競輪選手から養蜂家に転身。石垣島でつくるこだわりのはちみつ

国内市場に出回るはちみつの9割以上は海外産。貴重な数パーセントの国産の中で、沖縄県は養蜂群数で1位を誇ります。今回は、野菜ソムリエ、アスリートフードマイスターなど食に関する資格を持つ津波真澄さんが、日本最南端の養蜂場を営む「石垣島はちみつ」を紹介します。

温暖な石垣島で採れる自然の恵み

石垣島はちみつ

 日本最南端の養蜂場は、沖縄・石垣島にあります。石垣島はちみつの主な蜜源はシロバナセンダングサ。解熱や解毒、利尿作用などの薬効があるとされ、近年薬草としても見直されている植物です。

 それだけでも注目に値しますが、季節ごとの島の花々、パッションフルーツや島バナナ、ドラゴンフルーツなどの果実の蜜も含まれ、南国の香りが詰まったハチミツはこの島ならでは。格別の味わいです。

ミツバチ

 さらに非加熱なので酵素たっぷり。ビタミンやミネラル、亜鉛やアミノ酸も豊富です。現在、はちみつの殺菌力や抗ウイルス効果に期待が寄せられています。

こだわりのきっかけは家族の健康

枝並夫妻

 とにかく安心で安全なはちみつを、という熱い思いで石垣島はちみつを営んでいるのは、枝並 畝日(えなみ うねび)さん・由香さんご夫妻。

 枝並夫妻のご両親は若くしてガンで亡くなり、由香さんも持病を持っていて、娘さんも生まれつき心臓の病気を患っていることから「健康であることの大切さ」を痛感し、食への関心が高まったそうです。

「体は食べたものからできている」という考えのもと、日々口にするものは、安心できるものでなくてはという思いが生まれました。ミツバチに寄生するダニを駆除するための抗生物質を使って、蜜を集めてくるミツバチの健康を守るのではなく、ミツバチ自身を強くして、薬剤に頼らなくてもいい環境をつくるために、試行錯誤を繰り返す日々。

 巣箱の設置場所にもこだわりがあり、無農薬の花からはちみつを採取するため、巣箱の近くで農薬をまいていない土地を選んでいます。さらに、島で農薬を散布する日を教えてもらい、対応しているそう。

 混ぜ蜜をせず、添加物を加えず、加熱処理もしない生はちみつを提供するという、こだわりの強い部分は、ほぼ独学だったというのには驚きです。知れば知るほど、石垣島はちみつのありがたみに頭が下がります。しかし、ここに至るまでには、当然のことながらさまざまな苦労がありました。

競輪選手から転身し養蜂家へ

畝日さん

 競輪選手として長年活躍してきた畝日さんは、夫婦で東京から石垣島に移住してからも数年選手として活躍。現役引退後の進路を考えていた頃、環境汚染が原因で世界的にミツバチが激減していることを知りました。人にもミツバチにも優しい環境をつくるにはどうすればいいのか。丈夫で健康なミツバチを自分たちで育ててみたいと思うようになり、養蜂の道を選んだそうです。
 選手時代から天然のサプリメントとしてはちみつを摂取していたことも、背中を押しました。

 しかし、養蜂に関してはまったくの素人。最初の数年間はとにかく勉強の日々。まず巣箱を置かせてもらう場所探しからですが、花がたくさん咲いているからといって、そこがいい場所とは限らないそうです。巣箱は置いてみないとわからない一種の賭けで、少し先に農薬をまいている場所があり、ハチが巣箱の前で死んでいたということもあったとか。

 さまざまな苦難を経験するなか、島の人たちは「移住してきた人が島でビジネスに挑戦してくれると、島の活気に繋がるのでありがたい」と応援してくれたそうです。

 そんな石垣島民の温かいサポートのおかげで、巣箱1箱からスタートした養蜂は、徐々に巣箱の数が増え、土地を購入したり借りたりしながら、少しずつはちみつが採れるようになり、2012年に株式会社石垣島はちみつを設立しました。

「会社を設立した年にとれたはちみつは、お礼の気持ちを込めて、お世話になった島の方々に無料でお配りしました。なので、その年の年商は4万円だったんですよ」と笑顔で語る由香さん。今ではそれもいい思い出なのでしょう。

お父さんのつもりでミツバチを世話する

巣板

 養蜂を営むようになって、日々ミツバチと向き合っている畝日さんは、まるでミツバチのお父さん。

「ミツバチは日齢によって仕事が決まっています。自分の生まれた巣をきれいにする仕事から始まり、少し経つと子育てをし、もうしばらく経つと外勤するようになり、花の蜜を集めたり、巣を守ったりします。性格もそれぞれで、せっかちなハチや、おっちょこちょいなハチもいるんです」

 見分けがつくのも驚きですが、ハチたちに性格があるのも驚きです。ハチたちに話しかけながら採蜜している畝日さんの姿が目に浮かぶようです。

食べるだけでなくスキンケア製品なども開発

由香さん

 石垣島はちみつには、スキンケア商品もあります。口にするものだけではなく、肌から吸収する化粧品も余計なものを使わないでつくりたいという思いから開発されたそうです。開発担当の由香さんも肌が弱いということもあり、肌に優しい商品は、同じように肌に悩む方々から強い支持を得ています。

 はちみつもスキンケア商品も、ご夫婦の願いは「安心・安全で、子や孫に伝えていけるものをつくり続ける」こと。その素晴らしい心にミード(ハチミツのお酒)で乾杯!です。

■ 石垣島はちみつ

<取材協力&写真提供/(株)石垣島はちみつ>
<取材・文/津波真澄>

津波真澄さん
広島県出身、那覇市在住。外資系企業などに勤務し、海外でも生活。10年ほど前に沖縄に移住。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級、インナービューティープランナーほか、食に関する資格を持ち、「沖縄」「環境」「食」の知識や経験をもとに、料理教室を主催。企業やメディアからの依頼でレシピ開発やメニュー監修をするほか、通訳や講演・執筆活動も行っている。美と健康の知識を要するミセスジャパン2019世界大会で第4位(2nd Runner-up)を受賞