ご飯もラーメンも冷やしておいしく。残暑を乗りきる山形県の夏グルメ

今年は全国的に気温が上昇し、暑い日が続いています。酷暑で話題になる地方のひとつ、山形県山形市では、独自の冷やしグルメが発達しているそう。ご当地グルメ研究家の大村椿さんがリポートしてくれました。

日本一暑い町のひんやりご飯のおとも

ごはんに氷水をかけて食べる

 毎年毎年「連日の猛暑で」という言葉がニュースなどで飛び交いますが、東北地方はなんとなく涼しそうなイメージがあります。しかし山形市は、昭和8年(1933年)7月25日に40.8℃を記録しており、その後、2007年まで74年間も日本最高気温を保持していました。四方を山に囲まれた盆地のため、フェーン現象が起きやすい地理環境なのだそうです。

 そんな日本一暑い町・山形に欠かせないのが冷やしグルメ。昔から定番の夏の料理や不思議な料理がたくさんありました。

 まずは、ご飯に水をかけて食べる、という衝撃の料理(?)。だれかが悪ふざけをしたわけではなく、おじいちゃん、おばあちゃん世代が子どもの頃から食べられています。「水かけご飯」「水まま」「冷やしまま」などと呼ばれているそう。

 炊きたてではなく、残った冷やご飯を使います。ポイントはご飯を水で洗って余分なぬめりを流すこと。もちろん水道水で大丈夫です。そこに冷たい水をかけて、後述の「だし」や漬物、佃煮などと一緒に食べると、サラサラ食感の冷たいお茶漬け風になります。

山形のだし

 ご飯のおともには、夏野菜と薬味を刻んであえて味つけし、冷やしていただく「だし」があります。夏野菜は水分が多いので、食欲が落ちがちな時季でも口にしやすいです。庭の片隅で夏野菜を栽培している家庭も多く、サッと取ってきて、刻んでつくる、というのが日常だそうです。

 おもに、キュウリ、ナス、青ジソ、ミョウガを刻み、麺つゆやだしじょうゆで味を調えるだけ。家庭によりつくり方は異なりますが、刻み昆布や鰹節を加えると、うま味がアップします。
 お子さんがいれば枝豆、トウモロコシを加えたり、オクラやヤマイモでネバネバに。ショウガや青唐辛子を加えてピリッと大人の味もいいですね。私が山形の人から習ったレシピは、タマネギ入りでシャキシャキ感があります。

山形市はラーメンも冷たい麺王国

冷やしラーメン

 冷やし中華のスープバージョンではありません。見た目は熱いラーメンとほぼ同じ。でも麺もスープも冷たくて、丼の中に氷が入ることも。最近できたものではなく、昔から食べられているメニューです。

 山形県は全国でもトップクラスの麺王国。そば屋がラーメン(中華そば)を提供することも多く、自家製麺率も高いエリアです。もともと家庭で蕎麦を打つ習慣があったため、外食ではそばよりラーメンが好まれ、ラーメンの外食費用は日本一です。

 冷やしラーメンの元祖のお店も元はそば屋でした。暑い夏にお客様から「冷たいラーメンが食べてみたい」という声があがり、1年ほど試行錯誤した後の昭和27(1952)年に誕生したそうです。現在は県内のさまざまなお店で楽しめ、お取り寄せもできます。

鳥そば

 山形県の冷たい麺はラーメンだけじゃありません。山形県のほぼ中央に位置する河北町(かほくちょう)発祥の「冷たい肉そば」があります。卵を産み終えた廃鶏を使うのが特徴です。鶏だしとしょうゆベースの甘しょっぱいスープに、具は鶏のスライスと小口ネギ。コリコリした肉の食感とコシが強めの田舎そばがよく合います。

 発祥は諸説ありますが、戦前までさかのぼります。当時、蕎麦屋で馬肉の煮込みをつまみにしてお酒を飲んでいた客が多く、〆の蕎麦を食べるときに、煮込みの残りをかけるとおいしいと評判になったそう。その後の戦争で物資が不足するなか、手軽な鶏肉に変わっていったといわれています。

 温かい肉そばもあるのですが、地元では真冬でも冷たい肉そばが食べられています。また、蕎麦の代わりに中華麺を使った「肉中華(鶏中華)」も人気で、いろいろなお店で提供されており、そちらもおすすめです。

出荷数トップクラスの尾花沢スイカでミネラル補給

尾花沢すいか

 夏の果物として定番のスイカは、山形県は出荷数が全国でトップクラスです。熊本県、千葉県に次ぐ全国第3位の生産量を誇り、尾花沢市周辺で栽培されているものは8月に出荷のピークを迎えます。昭和初期から栽培されており、日中は暑い山形も夜間は比較的涼しいため、寒暖差によって甘いスイカになるとされています。

 しっかり冷やしたスイカは清涼感がありますよね。それだけでなく、汗で流れ出てしまう水分とミネラルの補給にも最適。昔は甘味を引き立たせるため、塩を振って食べることも多かったのですが、現在のスイカは甘味が強いので、そういう人も少なくなりました。水分と同時に塩分を補給するという意味では、たまには試してみるのもいいかもしれません。

 食だけでなく、夏期限定の「冷やしシャンプー」なる文化もあります。暑くなってくると「冷やし中華はじめました」のごとく、「冷やしシャンプーはじめました」とポスターやノボリが理容室に出現します。1990年後半に山形市の理容師さんが考案しました。「冷やす」を目的としているので、清涼感のあるメンソール系のシャンプーをさらに冷蔵庫でキンキンに冷やして髪を洗ってくれます。

 このように、昔から独自の冷やし文化が発達し、定着している山形県。ほかの地域もマネできそうなものがありそうです。全国的にまだまだ暑い日は続きそうですが、夏バテに気をつけて、残暑を乗りきっていきましょう。

<取材・文/大村 椿>

テレビ番組リサーチャー・大村 椿
香川県生まれ、徳島県育ち。2007年よりフリーランスになり、2008年から地方の食や習慣などを紹介する番組に携わる。その後、グルメ、地域ネタを得意とするようになり、「ご当地グルメ研究家」として食に関する活動も行っている。