水のおいしさ、米の甘さが決め手。個性派の酒蔵で味わう絶品「佐賀酒」

九州といえば焼酎のイメージがありますが、昔から稲作が盛んに行われてきた佐賀県は、九州随一の「日本酒どころ」。海外からも注目されている佐賀酒(さがさけ)の酒蔵を、日本酒好きの料理家・ワタナベマキさんが訪ねました。

佐賀県では日本酒で乾杯を推奨

天山ギャラリー
「天山酒造」のギャラリーエントランス。有田焼や唐津焼を有する佐賀県だけに多くの酒蔵には陶器の酒樽がある

「飲み会の1杯目は日本酒でぜひ!」と県民が言う佐賀県。それほど県民に浸透している佐賀県の日本酒は、近年では海外のコンクールで受賞している銘柄も多数。そんな佐賀の酒蔵を、自他ともに認める日本酒好きの人気料理家・ワタナベマキさんが訪ねました。

酒樽の並ぶギャラリーが人気の天山酒造

天山酒造 大正蔵
かつて使用していた大きな木桶が並ぶ「大正蔵」

 1875年創業の酒蔵「天山酒造(てんざんしゅぞう)」は、150年近い歴史がありながら、インスタライブやオンラインイベントなど、新しい取り組みを積極的に行っています。

 歴史や雰囲気を知ってほしいという思いからはじめた酒蔵見学(要予約)もそのひとつ。ギャラリーのエントラスには、陶器でできた酒樽がずらり! また、かつて酒づくりをしていた「大正蔵」には、2m超の木桶が並び、その様子は圧巻。ここ目当てに外国人観光客が訪れるのも納得です。

「どことなく厳かな雰囲気もあって、すてき! 日本酒の歴史を感じるし、海外の方も楽しめそう」と、マキさんも大きなタルを眺めます。

七田社長
左上/六代目蔵元の七田さんが案内。右上/七田シリーズ最高峰の『七田 純米大吟醸 parfait』を試飲。右下/酒蔵の後ろは天山山系、目の前には清流・祇園川が流れる。左下/おすすめの3銘柄『七田 純米』『七田 純米吟醸』『七田 純米大吟醸』

 天山酒造のお酒は、全国新酒鑑評会や、フランスで開催されている日本酒コンクール「Kura Master」でも何度も受賞。その品質の高さはお墨つきです。

 六代目蔵元の七田謙介さんいわく、「うちで使用している天山山系の水は鉄分やミネラル分が豊富な中硬水。酒づくりには理想的な水で、中硬水を使っているのは県内ではうちだけです」。原料の米にもこだわり、約8割は佐賀米を使用し、おいしい酒づくりを追求しています。

マキさん
撮影スポットとしてリメイクした仕込みタル。なかに座ったマキさんも思わずにっこり

 日本酒好きが一目おく天山酒造。「飲むだけでなく、佐賀酒の歴史も学べたり、おしゃれな撮影スポットがあったりして、訪れる楽しさもある酒蔵ですね」とマキさんも感心しながら見学していました。

休業や豪雨被害を乗り越えた東鶴酒造

東鶴手作業
手作業で丁寧に1枚1枚ラベルをはっている

東鶴酒造(あずまつるしゅぞう)」は1830年創業と歴史は古いのですが、1989年に一度休業し、約20年後に復活。先代の息子で現在の社長である野中保斉さんが再び酒づくりを始めました。

 家業を継ぐつもりはなかった野中さんを酒づくりに導いたのは、ほかの酒蔵の佐賀酒。「小松酒造さんの酒がのどに優しくなじむような味だったんです。心からおいしいと感じました」。米へのこだわりを知り、自分もつくりたいと思ったのがきっかけ。その後、県外の酒蔵で修業し、「東鶴」を復活させることに。

