まるで「しなる絹糸」奈良名産の三輪そうめんで夏を元気に

暑さが厳しくなるこの時季には、食べるもので体のコンディションを保つのがおすすめ。 薬膳アテンダントの池田陽子さんが、奈良の食の幸がそろう「奈良まほろば館」で買える、夏の体調維持におすすめのグルメをピックアップしてくれました。

「心」(しん)をパワーアップしてくれるのは小麦

奈良まほろば館

 中国伝統医学の「中医学」では、夏の暑さを乗りきるためには、カラダにこもった熱を冷ます食材を取り入れることが大切とされています。おすすめは、キュウリ、ウリ、スイカ。体をクールダウンしてくれるとともに、湿気も払うのでまさに、蒸し暑い日のお助け食材です。

 さらに、「心(しん)」とよばれる臓器に負担がかかりやすいのが夏。心は血脈と血液循環をつかさどる臓器で、ここが弱ると動悸、息切れや心臓トラブルを引き起こしやすくなります。また、心は意識や思考、感情などの精神活動をコントロールする働きもあります。そのため心の弱りは、気分の落ち込み、不眠にもつながるのです。

 そんな夏は心をパワーアップする食材を取り入れることが大切。意外かもしれませんが「小麦」が役立ちます。じつは、小麦は心に作用し、中国では動悸、精神不安や不眠などを解消する生薬としても用いられています。夏の味覚「そうめん」は、薬膳的にも夏に取り入れたいグルメなんです。

12の工程を経て完成する三輪素麺

三輪素麺
奈良県の特産品の三輪素麺

 奈良県を代表する特産品といえば「三輪素麺」。その起源は古く、奈良時代に三輪(奈良県桜井市)で誕生したといわれています。日本最古といわれる大神神社で大神朝臣狭井久佐(おおみわのあそんさいくさ)の二男・穀主(たねぬし)が、飢饉と疫病に悩む民のために祈願。神の啓示にしたがって小麦をまいたところ穂が実り、粉にして糸状の麺=「そうめん」にしたと伝えられているのです。江戸時代に入り、三輪はそうめんの産地として全国に知られるようになりました。お伊勢参りの際に立ち寄った人々がそのおいしさに魅了され、各地に広まり、日本の伝統食になったのです。

「三輪素麺」の大きな特長は、なめらかな口あたりとしっかりとしたコシ。そして時間がたってものびにくい点です。「三輪素麺」は現在も、基本的に伝統的な「手延べ製法」が守り続けられています。伝統的な手延べそうめんは、生地をこね、板切り、油返し、小撚作業、掛け巻作業など、2日がかりで12の工程を経て完成します。麺をひねりながら2本の管に8の字にかけて引き延ばし、数時間の熟成を繰り返すことで小麦粉から精製されるタンパク質・グルテンが網目状に整列、コシが強いそうめんに仕上がります。

「古(ひね)もの」でそうめんを食べる喜びを満喫

三輪素麺
なめらかな口あたりとしっかりとしたコシが特長

 また、完成したそうめんすぐに出荷されるわけではありません。乾麺にしてから木箱に貯蔵して熟成させるのも「三輪素麺」ならではのこだわり。高温多湿な梅雨を超えるまで寝かせてあえて「高温発酵」させることで、歯切れがよくしなやかな弾力が生まれ、味に深みが生まれます。梅雨を2回超えたものは「古(ひね)もの」といわれ、高級品とされています。

 奈良県桜井市・巽製粉は明治10年に初瀬川の水力を利用した製粉所として創業。原料となる小麦粉にこだわり、伝統的な製法を尊重したそうめんづくりを行っています。「麦坐(むぎくら)シリーズ」は、原材料に徹底的にこだわったラインナップ。手延べそうめんに合う小麦を厳選し、その中心部のみを取り出して細かく粉砕した小麦粉を使用。塩はまろやかな口当たりに仕上げるために藻塩、油は酸化しづらくクセがない国産米油を使用しています。「三輪素麺」ならではのコシの強さや、食感を存分に楽しめるそうめんです。

 なかでもおすすめは「三輪素麺 麦坐 ひね」(648円)。前述した梅雨を2回経た「ひねもの」です。温度、湿度を徹底的に管理してじっくり熟成させたそうめんは、まず、なにもつけずにひと口食べると小麦本来の甘味が、じつにまろやかに感じられます。つゆにつけて引き上げると、つややかな美しさ。エッジが際立つ確かなコシ、そしてかむとムチムチした食感。なめらかでつるりとしながらも、躍るような弾力があり、まるで「しなる絹糸」のよう。そうめんを食べる喜びがおもいっきり楽しめる味わいです。

