釣り人にも「うまい!」と評判。頂鱒(いただきます)の人気の秘密

栃木県日光地域では、清流を利用して淡水魚養殖が行われており、なかでも足尾町で育てられるブランドニジマス「頂鱒(いただきます)」が、各地の管理釣り場で人気を博しているのだとか。食材としても注目されている頂鱒を、おさかなコーディネーターのながさき一生さんがレポート。

釣ってよし、食べてよしの頂鱒

足尾町で生産されている頂鱒
足尾町で生産されている頂鱒

「大変長らくお待たせしていました、ブランドマスの「頂鱒」が近日入荷することが決定しました!」

 4月中旬、神奈川県のとある管理釣り場で伝えていました。これだけでも頂鱒がいかに釣り人に人気かがお分かりいただけると思います。頂鱒は、ふるさとの栃木県だけではなく、広いエリアで愛されるニジマスになりつつあるんです。

 なぜ、頂鱒はこれほど人気なのでしょうか。その理由は、なんといっても味のよさにあります。通常、釣り用に育てられる魚は、釣ることが目的のため味は二の次になりがち。しかし、頂鱒は品種改良を重ねて味もよくした品種。日光の豊かな自然環境で育てているため、健康なニジマスに育ち上がり、釣ってよし、食べてよしなのです。

頂鱒の生産者 神山勇人さん
頂鱒の生産者 神山勇人さん

 今回、この頂鱒のおいしさの秘密を探るため、生産者である神山水産の神山 勇人(かみやま ゆうと)さんにお話を伺いました。

頂鱒は生育に時間のかかる品種

丁寧に育てられた頂鱒の身は大きくて鮮やかでキレイ
丁寧に育てられた頂鱒の身は大きくて鮮やかでキレイ

 頂鱒はほかのニジマスとなにが違うのか。「3倍体でなく、2倍体のニジマスをじっくりと育てていることですかね。」と神山さんは答えました。この3倍体というのは、受精卵に圧力や熱をかけることで、通常は2組の染色体を3組持たせるようにしたものをいいます。こうすることで、魚はオス・メスの区別がなくなり、生殖器に取られる栄養が身に行き渡る分、成長も早まり肉質もよくなります。

 この技術は、植物の育種でも利用されている手法で危険性はないとされますが、従来の2倍体にこだわって品種改良を続けてきたのが、勇人さんの父である裕史(ひろぶみ)さんです。頂鱒の育種方法は、通常は2年で成熟して卵を生むニジマスのなかに、さらに長い期間成長を続ける個体がおり、その中で姿かたちがいいものをかけ合わせるというものでした。

 こうしてでき上がった頂鱒の成熟期間は、なんと通常の倍である4年間。日光の豊かな自然の中で時間をかけて丁寧に育てられた結果、肉質が良好、かつ大型で元気のいいニジマスができ上がるのです。

頂鱒はECサイトポケットマルシェでも購入可能

特訓の末、食品に。ポケットマルシェでも販売中
特訓の末、食品に。ポケットマルシェでも販売中

 味がいいと当然食品としても注目を集めるようになります。しかし、そこには、魚を育てることとは違った苦労もあったといいます。「頂鱒の製品の出荷にあたってはさばく作業も必要なのですが、これができるようになるまでは非常に苦労しました。最初は、見様見まねでうまくいかず、1晩近くさばき続けたこともあります」。

 そうしてECサイトポケットマルシェを通じて、今では自分で考えた中落ちなどの商品も出荷している神山さん。今後は、生産量を増やすとともに、日光を訪れた観光客にキッチンカーで焼いた魚を売るなど、さまざまな楽しみ方も提供しつつ、町も盛り上げたいといいます。

バランスよく食べやすいのでいろんな料理にあう

お取り寄せした頂鱒
お取り寄せした頂鱒

 頂鱒を私も実際にいただいてみました。すると、脂や水分量、香りなど、すべてにおいてバランスのいい味で、しっかりとした味がありながらも、食べやすく上品でした。なんの料理にも合い、ひと言でいうと「すべてにおいてちょうどいい味」。嫌な臭みもなく、さまざまな人に愛される点がよく分かりました。

 頂鱒の名前には、「頂点を目指す鱒」という意味が込められています。最後に、神山さんは、「頂鱒をより多くの人に楽しんでもらい、日本一のマスと言われるようにこれからも生産を続けていきます。」と語っていました。

<文 ながさき一生 写真・神山水産、ながさき一生>

おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。現在、同大学非常勤講師。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」は参加者延べ1000人を超える。