリ 

うどんと天ぷら

 香川県以外の人にも尋ねてみると、「タケノコの煮物を天ぷらにする」のはほかの地域でも行われているそう。実際に居酒屋などで食べたことがある人も多いのですが、いろんな煮物を揚げまくる傾向にあるのが香川独特の食文化のようです。

 この地では、お祝いのときなどに「味つきの天ぷら」を食べる習慣があり、冷めてもおいしく保存もきくということで、だんだん家庭料理としてつくられるようになったという歴史があるといいます。昔は家族も多く、煮物は鍋いっぱいにつくったでしょうから、残さず最後まで食べきるためのテクニックでもあったのでしょう。

 私が食べたなかで意外なおいしさだったのは、「大根の煮物」です。味が染みているのでお酒のおつまみにもピッタリ。香川県以外の皆さんも、おでんが余ったらつくってみるのをおすすめします。水分が多いので油はねに気をつけてくださいね。

<文・写真/大村 椿>

テレビ番組リサーチャー・大村 椿
香川県生まれ、徳島県育ち。2007年よりフリーランスになり、2008年から地方の食や習慣などを紹介する番組に携わる。その後、グルメ、地域ネタを得意とするようになり、「ご当地グルメ研究家」として食に関する活動も行っている