―[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第59回:池田麻里子アナ(沖縄県)]―
全国47都道府県で活躍する女子アナたちがご当地の特産品、グルメ、観光、文化など地方の魅力をお届け。今回は沖縄県北部に移住した池田麻里子アナが、泡盛の魅力とともに、100年ぶりに復活した「イムゲー」についてリポートします。
黒麹菌でつくるのが泡盛の特徴
沖縄県内にはたくさんの泡盛酒造所があり、研究に研究を重ねてさまざまな銘柄を生み出しています。泡盛の名前は知っている、飲んだことはあるという方も、焼酎となにが違うのか、なぜ沖縄独自の酒なのかなど、説明できる人は多くないのではないでしょうか。筆者もそのひとりです。
そこで今回、沖縄県北部今帰仁村にある創業76年の泡盛醸造所、今帰仁酒造(なきじんしゅぞう)に伺いました。
泡盛の最大の特徴は、世界的にも類がないという「黒麹菌」を使用している点だそうです。黒麹菌の特徴は、クエン酸を大量につくり出すこと。つまり、製造過程でできるモロミは、黒麹菌のおかげで非常に酸度が高くなります。そのため、雑菌の繁殖がかなり抑えられ、気温や湿度の高い沖縄でも腐敗させることなく、良質な泡盛をつくることができるのだそうです。
まさに沖縄のためのお酒ですね! ちなみに清酒には黄麹菌、焼酎には白麹菌が使われるのが一般的だそうです。
焼酎とのいちばんの違いは、モロミの仕込み方法だそうです。モロミとは酒やしょうゆ、みそなどをつくる過程で原料が発酵してできるやわらかい固形物のことです。
泡盛は、主原料であるタイ米を麹に加工し、そこに水と酵母を混ぜてモロミをつくり、2週間ほど発酵させて蒸留します。
焼酎は、米麹、水、酵母を混ぜて一次モロミをつくって1週間ほど発酵させ、この一次モロミに米、イモ、そばなどの原料を蒸したものと水を加えて二次モロミをつくり、2週間ほど発酵させて蒸留するという、二次仕込みをするそうです。
泡盛ができるまでを工場見学
泡盛の主原料は、もともと沖縄県産の米やアワだったそうですが、酒づくりの自由化や、それに伴う生産量の増加によって、輸入米の使用が増えてきたそうです。さまざまな輸入米が試された結果、泡盛づくりにはタイ米が適していることがわかり、定着していきました。今帰仁酒造では砕米と呼ばれる砕いたタイ米を使用します。
1日目に1tの米を4袋、4つの米釜で洗米したあと水に漬け、米粒の中まで十分に水を吸わせます。水きりしてから蒸し、黒麹菌の胞子を散布して種づけし、ひと晩置きます。
2日目には、三角棚と呼ばれている麹棚に米を移し、人力でしっかり米を混ぜます。そして適温に保ちながら麹菌を育成させます。40時間ほどで、米全体が黒っぽくなり、麹ができ上がります。
その麹と水、泡盛酵母をタンクなどの容器に一定の割合で混ぜて仕込みます。この混ぜ合わせたものをモロミといい、約2週間かけて発酵させ、熟成させていきます。筆者が見学したときは、ちょうど仕込み始めて2日目ということでしたが、発酵の過程で出てくるガスが泡となってタンク一面ブクブクと動いており、まるで沸騰しているようで、黒麹菌が生きていることを感じました。
その後、熟成させたモロミを蒸留器に入れて加熱し、蒸留させて泡盛の原酒ができ上がります。泡盛のアルコール度数は45%以下と法律で定められているそうで、今帰仁酒造では原酒を44%のアルコール度数にしているそうです。
今帰仁酒造では、原酒はタンク、かめ、たるの3種類の容器に入れて貯蔵・熟成させていきます。タンクは10万リットルもの容量で、1週間で4000リットルを投入します。半年かけて満杯にし、そこから最低1年は寝かせるそうです。
一定期間貯蔵された原酒は、ブレンドされて各銘柄として品質が整えられ、世界中に出荷されていきます。3年以上寝かせた泡盛は古酒と呼ばれるように。
100年ぶりに復活した庶民の酒「イムゲー」
今帰仁酒造では2年ほど前、「イムゲー」という酒が100年ぶりに復活しました。県内では今帰仁酒造を含めて5か所の酒造所がこの「イムゲー」を復活させたのですが、泡盛となにが違うのでしょうか。
じつは琉球王国時代、米と黒麹で仕込んだ泡盛は政府管理下の酒であり、庶民が飲めない高級品でした。そこで庶民の女性たちが雑穀や黒糖や甘藷などの材料を工夫して酒麹をつくり、自家酒造したのが「イムゲー」という酒。漢字を当てると「芋下」と書くそうです。
調査記録によると、当時は県内でイムゲーの製造戸数が7000近くあり、今帰仁でも約1700戸で製造されていたそうです。ところが明治時代後半には、自家醸造禁止の法律が施行され、家庭でつくられていたイムゲーは徐々に少なくなり、大正時代には完全に途絶えたそうです。
イムゲーは泡盛でも焼酎でもありません。現在の酒税法上では「スピリッツ」に分類されます。泡盛は米の蒸留酒であるのに対して、イモ焼酎はイモの蒸留酒であると言えます。では、イムゲーは?
