―[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第54回:池田麻里子アナ]―
全国47都道府県で活躍する女子アナたちがご当地の特産品、グルメ、観光、文化など地方の魅力をお届け。今回は沖縄に移住した池田麻里子アナが、知られざる日本一のアセローラ生産者をレポートします。
沖縄はアセローラを自然栽培できる北限地
沖縄のフルーツといえばパイナップルやマンゴー、パッションフルーツは思い浮かびましたが、アセローラが栽培されていることは、沖縄へ移住するまで知りませんでした。中米はカリブ海にあるプエルトリコが原産で、現地ではアセロラではなくアセローラと発音するそうです。
今が旬のこの果実、日本で自然栽培できるのは唯一、沖縄県だけ。日本国内での生産量シェアは9割で、1割は鹿児島や岐阜、宮城県でハウス栽培されていますが、屋外での自然栽培の北限は沖縄なんだそうです。
アセローラと聞いて赤いジュースは思い浮かんでも、生の実を目にしたことがある人は少ないと思います。というのも、アセローラの実は摘んでから3日程度しかもたないため、市場に流通しないのです。市場に出回るのは、おもにジャムやセリー、ジュースなどの加工品や冷凍した実。
そんなアセローラ、1粒に含まれるビタミンはレモンの4倍。それにもかかわらず、収穫したての実は酸っぱさよりもさわやかな甘味があり、まるでサクランボのようでとてもおいしいんです。2歳の娘とお友達も、その朝収穫されたアセローラをパクパク食べていました。
アセローラを栽培するために東奔西走した創業者
アセローラは戦後復興のための産業となるようハワイから輸入した8つの植物のひとつで、8つのうちアセローラ以外は沖縄でも生産が簡単に進むのに対して、アセローラの生育・生産は非常に難しく、最後までだれも手を出さずに放置されていたといいます。中米原産のアセローラのほとんどは赤道付近の地域での栽培のため、沖縄で栽培に至るまでには数々の試練があったそうです。
そこに目をつけたのが沖縄県北部、本部町にある農業生産法人株式会社アセローラフレッシュの創業者で、当時は琉球大学で農業を学んでいた、今は亡き並里康文さんでした。同じく琉球大学在学中に出会って学生結婚をし、今も現役で活躍される奥様の哲子さん(現会長・写真上)と、アセローラを沖縄で栽培するために日々、研究を繰り返していました。
デートは決まってアセローラのハウスだったそう。康文さんの卒業論文は、もちろんアセローラについて。日本での栽培が未知だったため、当時、存在する論文はすべて英文のものだったそうです。
そこで、ブラジル生まれで英語も堪能だった哲子さんがすべて日本語へと翻訳し、それらをもとに卒業論文を完成させたとのこと。1982年にアセローラを康文さんの地元の本部町へ持ち込み、将来アセローラを流通させるための勉強にと、夫婦で東京へ渡り、康文さんは流通の企業で働きます。
1985年に本部町に帰りましたが、そこからまた厳しい試練が待っていました。一軒一軒、アセローラの生産に携わってくれる農家を探して回りましたが、「そんな前例のない果物を育てられるのか? 儲かるのか?」と門前払いされたそうです。4年かけて200軒の農家を回り、ようやく思いが伝わって、熱烈に支持してくれる1組の農家さんに出会ったのが1989年。そしてアセローラフレッシュを設立しました。
そこからもまた試練です。手探りのなかアセローラの栽培に汗を流しますが、台風に見舞われ手塩にかけて育ててきたアセローラが壊滅することもしばしば。協力農家さんに何度も投げ出されそうになったそうですが、並里夫婦は台風のなか農家さんに足を運び頭を下げたとのこと。
今では協力農家さんも本部町内をはじめ県内に20軒まで増え、日本でのアセローラ生産のシェアが90%にものぼる沖縄ですが、並里夫妻の並々ならぬ思いと努力がなければ、そもそも日本でアセローラが栽培されることはなかったでしょう。
アセローラの地元認知度は100%
創業35年となるアセローラフレッシュですが、これまで尽力してきたアセローラの普及から、今後は認知度を上げるための活動に移行しようとしています。2019年からアセローラフレッシュの代表取締役社長となった並里夫婦の次男、康次郎さんが町内の小中学校で講演を行ったり、子どもたちの社会体験や食育の場として、アセローラフレッシュでの工場見学やアセローラ摘みなどを実施。
1999年には、本部町の町役場や商工会、観光協会、熱帯果樹研究会(アセローラフレッシュと契約している農家さんたちで1989年に発足)などが、アセローラの認知度を高めて町の活性化を図ろうという目的で、収穫が始まる5月12日をアセローラの日に設定。毎年、本部町内の小中学校に1500食を超えるアセローラゼリーを無償配布しています。