レインボーカラーの映えすぎるそうめんも

みわのにじ
「みわのにじ」(880円)

 奈良まほろば館には、じつに多彩な「三輪素麺」がそろっていますが、ひときわ目を引くのが桜井市・三輪そうめん小西の「みわのにじ」(880円)。レインボーカラーの色鮮やかなそうめんです。三輪そうめん小西は、明治38年に創業。初代から受け継がれてきた伝統の製法を守り、高品質のそうめんをつくり続けています。

みわのにじ
ホームパーティにもぴったり

「みわのにじ」は、虹に見立てた7色のそうめんセット。やわらかな赤、黄色、オレンジ、緑、黄緑、青、紫の色合いはそれぞれ、紅シソ、トマト、ショウガ、ヨモギ、青シソ、ブルーベリー、紫イモの粉末を練り込んで仕上げてあります。カラフルな色合いのそうめんを器に並べると、なんともフォトジェニック! 彩り鮮やかで、夏のホムパにぴったりです。

 もちろん、見た目だけではなく味わいも格別。細目の麺はコシがありキリッとした食感。つるつると心地よく食べたあとに、シソやショウガの風味がほんのり口の中にひろがってさわやかなあと味。野菜と盛りつけて「サラダ麺」風に、ドレッシングで味わうのもおすすめです。

濃厚で華やか! おつまみにもぴったりの奈良漬

きざみ奈良漬
森奈良漬店の「きざみ奈良漬」(238g648円)

 奈良が誇る発酵食品「奈良漬」。1300年もの歴史があるといわれる漬物は白ウリ、キュウリ、スイカ、ナスなどを、塩漬けにしてから、酒粕に漬け込んで仕上げます。

インパクト抜群のパッケージ
インパクト抜群のパッケージ

 奈良には多くの奈良漬を扱うお店がありますが、酒粕に調味料を加えるなど材料の違い、また漬け時間によって味わいはさまざま。甘味がある、塩気が強い、アルコール感が強いなど、製法や材料によって異なり、奈良県民にはそれぞれ「お気に入りのマイ奈良漬」があるのだそう。奈良まほろば館にもさまざまな奈良漬がありますが、今回セレクトしたのは森奈良漬店の「きざみ奈良漬」(230g 648円)。大仏さまの手のひらが描かれたパッケージもインパクト大!

 東大寺南大門前に店を構える森奈良漬店は、明治2年創業。酒粕と塩のみで漬け込んだ、酒精分がきいた本格的な奈良漬が高い人気を誇ります。ナス、キュウリ、スイカ、ニンジン、セロリ、スモモなどさまざまな野菜を使った商品がそろいますが、素材ごとに漬ける時間、酒粕の量、配分も変えて素材の持ち味を最大限にいかして仕上げています。

 きざみ奈良漬は、刻んだウリとキュウリを洗わずに、そのまま酒粕とともに食べられるタイプの奈良漬です。その味わいは、きわめて芳醇。たとえは不思議かもしれませんが「ラムレーズン」のような濃厚で華やかなおいしさです。コクのある酒粕をまとった野菜が、みずみずしさを保っていることにもびっくり。ご飯はもちろんですが、おつまみにもぴったり。焼酎、ブランデーなどとの相性もばっちりバッチリです。チーズと組み合わせたり、刻んでポテトサラダに入れたりしてもおいしくいただけます。

―[日本全国アンテナショップでゆる薬膳/池田陽子]―

池田陽子さん
薬膳アテンダント、食文化ジャーナリスト、全日本さば連合会広報担当サバジェンヌ。宮崎県生まれ、大阪府育ち。立教大学社会学部を卒業後、広告代理店を経て出版社にて女性誌、ムック、また航空会社にて機内誌などの編集を手がける。カラダとココロの不調は食事で改善できるのでは? という関心から国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。食材を薬膳の観点から紹介する活動にも取り組み、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。趣味は大衆酒場巡りと鉄道旅(乗り鉄)。さばをこよなく愛し、全日本さば連合会にて外交担当「サバジェンヌ」としても活動中。近著に『中年女子のゆる薬膳。』(文化出版局刊)『1日1つで今より良くなる ゆる薬膳。365日』(JTBパブリッシング)ほか、『ゆる薬膳。』(日本文芸社)