どちらも絶品。フルーツソフト屋と沖縄そば屋が同居するうるま市のお店

独自の食文化が豊かな沖縄県はおいしいものにあふれています。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級など食に関する資格を持つ津波真澄さんが、今回は特別な思いが込められたソフトクリームと沖縄そばを紹介します。

おいしい旬の果物の味を届けたい

店内

 沖縄県中部に位置するうるま市にある「帆掛きそば」/「Todays Soft Serve」。県産の果物を惜しみなく使ったこだわりのソフトクリーム店と、自ら釣った魚をさばき、日替わりの魚だしをブレンドしたスープが自慢の沖縄そば屋が同居している興味深いお店です。

 最初に紹介するのはソフトクリーム店の「Todays Soft Serve」。カウンターに掲げられている手書きのメニューには、農園の名前が書かれています。しかし、必ずしもブランドフルーツを栽培する有名な農園というわけではなく、まだ世の中に出てきていない若手の農園も名を連ねています。そこには、店長の平原晶(あきら)さんの思いが込められていました。

 2018年に、とあるミッションのために沖縄に移り住んだ平原さんは、業務上、多くの生産者さんと関わることに。そして同時に、味は同じなのに売れない規格外の果物や、完熟して品下げになる果物を見てきました。いちばんおいしい完熟の果物が販売できないなんて!

 日々、そのような果物を見ていくうちに、それらを救って活用したい、生産者さんが手間ひまかけて育てた、いちばんおいしい旬の果物を、多くの人に食べてほしい、という思いが募ってきたそうです。

果物本来の味をいかすソフトクリーム

フルーツソフトクリーム
山内ファームの島バナナソフトクリーム(500円税込)

 そこで思いついたのが、ソフトクリーム。巷では、輸入原料や香料でつくる「映える」アイスが人気ですが、平原さんは沖縄県産の果物のみを使用することにこだわっています。

 合わせるのは、果物の味を邪魔しない、厳選した北海道の生乳。素材の良さを生かすため、材料はこの2つのみ。使う果物は、店頭に並べてもらえない規格外や完熟のもの、そして、十分おいしいのに、農業を始めたばかりで、まだ市場に出荷する自信がない若手農園の果物です。

 今回は、人気No.1の島バナナを注文。注文を受けてからつくるためソフトクリームは新鮮そのもの。余計な甘味を一切加えていないので、島バナナの上品な甘さが口いっぱいに広がります。

 リーズナブルに、おいしい沖縄の果物を食べてほしいという、平原さんの思いが詰まったフレッシュなソフトクリーム。沖縄に来たら、ぜひご賞味ください。

釣った魚でだしをとる沖縄そば

サバニ
店内中央に置かれたサバニ

 さて、ソフトクリームのオブジェの横に、で~んと構えているのは、沖縄の伝統的な木造舟「サバニ(帆掛け舟)」。じつは平原さんのソフトクリーム店は、「帆掛き(ふーかき)そば」という沖縄そば屋のなかにあります。「帆掛き」とは「帆掛け舟の帆」のこと。こちらの沖縄そばも他店と一線を画しているので、続いて紹介しましょう。

 こちらの店では日替わりでそばつゆのだしが変わります。釣り好きの店主、前當(まえとう)慎也さんが釣った魚で、その日のだしが決まるのです。

 もともと、はちみつ屋の店長だった前當さんは、店舗の移転をきっかけに脱サラ。さて自分になにができるだろう、と考えたところ、子どもの頃から釣りが好きで、その魚からつくったスープがとてもおいしく、祖母にもほめられていたことを思い出し、沖縄そばに応用しようと思いついたそうです。友人のバーに来るお客様に何度も試食をお願いし、試行錯誤の末、今の味にたどり着きました。

「沖縄そばの基本のだしに、魚のだしを加えると、そこに魔法がかかるんです。それが楽しくて仕方がない。なので、一度と言わず、何度も通って味のバリエーションを楽しんでほしい」と語る前當さんの無邪気な笑顔が印象的でした。

うま味いっぱいの2種のそばが自慢

帆掛きそば
帆掛きそば・島麦かなさん使用・並(1000円税込)、じゅーしー(250円税込)。そばは、ちぢれ麺か島麦かなさん使用、並か大を選ぶ

 店名のついた「帆掛きそば」。沖縄そばだしの基本である豚、カツオ、昆布に日替わりの鮮魚を加えた自慢のだし汁に、県産ブランド小麦の島麦かなさんを使用した特製の生麺(麺は照喜名製麺所のちぢれ麺も選べます)、トッピングに大きな豚肉がのっており、ボリューム満点。自家製ジーマーミー豆腐がサービスでついてくるのもうれしいです。おいしそうだったので、沖縄風炊き込みご飯のじゅーしーも追加注文しました。

海風そば
海風そば・島麦かなさん使用・並(1000円税込)

 お肉を食べない方のためにつくったという「海風(うみかじ)そば」。アサリ、カツオ、昆布、日替わりの鮮魚を使った、うま味が凝縮されただしです。上にはアサリが所狭しとトッピングされています。ずっと飲んでいたい衝動に駆られるほど、言葉どおりうま味が凝縮されただしで、海鮮好きにはたまらない一品です。

 お店で出している沖縄そばは以上2種類のみ。増やそうと思えば増やせるけれど、つくる効率とフードロス削減のため、これからもこのスタイルを続けるそう。

 だしをとった後の魚も無駄にせず、身をほぐし、お酒と塩だけで空炒りしたそぼろを載せた「魚のそぼろごはん」も人気です。

外観

 旬の果物を存分に味わえるソフトクリームと日替わりのだし汁で食べる沖縄そば。次の沖縄旅行では、ぜひこの組み合わせを楽しんでみませんか。

<取材・文>津波真澄

津波真澄さん
広島県出身、那覇市在住。外資系企業などに勤務し、海外でも生活。15年ほど前に沖縄に移住。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級、インナービューティープランナーほか、食に関する資格を持ち、「沖縄」「環境」「食」の知識や経験をもとに、料理教室を主催。企業やメディアからの依頼でレシピ開発やメニュー監修をするほか、通訳や講演・執筆活動も行っている。美と健康の知識を要するミセスジャパン2019世界大会で第3位(2nd Runner-up)を受賞