本部町で生産されているアセローラが製品になるまでを思い巡らせてもらうなど、食育を兼ねての無償配布。こうした努力が実って、今では地元、本部町内ではアセローラの認知度は100%になるとのこと。康次郎社長は今後について、「アセローラフレッシュは家業ではなく、地元の若者たちが将来、働きたくなるような100年企業を目指したい」と語ります。
アセローラまつりも開催
5月13日、アセローラの認知度を上げるための一大イベントが、本部町の「もとぶ文化交流センター」で開催されました。その名も「アセローラまつり」。5月12日のアセローラの日にちなんでアセローラフレッシュが単独開催した、はじめての大きなイベントでした。
会場はアセローラカラーの赤で彩られ、食事処として出店したキッチンカーも、この日のためにアセローラとコラボした特別メニューを提供していました。子どもたちは無料で参加できる数十種類ものゲームでクリアするとアセローラフレッシュの商品券がもらえたり、会場内に設置された宝箱を見つけて中のアセローラに関するクイズに答えていくと豪華景品がもらえたり、ステージでは沖縄のローカル戦隊「琉神マブヤー」のショーや伝統芸能が次から次へと繰り広げられたりと、大きな盛り上がりを見せていました。
アセローラ製品としては、2015年に「第6回全国ご当地おやつランキング」でグランプリを獲得した「アセローラフローズン」を筆頭に、ジャムやゼリー、旬の時季しか手に入らないコンポートなども並んでいました。
この日の目玉は、初めてお披露目されたアセローラビールです。名護市の地酒企業、ヘリオス酒造さんとコラボしてビンビールとして登場。さらにはこの日のみ、限定樽出しアセローラビールが登場しました。
この日しかいただけない樽から直接注がれるアセローラビールの味は格別で、つい何杯もおかわりしてしまいました。どんな味か気になりますよね? マンゴービアやレッドアイなどのビールカクテルを思い浮かべると想像しやすいかもしれません。
甘酸っぱいアセローラとビールの相性は抜群で、蒸し暑い沖縄の気候にあって、さらさらとビタミンを補給しながら何杯でも飲めるおいしい仕上がりです。この日は約800人もの来場者が集い、アセローラに酔いしれました。
アセローラの未来を委ねる若者たち
沖縄のアセローラは今後、後継者を増やすことが課題です。人手の多い年と少ない年では生産量に大きく響くのが目に見えているそうです。
アセローラフレッシュでは若者向けに、畑を耕したり農業に触れるイベントを随時、開催しています。私も何回か参加しましたが、畑仕事をしたあと、みんなで飲むアセローラビール(製品化されたものではなく、アセローラの原液とビールを混ぜて飲むもの)は格別です。こんなにおいしいアセローラが今後も安定的に供給されるためにも、県内外問わず、ぜひともアセローラを好きになってくれる人がいればいいなと感じます。
そんな本部町に2022年1月、ひとりの救世主が熊本からアセローラフレッシュに就職するためにやってきました。古場秀徳さん、31歳です(写真上)。現在アセローラフレッシュのメンバーは8人。そのなかのひとりとして活躍中です。
前職では半導体関係の大企業で全国を日々駆け回っていたそうですが、そろそろ拠点を決めて生活しようと考えていたところ、アセローラフレッシュに出合ったということです。
アセローラフレッシュの、畑や農業と教育を絡めて活動する理念に共感。20代の頃はオーストラリアにワーキングホリデーで3年間滞在し、現地の畑でバナナやサツマイモ、ズッキーニやカプシカン(パプリカ)、コーヒーやガーリックなど多種に渡り生産・農業に携わった経験もあり、現在はアセローラの畑をしっかり任せられています。
古場さんは「もっとアセローラフレッシュで働く人が増え、協力農家さんたちとも力を合わせて、放置されている畑を復活させたり、農業が好きな人を増やしていきたい」と話します。
だれもが目にしたり、耳にしたことがあるアセローラですが、沖縄県本部町の夫婦の地道な努力がなければ日本で普及することはなかった果実です。これから梅雨が明けて夏を迎え、アセローラ収穫の最盛期は11月頃まで続きます。夏の旅行で沖縄を訪れる予定がある方は、ぜひ赤くておいしいアセローラにも注目してください。
<取材・文・撮影/池田麻里子>
池田麻里子さん
東京・埼玉・宮崎・沖縄を担当。テレビ宮崎の「スーパーニュース」でスポーツキャスターを務め、J:COMデイリーニュース担当、ネットニュースなどにも出演。現在はFMやんばるにてパーソナリティーを務める傍、話し方・見せ方・聴き方などのコミュニケーション力向上の講座を開き、講師も務めている。
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地方創生女子アナ47
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