野中さん
マキさんに発酵中のタンクの中の状態を説明する野中さん

 研さんを積みながら家族で酒づくりを行っていましたが、2018年7月の西日本豪雨で大きな浸水被害を受け、一時は経営が危ぶまれたことも。

 浸水で酒蔵はひざまで泥水に浸かり、酒づくりに欠かせない「菌」がすべてダメに。「仕込みが始まる10月に間に合うだろうか…」と途方に暮れていたときに助けてくれたのが同業の方たちでした。「毎日30人くらい来てくれて、助けていただいたおかげで、無事に秋の仕込みができたのです。その感謝は酒づくりで返すと強く思いました」と野中さん。

マキさん
左上/試飲をして思わず笑顔に。右上/おすすめの2銘柄『東鶴 実のり 生酛つくり』『東鶴 THE ORIGIN 山田錦』。右下/水害のあと蔵の2階に新築した麹室。左下/おしゃれなラベルデザイン

 昔ながらの、確かな酒づくりをしつつ、若い世代に日本酒を浸透させるためラベルも刷新。評価の高い味わいだけでなく、デザインのおしゃれさも話題に。「酒づくりもラベルも、ひとつひとつ丁寧なので、とてもありがたみを感じますね」とマキさん。酒づくりへの真摯な思いを実感していました。

姉と弟を中心に家族で酒づくりする基山商店

小森さん
おすすめの3銘柄『基峰鶴 純米吟醸雄町』『基峰鶴 純米吟醸山田錦』『基峰鶴 気稟(きひん)』を囲む小森さんとマキさん

 福岡県との県境にある「基山商店(きやましょうてん)」、銘柄・基峰鶴(きほうつる)は、県内の酒蔵マップのなかでここだけがポツンと離れています。もともとは明治時代初期に、近隣の地主たちが集まり「地元の人たちにおいしい酒を飲ませたい」という思いがうまれたことから、この地で酒づくりをはじめたのだそう。

 大学の醸造科を卒業したのち他県の酒蔵で修業した弟の小森賢一郎さんが、現在は専務 兼 杜氏として理論と経験、科学的なデータも取り入れた酒づくりを。姉の綾子さんは、広報や企画、事務など担当し蔵全体をサポートしています。

マキさん試飲
左上/ギャラリーには数々の銘柄の酒ビンが。右上/麹が生きている発酵中のタルの中。右下/ワイングラスが似合うボトルデザイン。左下/「基峰鶴」は基山を悠然と舞う鶴から名づけられた

 使用するのは千部山と基山からの伏流水。「うちの水はとてもやわらかいので、そのやわらかさがお酒に出ているかと思います」と賢一郎さん。「辛口の銘柄でもやわらかさを感じるのは、そういうことなんですね」とマキさんも納得していました。

 また、福岡国税局の鑑評会にて金賞受賞。フランスで開催される日本酒コンクール「Kura Master」では、プラチナ賞を受賞。基峰鶴は国内だけでなく海外のコンクールでもいくつもの賞を受賞しています。

ギャラリー
酒蔵の横にあるギャラリー「KEY」。酒づくりをしていた建物がおしゃれにリノベーションされている

 酒蔵の隣には、築130年の多目的に使えるギャラリーが。貸出しもしていて、「近隣の人にも使っていただき、地域の活性化につながってほしい」とイベントや音楽のライブが開催されることも。

「バランスのとれた、すてきな姉弟。そしてなにより、酒づくりへの意気込みを感じました。今は生産量が少ないですが、間違いなくもっと人気があがると思います」とマキさん。

 今回佐賀を訪問して、たくさんの酒蔵が切磋琢磨しながらおいしいお酒をつくっていることがわかりました。もし、飲食店や酒屋さんで見かけたら、ぜひ佐賀酒を試して。そして、九州を訪れたときには、佐賀に立ち寄って酒蔵にも足を運んでみては。

ワタナベマキさん
料理研究家。素材の味を生かしたシンプルでおいしいレシピと、センスあふれる丁寧な暮らしぶりにファンが多い。『ワタナベマキの10の定番弁当』(扶桑社刊)など著書多数

取材協力/佐賀県流通・貿易課
撮影/藤本幸一郎 取材・文/カラふる編集部