なめらかなのにもっちもち。吉野の葛を使ったとっておきグルメ

長時間座ってデスクワークをしていると、肩がパンパンになり頭痛がおこることも。そんなつらい肩こりの改善には「クズ」がおすすめと、教えててくれたのは薬膳アテンダントの池田陽子さん。今回は、奈良県のブランドショップ「奈良まほろば館」で見つけた、クズグルメを紹介します。

江戸時代には特産品になった奈良県のクズ

奈良まほろば館
奈良県ブランドショップ「奈良まほろば館」

 筋肉の緊張をやわらげる効果がある「葛」(クズ)はマメ科の植物で、クズの根からとったでんぷんを粉にしたものが「くず粉」。そして、根そのものを乾燥させたものは生薬としても使われています。「葛根湯」でも知られるように、かぜの引きはじめにもおすすめで、頭痛やのどの渇きにも役立ちます。昔から良質なクズの産地として知られるのは奈良県吉野地域。奈良県中部に位置する吉野地域は古来は、クズの自生地。良質な水、寒冷な気候など、クズ粉の精製に適していたことから江戸時代には特産品に。京の料理人たちからも高い評価を受け、クズ粉を使った料理は「吉野仕立て」と呼ばれるようになりました。

 伝統的な吉野のクズ粉づくりはとても手間のかかる作業。厳寒期に葛根を採取して砕き、冷水に何度もさらす「吉野さらし」という方法で精製。不純物をいっさい取り除いた、純白のでんぷんをじっくりと自然乾燥させて仕上げます。きめ細やかなクズ粉は高い透明感とつやがあり、粘り、口当たりに優れ、懐石料理や高級和菓子には欠かせない存在。そんな葛根から採ったクズでんぷんを原料として、奈良県吉野地方およびその周辺地域で製造または加工されたクズ粉は、「吉野本葛」として地域団体商標登録されています。

吉野本葛を使用したクズもちはもっちりなめらか

くず餅
「吉野本葛もち」は409円

 奈良県宇陀市(うだし)・黒川本家は、1615年創業、朝廷にも献上していたという歴史を誇るクズの名店。伝統を守り、当時とほぼ同じ製法でクズ粉づくりをしています。冬場にクズ堀り専門の職人が山奥で掘り起こした葛根を粉砕。水が冷たい早朝、桶に入った井戸水に何度もさらしてから、約2か月かけて自然乾燥させることで、真っ白で結晶のように美しいくず粉に仕上がります。

 黒川本家では、吉野本葛を使ったさまざまな商品がそろっていますが、高い人気を誇るのが「吉野本葛餅」(409円)。

口の中でするっと溶ける
口の中でするっと溶ける

 お皿に出すと、うっとりするほどつややかで品のいい透明感。同梱された黒みつときな粉をかけていただきます。パン! としたハリのある見た目どおり、スプーンを入れるとぶるんと跳ね返すクズもちは、口の中でも、もっちりとした弾力ある食感。けれど、その後にみずみずしくピュアでなめらかに溶けていきます。雑味なく体が喜ぶやさしいおいしさで、蒸し暑い日に、清涼感あふれるおやつとしておすすめです。

まるで弾力あるババロア。香り豊かな胡麻豆腐

胡麻豆腐
「胡麻豆腐」432円

 御所市(ごせし)・井上天極堂(てんぎょくどう)は、1870年の創業以来伝統的な製法でクズ粉を製造、吉野本クズを使った多彩な商品を製造・販売しています。「胡麻豆腐」(432円)は自社製造の吉野本葛にゴマを加えて練り上げた商品。吉野本葛ならではのもっちり感が楽しめます。また、吉野本葛の素材の味をじゃましないという特長から、ゴマの風味もしっかりと堪能できる仕上がり。黒ゴマ、白ゴマがセットになっているので、ふたつの味わいが楽しめます。

ババロアのような食感
ババロアのような食感

 食べてみると、なめらかなのにもっちもち。まるで、弾力のあるババロアのよう。香り豊かで、コクのある濃厚なゴマの味わいが口いっぱいに広がります。1個50グラムと小さいサイズですが、しっかり、どっしりした存在感! 同梱されたみそだれをつけていただくと、さらに重厚な味わいになります。さらに白だしをかけて食べたり、生うにとわさびをのせてしょうゆであえたりして楽しむのもおすすめだそう。

薬膳食材「大和当帰」を使ったヘルシーなくず湯

当帰くず湯
「当帰くず湯」519円

 最近、奈良で注目を集める薬膳食材である「大和当帰」(やまととうき)。その根を乾燥させたものが「当帰」の名前で、生薬として使われています。当帰は血を補って、巡らせる効果が! 貧血、動悸、めまい、冷え改善などによく、とくに婦人科系トラブルに威力を発揮し、「婦人科の良薬」ともいわれています。これまで根の部分のみが生薬として使用されていましたが、平成24年から葉の部分が、医薬品ではなく「非医」扱いとなり、食品として流通可能に。

 大和当帰の葉を使った料理を提供するお店が増え、さまざまな加工品が登場して注目を集めています。大和当帰は、セリ科の多年生植物。葉は、鮮やかな深い緑色でセリやセロリのような香り、パクチーのような独特の味わいがあります。天ぷらやサラダにしたり、和風ハーブとしていろいろな料理のアクセントに使えます。

 吉野郡下市町・吉田屋の「当帰くず湯」(519円)は、大和当帰の粉末と吉野クズ、てんさい糖などを使ったクズ湯。下市町は江戸時代、小石川薬草園から派遣された採薬使・植村左平治が薬草園を開いた、歴史ある「薬草の町」。薬膳プロジェクトも盛んだという町ならではのクズグルメです。

優しい味で飲みやすい
優しい味で飲みやすい!!

 カップに粉末を入れて熱湯を加え、よくかき混ぜれば完成。ほどよくとろんとしたクズ湯からは、さわやかな当帰の香りが広がります。優しい口当たりでほどよい甘味、当帰のオリエンタルな風味が心地よいおいしさ! クズと当帰、ダブルのパワーでこりがゆるみ、ポカポカあたたまる、カラダにうれしいドリンクです。

 楽しみ方いろいろ、カラダにもうれしい奈良県のクズグルメをぜひ楽しんでくださいね。

―[日本全国アンテナショップでゆる薬膳/池田陽子]―

池田陽子さん
薬膳アテンダント、食文化ジャーナリスト、全日本さば連合会広報担当サバジェンヌ。宮崎県生まれ、大阪府育ち。立教大学社会学部を卒業後、広告代理店を経て出版社にて女性誌、ムック、また航空会社にて機内誌などの編集を手がける。カラダとココロの不調は食事で改善できるのでは? という関心から国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。食材を薬膳の観点から紹介する活動にも取り組み、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。趣味は大衆酒場巡りと鉄道旅(乗り鉄)。さばをこよなく愛し、全日本さば連合会にて外交担当「サバジェンヌ」としても活動中。近著に『中年女子のゆる薬膳。』(文化出版局刊)『1日1つで今より良くなる ゆる薬膳。365日』(JTBパブリッシング)ほか、『ゆる薬膳。』(日本文芸社)