落花生を絞ってつくる、もちもちぷるんの沖縄のジーマミー豆腐。なかでも珍しい、落花生を焙煎してつくるジーマミー豆腐があります。今回は、野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級など食に関する資格をもつ津波真澄さんが、3代続くこだわりのジーマミー豆腐を紹介します。
ジーマーミー豆腐は琉球王朝時代から伝わる伝統料理
「ジーマミー」とは、土の中に豆ができる落花生「地豆」を意味しています。 琉球王朝時代(1429-1879)には貴重な食材として扱われ、ジーマミー豆腐は主にハレの日の料理として用いられていました。現在は法事や祝いごとにも登場しますが、スーパーなどで手軽に手に入れることができるようになり、日常の食べ物となっています。県民のみならず、観光客にも人気の一品です。
珍しい焙煎ジーマミー豆腐をつくる「むすび本舗」
通常のジーマミー豆腐は色が白いのですが、今回取材した「むすび本舗」のものは薄い褐色。理由は、落花生を焙煎しているから。その香ばしく濃厚な味は、一度食べたら忘れられない味です。
その特別な製法は、23年前に店を開業した玉城淳子さんが母親から受け継いだもの。元々生ジュース屋として開店しましたが、石垣島出身の母親がつくっていたジーマミー豆腐を紹介したいと思い、店の片隅に少しだけ置いて、要望があれば販売していました。ところが、ほかでは手に入らないそのおいしさに魅了される人が増え続け、需要がうなぎのぼり。生ジュースにかける時間がなくなり、今はジーマミー豆腐が主力商品となっています。
祖母から母へ、母から子へ受け継がれる製法
現在の店主は玉城さんの息子の仲嶺朋史さん。新しい感性でファンを増やし続けています。仲嶺さんは、大手広告企業の子会社で働いていたのですが、母親に頼まれて営業を手伝っているうちに店を継ごうと決心して退職。「私は息子には会社員でいてほしかったんですけどね。でも息子とお嫁さんのおかげでどんどん広まっているので、もう任せています」と話す玉城さんの笑顔に、頼りになる息子への誇りが感じられました。
レトルトにして全国発送できるようにしたり、ラベルをつくったりしたのも、すべて仲嶺さんのアイデアです。
仕込みは4時。人気店の朝は早い
毎日居酒屋などから注文が入るため、お店の開店は11時にもかかわらず、仕込みを始めるのは朝4〜5時。注文日当日につくって配達しています。
作業工程は、豆の焙煎、浸水、攪拌、絞り、そして練り、すべて手作業。朝の作業が、浸水するところから始められるよう、お客さんのピークが過ぎる夕方になると、焙煎作業に取りかかります。一度に焙煎する豆の量は23kg。鍋一杯に入った豆を何度も返しながら、風味良く、焦がさず焙煎するのがおいしさのコツ。焙煎作業が始まると、店内に香ばしい豆の香りが立ち込めて、食欲をそそられます。
最終工程の練りには、寸銅鍋で約1時間かけて行います。力のいる仕事です。そして、できあがったジーマミー豆腐は、冷えると固まって扱いにくくなるため、熱いうちに容器に移します。その数なんと約200個。家庭用の鍋で家族分を練り上げるだけでもかなりの労力なのに、200個分を一度に練る作業は想像を絶します。しかもこの一連の工程を毎日2~3回繰り返すそうです。
コロナの影響で生まれた新たな商品
そんな人気店も、新型コロナの影響で注文が激減し、苦しい時期がありました。そこで生まれたのが、沖縄のソウルフード、タコライスとタコスの販売です。
数か月間試行錯誤を繰り返し、理想の味を完成させました。手間ひまかけて牛ひき肉の臭みをとり、味つけに化学調味料などの添加物を一切使用していないタコライスとタコスは、今やジーマミー豆腐と並んで店の看板商品に。
沖縄のタコスは、フラワートルティーヤ(原材料が小麦粉)を揚げたもので作るのが主流。注文を受けてから皮を揚げ、ひき肉を炒めて仕上げるので、事前に来店時間を伝えて予約するお客さんも多いそうです。
店の外には、テーブルといすが置いてあるので、沖縄に来た際には、のんびりと座って沖縄の味を堪能してはいかがでしょう。
<取材協力>
むすび本舗 久米本店(ニューパーラーむすび)
那覇市久米1-14-3 営業時間11:00-19:00(なくなり次第終了)
日曜定休
電話:098-862-8846
津波真澄さん
広島県出身、那覇市在住。外資系企業などに勤務し、海外でも生活。15年ほど前に沖縄に移住。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級、インナービューティープランナーほか、食に関する資格を持ち、「沖縄」「環境」「食」の知識や経験をもとに、料理教室を主催。企業やメディアからの依頼でレシピ開発やメニュー監修をするほか、通訳や講演・執筆活動も行っている。美と健康の知識を要するミセスジャパン2019世界大会で第3位(2nd Runner-up)を受賞