身はしっかり脂ののったスペシャルな「気仙沼の戻りカツオ」を食べてみた

「今年の戻りカツオがうまい!」。ご当地グルメ研究家・大村椿さんが2019年たびたび耳にしたセリフです。
 カツオの水揚げ量日本一の気仙沼で、実際に食べてみたところ、その美味しさにびっくり!

斉吉戻り鰹入り刺身
「鼎・斉吉」の戻り鰹入りの刺身

程よく甘く脂ののった戻りカツオ

 気仙沼では、カツオ、サンマ、サメ(フカヒレ)などの水揚げはどれも全国トップレベルです。カキやホタテの養殖も行われており、美味しい魚介類に恵まれたこの街を訪れるたびに、何を食べようか頭を悩ませます。そんな中で、2019年は驚くほど多くの人から同じことを言われました。

「戻りカツオ食べた?」

 そうなんです。どうやら2019年の戻りカツオはスペシャルらしい……。

 カツオの旬は春と秋。温かい水温を好むカツオは、春は「初カツオ」と呼ばれ、フィリピン沖から黒潮にのって群れで北上します。水温の低くなる三陸沖で南下をはじめ、北の海でたっぷりエサを食べて栄養を蓄えたカツオが、脂がのった「戻りカツオ」です。

 東京にいながらにして、「戻りカツオが美味しいらしい」「地元の人がみんなSNSに写真上げてる」という情報を耳にしていました。

 気仙沼に到着してまず向かったのは「鼎・斉吉(かなえ・さいきち)」。水産加工会社で、東京・日本橋三越にも支店を構える「斉吉商店」の直営店です。看板商品は、中骨まで柔らかく炊き上げた『金のさんま』。こちらの店舗では食事スペースがあるので、早速ランチをいただきます。メニューにあった「さんま七輪焼定食」にしようかなぁ……と思っていたのですが、女将の斉藤和枝さんに開口一番、「今着いたの?戻りカツオ食べた?」と言われたのです。やはり噂は本当でした(笑)

 斉吉商店は、東日本大震災のとき、社員の1人が『金のさんま』の「秘伝のたれ」を持って保冷車で逃げようとしたところ、車ごと津波に流されてしまいました。彼は何とか自力で脱出し、後日、瓦礫の中から「たれ」の入ったリュックを発見。おかげで現在もこの「たれ」を継ぎ足しながら『金のさんま』が炊かれている……というエピソードがあります。つまりこちらはサンマの達人なのですが、それでも「戻りカツオ」が真っ先に出てくるくらい評判のようです。

「七輪焼の定食には戻りカツオのお刺身も付いてます。今年は本当に美味しいですよ」と女将さん。
 そこまで言われたら食べたいと思うのが人の心。期待に胸を膨らまし、外で炭火を起こしながらサンマを焼くご主人をチラチラ見ながら待つことに。その間に運ばれてきた小鉢たち。さっそく戻りカツオのお刺身をいただきます。

 なんだこれ。めちゃくちゃ美味しい……!噛むと身はしっとりと柔らかく、程よく甘く脂がのっていて、口の中ですーっと消えていく。カツオは生臭さが気になるときがありますが、そんなものは皆無。「食べられて良かった」と心の底から思いました。

 もちろん、ご主人が丁寧に焼いてくれたピカピカのサンマも、とても美味しかったです。今秋はサンマが全国的に不漁で、ニュースにもなっていました。この日、ご主人は「ようやく大きいのが獲れるようになったけど、水揚げはまだ例年の2割程度(11月上旬時点)でね。でも、うちはちゃんと確保してますよ」と力強いお答えで安心しました。

斉吉七輪焼きサンマ
炭火を使って丁寧にサンマを焼き上げていく

 この日は、地元の人たちとお話する機会が何度となくあったのですが、皆さんに「戻りカツオ食べた?」と聞かれました。驚くべき「戻りカツオフィーバー」です。

 翌日はお昼ご飯を食べるため、2019年7月にオープンしたばかりのトレーラーハウスの商店街「みしおね横丁」へ。鶴亀食堂の真新しいのれんをくぐると、スタッフの小野寺紀子さんに「戻りカツオもう食べた?今年は美味しいわよ」と早々に言われました(笑)

 カウンターだけの店内の奥に、漁師さんが数人で手羽先をつまみにビールを飲んだり、定食を勢いよくかきこむ男性の姿が見えました。券売機の横には「今日のカツオ」という看板。この日は、宮崎船の十八号清龍丸と竜喜丸のカツオだそうです。このように船の名前を毎日記してあると、全国から漁船がやって来るのが実感できます。

2020年のカツオにも期待したい

 昨日のカツオがあまりにも美味しく、もっと食べたい欲にかられていたので、日替わり定食B「戻りカツオの刺身」と決意を固めて券売機へ。すると、キッチンの中から、「あら、カツオ終わっちゃった」と小野寺さんの声が。なんと目の前で売り切れ!!!!昨日のカツオの味を思い出していたところだったので、動揺を隠せませんでしたが、ここは大人なのでほかの人に譲りましょう。再び券売機と向き合ってみると、「メカジキの煮付け」の文字が。「メカか。うん、気仙沼らしくていいじゃない」とボタンを押しました。フカヒレやサンマに隠れてご存知ない方も多いのですが、気仙沼が誇る美味しい魚のひとつがメカジキで、実は水揚げも日本一です。地元では「メカ」と呼ばれ、お刺身や煮付けなどにして日常的に食べられています。

鶴亀メカジキ煮付け
気仙沼名物のメカジキを煮付けに

 結果、この選択は正解!秋から冬に水揚げされるメカジキは脂がしっかりのっています。甘くテリテリのメカジキの煮付けはまるで豚の角煮!口の中にじゅわっと旨味が広がり、べらぼうに美味しい。我慢ならず生ビールに手を出しました。これは白米にも合いますが、ビールとも最強の組み合わせ。

 そうこうするうちに、ギリギリでオーダーできた仲間の1人がカツオのお刺身をシェアしてくれました。食べてみると、今日もやっぱり震える美味しさ。栄養をたっぷり蓄えた戻りカツオは、柔らかい身に上品な脂があります。

 カウンターの中から、小野寺さんが「今年は最高でしょ?こっちに住んでても、“今年は戻りカツオ食べないまま終わっちゃったねぇ”なんて年もあるから」と笑っていました。ああ、宮崎船の漁師さんたち、気仙沼で水揚げしてくれてありがとうございます!

 2019年は初カツオの時期の水揚げが例年にないほど少なかったのですが、夏以降は一気に巻き返して豊漁になったおかげで、23年連続日本一の座に輝きました。しかし残念ながら、2019年のカツオの水揚げは11月でほぼ終了。はたして、2020年はあの脂ノリノリのスペシャルな戻りカツオに出会えるのでしょうか。美味しいカツオが再び水揚げされるよう、祈るしかありません。

鶴亀食堂のれん

<取材・文/大村 椿>

テレビ番組リサーチャー・大村 椿さん
香川県生まれ、徳島県育ち。2007年よりフリーランスになり、2008年から地方の食や習慣などを紹介する番組に携わる。その後、グルメ、地域ネタを得意とするようになり、「ご当地グルメ研究家」として食に関する活動も行っている