「山城」「天妃前」「の」。行列のできる那覇3大まんじゅうを食べ比べ

100年以上前の創業時から変わらぬ味を守り続け、行列ができるまんじゅう屋が那覇にあります。今回は、野菜ソムリエ、アスリートフードマイスターなど食に関する資格をもつ津波真澄さんが、戦争を乗り越えて今なお受け継がれる、那覇に来たら食べてほしい三大まんじゅうを紹介します。

沖縄ならではの月桃の葉に包まれたまんじゅう

沖縄3大まんじゅう

「那覇の三大まんじゅう」といわれる山城(やまぐすく)まんじゅう、天妃前(てんぴのめー)まんじゅう、のまんじゅうには共通点があります。それは、月桃(げっとう)の葉に包まれていること。それぞれ味も形もまったく異なるまんじゅうですが、いずれも月桃の葉を敷いて蒸しあげるため、月桃の香りがまんじゅうに移っています。この香りを感じながら食べるまんじゅうに、沖縄を感じる方も多いのではないでしょうか。

 ちなみに、沖縄のあらゆるところに自生する月桃には殺菌効果もあり、暑い沖縄において食べ物を腐りにくくするためにも、食べ物に敷いたり食べ物を包んだりと、重宝されています。

約170年の歴史を誇る山城まんじゅう

山城まんじゅう

 那覇の三大まんじゅうのなかで、もっとも歴史が長いのが山城まんじゅうです。第二次世界大戦で資料がすべて消失したため、正確な創業年は不明ですが、約170年前と考えられています。途中、4代目が病気になったり、道路拡張で営業できなかったりで、3年ほど店を閉めていた時期があったものの、伝統の味は先祖代々受け継がれ、現在は6代目となる山城秀史さんがお店を守っています。

やまぐすく

 まんじゅうの特長は、つぶあんが透けて見えるほど薄い皮。小麦粉と水のみ、中のつぶあんは、小豆を自家製の水あめと砂糖で煮つめてつくられています。

 山城さんに「これは伝えてほしいというこだわりの点」を尋ねたところ、「無添加であることと、できるだけ温かいうちに食べてほしいこと、この2点だけ伝われば十分です」と返ってきました。丹精込めてつくった自慢の味に対する誇り、そしていちばんおいしい状態で食べてほしいという強い思いを感じます。

山城まんじゅう食べ方

 それでも冷めてしまった時のために、おいしく温めるコツも同梱されています。予約しないと買えないほどの人気のまんじゅうなので、買えるときにはまとめて買っておき、食べきれないものは月桃の葉に包んで冷凍し、食べる際にそのまま蒸し直すと、できたてに近い味が再現できるのでおすすめです。

台湾で製法を教えてもらった天妃前まんじゅう

天妃前まんじゅう

 次にご紹介するのは、天妃前まんじゅうです。創業約100年のペーチン屋を切り盛りしている上原智美さんにお話を伺いました。「天妃前まんじゅう」という名称は、戦前、久米村(現在の那覇市久米)の天妃宮(てんぴぐう)前の市場で売られていたまんじゅうの総称だそうです。

 台湾でも同様にお宮の前の市場でまんじゅうが売られていたらしく、上原さんの曽祖母にあたる創業者が、わざわざ台湾まで行ってつくり方を学んで帰ったのだとか。しかも、その理由は、夫の稼ぎに頼らず、手に職をつけたいという思いからだったというのには驚きです。

てんびのめー

 はったい粉と黒糖のさらりとした甘さのあんが、ぷるんとした食感の皮に包まれた天妃前まんじゅう。昔は那覇で買う手土産だったらしく、遠くまで持ち帰ってもおいしく食べられるように製法が工夫されおり、冷めても固くならないのが特徴です。

天妃前まんじゅう包装紙

 祖母の代から変わらないノスタルジックな包装紙。これに包まれたまんじゅうを探していたと買いに来るお客さんもいらっしゃるとか。現在、沖縄県で天妃前まんじゅうを専門に販売しているのは、ペーチン屋だけとなりました。

筆で「のの字」を書いた「のまんじゅう」

の

 最後にご紹介するのは、筆で大きく書かれた、赤い「の」の字が印象的な「のまんじゅう」(正式名称は「ぎぼまんじゅう」)です。こちらのお店も創業約100年の老舗。一度見たら忘れられない「のまんじゅう」を求めてお店に行くと、「の」の字はオプションだということに気づきます。なぜなら、必ず「『の』を書きますか」と尋ねられるからです。

 こちらのまんじゅうは、基本はなにも書かれていない白いまんじゅうで、白いままだと法事用、熨斗を意味する「の」の字を入れると、祝いごと全般用に使え、オールラウンドに活躍します。創業者の名嘉眞ハルさんのすてきなアイデアです。近年は、受験の時期には「合」、バレンタインデーやホワイトデーには「♡」を入れるなど、遊び心も見え隠れする人気のまんじゅうです。

のまんじゅう

 一見、中華あんまんのように見えるのですが、製法はまったく異なり、皮は小麦粉の生地を生イーストで発酵させているため、ふっくらもちもち食感です。中には甘さ控えめの小豆あんがたっぷり入っており、食べ応え十分!

ぎぼまんじゅう店

 うががった日は朝9時の開店時間に合わせて早めに行ったのですが、すでにお客さんの列ができていました。早いときにはお昼過ぎには売りきれてしまうとか。店主のこだわりは、店頭販売しかしないこと。責任をもってお客さまに手渡ししたいという、真摯な気持ちがうかがえます。その場で「の」を書いてもらえるのも、なんだか縁起がよさそうで、うれしいものです。

<取材協力>
山城まんじゅう:那覇市首里真和志町1-58 電話:098-884-2343
ペーチン屋:那覇市泉崎2-10-14 電話:098-832-0912
ぎぼまんじゅう:那覇市首里久場川町2-109-1 電話:098-884-1764

津波真澄さん
広島県出身、那覇市在住。外資系企業などに勤務し、海外でも生活。15年ほど前に沖縄に移住。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級、インナービューティープランナーほか、食に関する資格を持ち、「沖縄」「環境」「食」の知識や経験をもとに、料理教室を主催。企業やメディアからの依頼でレシピ開発やメニュー監修をするほか、通訳や講演・執筆活動も行っている。美と健康の知識を要するミセスジャパン2019世界大会で第3位(2nd Runner-up)を受賞