まず、麹に水と酵母を加えて発酵させる一次仕込みの後に、サツマイモを加えて発酵させる二次仕込みがあります。そこに、さらに粉黒糖を加えて発酵させる三次仕込みの工程を経て製造。地産地消の精神を受け継ぎ、沖縄のイモ、沖縄の黒糖でつくるのがイムゲーなのです。今帰仁酒造でも、沖縄県産の紅イモと、黒糖は伊平屋島産のものを使用しています。
味はと言いますと、口に含んでひと飲みしたときには、まるでイモ焼酎のようなまろやかな味わい……かと思えばスッとさわやかに抜けていくような、さっぱりとした後味で、おいしい。どんなお料理やおつまみにも合いそうな気がします。
夏は氷とレモンでさっぱりいただくのもオススメということで試してみましたが、別の飲み物になったかのような衝撃でした。レモンのさわやかな香りに、ジントニックのような爽快な苦味とストレートな瑞々しさで、ごくごく飲めるおいしさに早変わり。炭酸水で割ってもいいかもしれません。ぜひ、味の変化を楽しんでほしいです。
ヨーグルト味や梅酒も楽しめる
伝統的な泡盛の製造はもちろん、イムゲーの復活をはじめ、新しい酒づくりにもどんどんはげんでいる今帰仁酒造は、毎年、数々の銘柄が国内外の大会で受賞しています。
なかでもたる仕込みの泡盛「千年の響き43度」は、東京ウィスキー&スピリッツコンペティションの焼酎部門で2023年の今年を含め4年連続最高金賞を受賞。芳醇なたるの香りが評価されたようです。
わが家にも今帰仁酒造の銘柄を何種類かストックしてたしなんでいますが、最近のお気に入りは「乙羽山麓泡盛仕込みヨーグルト酒(プレーン、春限定のストロベリー、マンゴー味があります)と、「梅見月」という、南高梅と黒糖を使用した泡盛仕込みの梅酒です。
どちらも甘い系ですが、ヨーグルト酒は濃厚なラッシーのような飲みごたえで、どれも氷を入れて冷やして飲むのが最高。酒というより、ついついデザートとして飲み続けてしまうおいしさがあります。
梅酒は、泡盛で梅酒をつくるとこうなるんだ!という感動が。さっぱりとしたさわやかな梅の甘味と香りで、サラサラと進みます。危うくひと晩で720mlを空けるところでした。
酒づくりのほかにも地域とのつながりに力を入れている今帰仁酒造は、地元の人たちに泡盛を身近に感じてもらおうと、今年の3月には3年ぶりに今帰仁酒造蔵祭りを開催しました。ステージイベントや工場見学、試飲やおいしい食べ物の屋台、子どもたちが遊べるエリアまで盛りだくさん。
そしてなんといってもハマったのは地酒ガチャです。ハズレくじなしで今帰仁酒造の泡盛やらTシャツなどが当たります。300円と1000円のガチャが選べて、私は1000円のガチャに挑みましたが、なんと2等の「天使の夢」という一升ビンを手にしました! このガチャ、蔵祭りのときだけでなく、今帰仁酒造の蔵元直売所にも常設されています。沖縄を訪れた際にはぜひ、今帰仁酒造へ足を運んで、チャレンジしてみてください。
<取材・文・撮影/池田麻里子>
池田麻里子さん
東京・埼玉・宮崎・沖縄を担当。テレビ宮崎の「スーパーニュース」でスポーツキャスターを務め、J:COMデイリーニュース担当、ネットニュースなどにも出演。現在はFMやんばるにてパーソナリティーを務める。話し方・見せ方・聴き方などのコミュニケーション力向上の講座を開き、講師も務めている。
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地方創生女子アナ47
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