ひな祭りにはヨモギもち。「もち暦」もある岩手県一関市のもち文化

岩手県一関市にはさまざま行事の際に、もちをふるまう習慣があります。地域に伝わる「もち暦」によると年間60日ももちを食べる日が。ひな祭りにもヨモギもちを備えるという、おもち大好きな一関の食文化を岩手出身の俳優、藤原絵里さんが紹介します。

一関では年間60日以上もおもちを食べる

もちつきの様子

 筆者の母の出身地である、岩手県一関市は、今から約400年前、伊達藩で始まったおもち食文化が受け継がれている地域です。
 この文化は、ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」のひとつに認定され、さらに農林水産省が認定する「食と農の景勝地」にも、全国で初めて選ばれました。

 この地域では、年越しやお正月はもちろん、農作業や季節の節目、入学や卒業のお祝い、冠婚葬祭とさまざまな状況で「果報もち」と呼んでおもちを食べます。
 結婚式の朝は、親戚やご近所さんが集まり歌いながらおもちつきをしてみんなでお祝いをしたり、お嫁さんが実家から持ってきた一升もちをあんこもちにしてご近所に配る「まわしもち」という風習もあります。

 この地方に伝わる「もち暦」によると、その数は年間60日以上と言われています。おもちは暮らしに欠かせない存在で、もち文化は今でも生活に欠かせないものとなっています。

 たとえば1月は、1~3日に鏡もち、お供えもちとして、年末についたおもちを食べます。7日はお粥もち、七草粥におもちも入れます。11日はふくとりもち。農作業の仕事始めの行事です。

 2月は8日に八日団子。田んぼの神様が地上におさがりになる日です。3月3日はヨモギもち、菱もち、甘酒をひな壇にお供えした後にいただきます。18~24日はぼたもち(牡丹もち)。ご先祖様を供養する日です。

 4月8日はヨモギもち、小豆もち 花祭り、お釈迦さまのお誕生日をお祝いする日。5月4日はヨモギもち、菖蒲とヨモギを軒にさして魔除けにします。5日はかしわもち。男の子の成長と健康をお祝いする日です。

おもちの種類は300種類以上

果報もち膳

「もち暦」にはさまざまなお祝いごとが記載されています。これに、お誕生日や還暦のお祝い、卒入学のお祝いなどを合わせると、毎週のようにおもちを食べる機会がありますね。

 悲しみの席でもおもち料理が提供されますが、納豆もちだけは控えられています。というのも、納豆は糸をひくことから、「悲しいことが後をひかないように」といわれているからです。

 おもち文化の歴史は、江戸時代からと言われています。毎月1日と15日におもちをついて神様に供え、平安無事を祈り、休息日とする習慣があったそう。

 赤い色は邪気払いの効果があるとされのために、「赤いもの=小豆=あんこ」ということで、あんこもちを供えていたそうです。
 神様には真っ白いおもちを供え、貧しい農民はくず米に雑穀を混ぜた「しいなもち」と呼ばれる白くないおもちを食べていたそうです。

 このしいなもちをなんとかおいしく食べようとする工夫のなかで、独自の「もち文化」が生まれたと伝わっています。 おもち料理の種類はとても豊富で、あんこやお雑煮はもちろん、枝豆をすりつぶしたずんだ、納豆、くるみ、大根おろし、生姜、じゅうね(えごま)、沼えび、ふすべ(鶏肉とごぼうと南蛮の入ったタレ)など、300種類もあると言われています。

ハレの日にいただく「もち本膳」

もち本膳

 お祝いごとなど時別なときは、普通のおもちではなく「もち本膳」をいただきます。このもち本膳、食べ方に決まりがあります。
「おとりもち」さんという進行役をお招きし、その方の指示に従います。まず礼をし「おとりもち」さんが口上を述べたら、まずは、なます(大根おろし)をひと口。

 次に、あんこもち、料理もち(変わりもち)、雑煮もちの順で食べます。次のおもちを味わう前に、なます(大根おろし)で口の中をさっぱりさせるのを忘れずに。
 たくあんは好きなタイミングで食べてもいいのですが、必ずひと切れ残しておきます。

 おもちを食べ終えたら、お椀にお湯(膳の湯)を注ぎ、たくあんでお椀をぬぐってきれいにし、最後にたくあんとお湯をいただきます。

 甘いあんこから食べはじめるのが不思議ですが、神様にお供えしていたのもあんこもちだったことから、最初に邪気払いのためにあんこもちなのかもしれませんね。「もち本膳」はお取り寄せも可能。岩手県南地方には、この「もち文化」「もち本膳」を伝承し、提供するお店が数多くあり、1年を通して味わうことができます。

 コロナ禍で、なかなか行けませんが、お取り寄せやふるさと納税の返礼品にも選ばれているので、卒業式や入学式などのお祝いに、自宅でもち本膳を楽しんでみるのはいかがでしょうか。

<協力/岩手県一関市商工労働部観光物産課>
<取材・文/藤原絵里>

藤原絵里さん
俳優。岩手県盛岡市出身。23年間、岩手県で生まれ育つ。短大を卒業し、地元の温泉旅館の仲居に。着つけや日本文化に興味をもつ。その後、カタール航空のキャビンアテンダントへ転職。約4年、国際線に乗務し世界44か国を訪れる。海外での経験を通して、日本のよさ、岩手のよさを再認識する。現在は、女優として、映画やミュージカルに出演。代表作は速水萌巴監督『クシナ』、榊英雄監督『生きる街』など、多数。日本や東北の魅力を伝えられる作品にかかわっていきたいと思っている。