行列のできる那覇のもち菓子屋。沖縄では年中いろんなもちを食べます

沖縄県内にもちを販売するお店は数あれど、正月やお盆など、大きな行事の日には早朝から長蛇の列ができるお店はそうありません。そんな行列店が「首里餅菓子屋」。今回は、野菜ソムリエ、アスリートフードマイスターなど食に関する資格を持つ津波真澄さんが、老舗人気店の秘密を紹介します。

大人気のもちをつくる創業70年のもち菓子屋

餅

 正月やお盆、お彼岸などのほか、沖縄ならではの年中行事にも必ずと言っていいほど登場するもち。行事ごとに味や形が異なり、お供物としての位置づけが強いのですが、食べてもおいしいもちづくりにこだわるお店があります。創業70年を迎える「首里餅菓子屋」です。こちらで毎日販売されているもちは、あんの入っていない白もち、白砂糖餅、黒砂糖餅、そしてあん入りの白もち、ヨモギもち、赤もちの6種類。

 沖縄のもちは製造工程が通常のものとは異なり、米を粉にしてからつくります。そのため、もちと言っても団子に近く、ひと口でかみ切れる伸びないものが大半なのですが、首里餅菓子屋のもちは、粉にしてからつくるのに伸びがあり、まるで蒸したもち米をついたような食感です。とくに行事がなくても、通りがかりにふと立ち寄って買いたくなるもちの魅力は、社長のこだわりにありました。

1年中さまざまな行事用のもちをつくる

首里餅菓子屋

「進物用のおもちを頼まれることもありますが、当店はほぼ行事用をつくっています。沖縄は行事が多くて、進物用にまで手が回らない、というのが正直なところなのですが」と苦笑しながら話してくれたのは、社長の西原清次郎さん(写真:隣は妻の淳子さん)。

 行事用とは、12月はお正月用の鏡もちや納豆みそもち(ナントゥー)、1月は鬼もち(カーサームーチー)、2月は十六日祭用のもち、3月は菱もち、春の彼岸用のもち、桜もち、4月は清明祭用のもち、7月〜8月はお盆、9月は十五夜用、秋の彼岸用など。さらに各種法事にももちはつきもののため、1年中なにかしらの行事用のもちをつくっていることになります。社長の言葉も納得です。

 他店のもちと違うのは、「米から丁寧につくっているから」だそう。手間暇かけず、大量に生産するのは簡単なことだけれど、そうするとおいしいものはできないため、準備は前日から行い、その日の天候状態や、なにをつくるのかによって工程を微調整しているそうです。

 現在従業員は11名。その日に販売するもちはその日につくるので、最近は一部機械を入れて少し楽になったものの、それでも毎日真夜中から作業を始めているとのこと。朝6時に開店する本店を含め、全4店舗で販売する量をまかなうためには、そのくらいの時間が必要なのでしょう。

おかずと一緒に食べておいしいもちをつくりたい

お店

 味へのこだわりは、とにかく行事を楽しんでほしいという思い。多くの人が集まったときに、食べ物がおいしくなければ、楽しい時間が台なしになってしまう。なので、おかずの味を邪魔しないもち、おかずと一緒に食べておいしいもちをつくることを常に考えているそうです。それは同時に、沖縄の食文化を引き継いでいきたいという思いの表れでもあります。

 ちなみに沖縄では、各種行事の際に重箱を準備するのが普通で、総菜の入ったお重ともちの入ったお重がセットになっており、もちをご飯がわりに食べます。こちらのお店でも重箱を注文することができるのですが、総菜のお重は外注で、その外注先は10か所以上味見をして決めたそうです。

 現在、首里餅菓子屋のもちを販売しているのは、本店、儀保店、栄町店、そして販売委託をしている外間製菓所(牧志)の4店舗(いずれも那覇市)。販売委託をするお店はどこでもいいわけではなく、一緒に販売しても安心できる品質のお菓子を売っているところを探し、外間製菓所に白羽の矢が立ちました。直営店舗内にも外間製菓所の伝統菓子が置いてあり、相互販売しています。

もち屋のレベルは白もちを食べるとわかる

白餅

 取材の最後に、おいしいもち屋さんの見分け方を教わりました。その方法は、なにも入っていない白もちを食べてみること。どのもちも基本は白もちなので、白もちがおいしくないと、ほかのもちはどれもおいしくないそうです。

 お客さんに安心して食べていただくために、余計なものが加えられていないのも首里餅菓子屋の特徴。ご飯と同じように、かむごとに甘味を感じるのが本来のもちで、いろいろ加えられ過ぎているとおいしく感じないとのこと。
 写真は台所の神様「ヒヌカン(火の神)」にお供えするもちですが、神様も舌鼓を打っていることでしょう。

 沖縄を訪れることがあったら、沖縄のもちをご賞味ください。ちなみにアクセスの良い首里餅菓子屋は、ゆいレール儀保駅の目の前にある儀保店です。

儀保店
アクセスが良い儀保店

首里餅菓子屋本店 浦添市字前田1336-3
電話 098-867-0891

<取材・文>津波真澄

津波真澄さん
広島県出身、那覇市在住。外資系企業などに勤務し、海外でも生活。10年ほど前に沖縄に移住。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級、インナービューティープランナーほか、食に関する資格を持ち、「沖縄」「環境」「食」の知識や経験をもとに、料理教室を主催。企業やメディアからの依頼でレシピ開発やメニュー監修をするほか、通訳や講演・執筆活動も行っている。美と健康の知識を要するミセスジャパン2019世界大会で第4位(2nd Runner-up)を受賞