せんべいなのにもっちり、むにょむにょ。岩手の「生せんべい」は不思議な食感

世界44か国を旅した俳優の藤原絵里さんが、世界中どこにもない食べものとして「山田の生せんべい」を紹介します。せんべいといえども、口に入れるともっちり、むにょむにょ。クレープのように具を巻いて食べることもある不思議なせんべいです。

真っ黒で大きな見た目と甘い風味のギャップ

せんべいを持つ筆者

 岩手県のおせんべいといえば、「南部せんべい」が思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。小麦粉と水を原料に「ぱりっ」と焼かれた食感はたまりません。

 今回ご紹介する山田せんべいは、その真逆。もっちり、むにょっとした食感が特徴です。色は真っ黒で、大人の手のひらより大きい見た目も印象的。一度見たら忘れられません。

山田せんべい、そのままの状態

 原材料は、岩手県産の米粉、ゴマ、三温糖とシンプル。噛めば噛むほどお米の甘さとゴマの風味が口いっぱいに広がります。筆者が初めて食べたときには、真っ黒な見た目とやさしいお味のギャップに驚かされました。

凶作ときの保存食として生まれた

山田せんべいの地元の海

 岩手県下閉伊郡(しもへいぐん)山田町は、岩手県の海側、三陸海岸のちょうど真ん中に位置しています。海と山、自然が豊かな美しい町ですが、江戸時代、山田地方は毎年のように冷害凶作が続き、お百姓さんも村人もとても困っていたそう。

 そんなとき、駄菓子屋さんを営んでいたおばあさんの夢枕にお不動様が立ち、「米、ゴマ、クルミ、きな粉などを混ぜたもちをつくり、飢餓に備えよ」と告げました。夢からさめたおばあさんは、早速、告げられた材料でおもちをつくってみたのですが、なかなか保存食にはなりません。

 試行錯誤を繰り返し、薄く伸ばして、天日に干して、乾かして店頭に並べたところ、真っ黒な見た目はお不動様そっくりで、かめばかむほど味わい深いのは山田町の特産のするめと同じだと大人気となったそう。それから「山田せんべい」と呼ばれ、町中のお店で売られるようになり、お不動様のお祭りにはなくてはならない風物詩となりました。

 現在、生せんべいをつくっている工場は、県内にたった2か所。今も、江戸時代から続く古くからの手法でつくっています。その工場も2011年の東日本大震災の津波の影響で全壊してしまいました。
 しかし、岩手県内外の山田せんべいファンから「山田せんべい復活支援プロジェクト」が起ち上がり、義援金が集まり、1年2か月という異例の速さで復活しました。「復興のシンボル」と呼ばれ、復興前よりも大人気となっているそうです。

焼いても温めても楽しめるせんべい

おりたためる生せんべい

 独特の歯ごたえを味わうだけでなく、あえて焼いたり、ほかの食材と組み合わせるなどアレンジしてもおいしい生せんべい。筆者が普段からしている楽しみ方をご紹介します。保存食として誕生したせんべいですが、おやつに、おつまみに、あっという間になくなりますよ。

トースターで焼いてパリッと

・トースターで焼いて
パリッとした食感でまったく別の食べもののように変身します。そのまま食べるよりゴマの風味は減りますが、甘さが増します。

レンジでチンしてもあたたかくておいしい

・レンジでチンして
生せんべい独特の味わいそのままに、あたたかいので冬の寒い日におすすめです。

きなこをつけて

・きなこをつけて
お不動様のお告げにあったようにきなこもつけて。筆者はココアをはさんでいただくのも好きです。もちもちのクレープ生地のような感じで、あんこやホイップクリーム、抹茶アイスなどを挟んでもおいしく、手で持って食べられていい感じです。

 みなさまも、山田の生せんべい、見かけたら絶対に一度食べてみてください。

<取材・文/藤原絵里>
<取材協力/太田幸商店、山田せんべい復興支援プロジェクトFight YAMASEN!>

藤原絵里さん
俳優。岩手県盛岡市出身。23年間、岩手県で生まれ育つ。短大を卒業し、地元の温泉旅館の仲居に。着つけや日本文化に興味をもつ。その後、カタール航空のキャビンアテンダントへ転職。約4年、国際線に乗務し世界44か国を訪れる。海外での経験を通して、日本のよさ、岩手のよさを再認識する。現在は、女優として、映画やミュージカルに出演。代表作は速水萌巴監督『クシナ』、榊英雄監督『生きる街』など、多数。日本や東北の魅力を伝えられる作品にかかわっていきたいと思っている。

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