胃袋、のど、おでこもうまい!地元民が絶賛する三崎港のマグロ料理

神奈川県三浦市三崎町は、マグロ水揚げ港としての歴史が長く、マグロの町として有名です。一般的には赤身やトロを食べるマグロ。しかし実際に現地の人に聞くと事情が違うのだとか。産地ならではの楽しみ方や思いを、おさかなコーディネータのながさき一生さんがレポートします

日本有数のマグロの水揚げ基地・三崎

マグロで有名な三崎漁港
マグロで有名な三崎漁港

「三崎のマグロ」は、誰もが一度は耳にしたことがあると思います。では、なぜここまで有名なのでしょうか。元々三崎は港に適した地形で、遠洋マグロ漁船の基地として発展。

 しかし、1977年ごろに「各国の沿岸から200海里(約370㎞)の範囲で、外国船は勝手に漁をしてはならない」という国際ルールが設定され、日本の遠洋マグロ漁船は1/6ほどに激減します。ただ、それ以降も三崎は日本有数のマグロ水揚げ基地として名を馳せてきました。そこには、長年の歴史で培われた「目利き力」があるといいます。

 三崎の市場から出荷されるマグロは、目利き力が高い流通業者が品定めしており、間違いないマグロとして根強く信頼されているのです。そんな三崎の人々とって、マグロとはどういった存在なのか、今回三崎で話を伺うべく、地元出身の東京海洋大学大学院生 小菅綾香(こすげあやか)さんに案内していただきました。

三崎には見たことないマグロ料理がいっぱい

三崎を案内いただいた小菅綾香さん
三崎を案内いただいた小菅綾香さん

 小菅さんに案内いただいたのは、マグロを扱う人気料理店「くろば亭」。ここでお店を切り盛りする山田拓哉(やまだたくや)さんに三崎ならではの食べ方を伺うと、開口一番「地元民にとっていちばんのマグロ食材は、胃袋(ワタ)です」とのこと。

 昔、マグロ漁船の乗組員たちは、マグロの胃袋をお土産として地元に持ち帰ったそう。各家庭によって胃袋のゆで加減、味つけは違い、三崎の人たちにとっての胃袋料理は「カレー」のような存在だったといいます。

 そして、胃袋をはじめとしたマグロの珍味盛り合わせをいただくことに。胃袋はコリコリ、ぷりぷりとした触感。さらに、カツオのあらぶしスープが中に染み込んでいて、うま味は格別。

 ほかにもマグロの頭の身である、「ホホ・ハチ(おでこ)・のど・目」をいただきましたが、どれも1匹の魚から取れたとは思えないぐらい、味や触感が違って感動ものでした。

くろば亭でいただいたマグロ珍味盛り合わせ
くろば亭でいただいたマグロ珍味盛り合わせ

 山田さんの息子で3代目の玄太さんは、とくに「のど」がオススメとのこと。「ごくわずかしか取れない希少部位です。魚というよりも肉に近い触感で、ぜひ一度は味わっていただきたいです」とのこと。

くろば亭の山田拓哉さん(左)と玄太さん(右)
くろば亭の山田拓哉さん(左)と玄太さん(右)

三崎の目利き力で世界市場を目指す

三崎恵水産の石橋匡光社長
三崎恵水産の石橋匡光社長

 次にお話を伺ったのは、地元でも有数のマグロ問屋である三崎恵水産の石橋匡光(いしばしまさみつ)社長。三崎生まれ、三崎育ちの石橋社長は、先代からお店を引き継いでいて、生まれたときからマグロ一筋の人生を歩んできたそう。

 そんな石橋社長にとって、マグロは「忙しいときのご飯」。両親が忙しく、ご飯の準備ができないときは、冷蔵庫にあったマグロを食べていたそうです。「昔はマグロなんて食べたいと思っていませんでした。でも、地元を離れたときに恋しくなったんです」。三崎の人々にとってのマグロとは、故郷の味でもあるようです。

 山田さんや石橋社長に話を伺う中で、仕切りに「世界」という言葉が出ていたことがとても印象的でした。石橋社長曰く、「日本の人口や水産物生産量は減少傾向ですが、世界に目を向ければ、右肩上がり。そのため、グローバル基準に目を向けることが大切。地中海やアメリカのマグロ取引は「日本円」で行っており、日本の目利き力は世界的にも評価されています。そんななか、世界一のマグロ屋を目指すという姿勢を持ち続けたいと思っています」とのこと。

 くろば亭の山田さんも「世界一楽しいマグロ料理を提供したい」と語っており、三崎の人々の視点は世界に向けられていることを強く感じました。三崎のマグロが有名な背景には、その歴史のなかでつちかわれてきた目利き力や文化に加えて、世界を相手にする姿勢があったのです。世界一を目指す三崎のマグロは、これからも私たちを魅了し続けるに違いありません。

〈写真・小菅綾香 文・ながさき一生〉

おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。現在、同大学非常勤講師。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」は参加者延べ1000人を超える。