疲れやすいと感じたら「腎」の働きを強めるといい、と教えてくれたのは薬膳アテンダントの池田陽子さん。いつまでも若々しくいるためにおすすめの海藻グルメを、大分県のアンテナショップで見つけて教えてくれました。
腎をパワーアップして若々しさを手に入れる
最近なんだか、シワや白髪が増えたような気がする。疲れやすいし、なんだか老け込んだような…。 老化は中国伝統医学の中医学において「腎」とよばれる臓器と深い関わりがあります。腎は人の成長や発育、生殖、老化をつかさどり全身のエネルギーをためておく臓器。ここが弱ると肌が乾燥して白髪が増え、耳が遠くなり、足腰が曲がって弱くなる、歯がもろくなる、記憶力が低下する…といった老化現象が加速。若々しさを保つならば、とにかく腎の働きを高める食材を取り入れることが大切です。
腎のパワーアップにおすすめなのが「黒食材」。薬膳の考え方のひとつである「五行説」では、体の機能と色を関係づけています。腎をつかさどる色は黒。海藻類、黒豆、黒ゴマ、黒キクラゲ、黒酢、黒砂糖などの黒食材は生命力や気力を養い、若々しさを保つパワーがあるのです。今回は大分県アンテナショップ「坐来大分(ざらいおおいた)」を訪ねて、とっておき海藻グルメをご紹介します。
収穫は1年で2日だけ!姫島の絶品ヒジキ
大分県の北部、瀬戸内海に浮かぶ離島「姫島」。全域が瀬戸内海国立公園に指定されているという、豊かな自然に恵まれた風光明媚な島は、古事記で「女島」として登場、数多くの伝説が残る島でもあります。クルマエビ、トラフグなど豊富な海の幸の水揚げでも知られていますが、注目したいのが、食通をうならせるという絶品のヒジキ。
姫島村・おおいた姫島の「幻の2日ひじき」(980円)は、その名のとおり、1年間で2日だけしか収穫されないという、とても貴重なヒジキです。2日だけの理由は、代々ヒジキを収穫してきた島の方々が「いかにおいしく食べるか」を追求したところ、「12月の大潮の日、潮が引いたときに収穫した新芽」がベスト、という結論に至ったからだそう。
一般的に、ヒジキが収穫されるのは3、4月。高級品である「寒ヒジキ」でも、1、2月。なんと姫島ではそれよりも早い12月! 日本一早いヒジキの収穫は、12月に2回ある大潮の引き潮のタイミング。さらに、夜中の5時間程度という、短さです。収穫したヒジキは、姫島伝統の「大釜薪炊き製法」で処理します。選別したヒジキを鉄製の大釜で荒炊き。
そして丁寧に水洗いしてから再び炊き、最後に、姫島に湧き出る鉄分が豊富な強炭酸泉「拍子水温泉」で仕上げて、乾燥させます。乾燥は機械ではなく「天日干し」。冬の太陽と乾燥した風で、ゆっくり乾かすとやわらかな仕上がりになるのだそうです。姫島の美しい海で育った、コシが強く豊かな風味のヒジキを手間暇かけて、そのおいしさを最高の状態で楽しめるように加工してあるのです。
姫島のヒジキは、水で戻しただけで、サラダなど生で食べることができます。サラダにして食べてみると、ヒジキはふんわりやわらかく、でもしなやかで、シャキシャキした食感。磯のさわやかな香りと、豊かで優しいうま味は感動モノ! 一度食べるとリピーターが続出するのがうなずけるおいしさです。
カリッ、サクッ。絶品のバラ干しのり
大分は約70年前まで、のりの養殖が盛んでした。とくに大分市三佐地区近郊はのりの産地として有名でしたが、工業地として埋め立てられたことで衰退。けれど、今も宇佐市・中津市の周防灘でおいしいのりが育まれています。有明海、八代海とともに日本三大干潟にも数えられる周防灘で育ったのりは、外海の荒波にもまれて、風味が強く、歯ごたえのよさが魅力です。
大分市・鶴亀フーズは、昭和22(1947)年に前身である鶴亀海苔として創業。大分県産のりなどの加工販売を手がけています。「鶴亀海苔摘み海苔」(650円)は、宇佐市で養殖されたのりを、板状ではなく「バラ干しのり」に仕上げた商品。バラ干しのりとは、つみ取ったままののりをそのままの形で加工したもの。干して乾燥させてから、脱水、ほぐし、焼きの工程を経るという手間のかかるものです。
収穫ののち「鮮度が命」と、その日のうちに処理、翌日には加工されますが、とくにほぐしの作業は、手作業で重労働。けれどものり本来のうま味、香りを届けるために、労を惜しまないという姿勢で完成させています。パッケージをあけると、美しい緑色、そしてパラリとした形状。口に入れるとカリッ、サクッとした食感、ほどよい天然の塩味、お茶にも似た香気あふれるうま味が弾けます。
このままおつまみ、ご飯のおとも、みそ汁に入れてもよし、うどん、そばのトッピングにもよし。洋風に、サラダやパスタに使うのもおすすめだそう。チーズトーストにトッピングしてみたら、大正解! 香ばしさと、豊かなうま味がチーズにぴったり! バラ干しのりは板状ののりよりも、クッタリしづらく、いつまでもサクサク感があるのも魅力です。あれこれ使いたくなる、絶品海苔ですが、油断するとそのままあっという間に食べてしまうので気をつけて(笑)。
やみつきになるとろとろ海藻・クロメ
大分で愛される海藻のひとつに「クロメ」があります。コンブ科カジメ属の褐色海藻で、大分市佐賀関、津久見市、臼杵市などがおもな産地になります。その魅力はなんといっても「粘り」。「海のとろろ」と言っていいほど、強いねばりがクセになる海藻。地元では、丼、みそ汁、うどんなどで親しまれています。鶴亀フーズではクロメを使った加工品も取り扱っています。
「豊後水道のくろめ」(540円)は、豊後水道の厳選したクロメを乾燥させたもの。豊後水道は、瀬戸内海と太平洋が接して、潮流が速いため、良質なクロメが育ちます。クロメの旬は1月~3月。新芽が伸びるこの時季は、やわらかく渋味がないクロメが味わえます。
1月中旬、漁が解禁になると、漁師たちが、カマを使って手作業で丁寧に収穫。生で味わえるのは短い期間ですが、乾燥クロメは年間通じて旬のおいしさを堪能できます。今回は、クロメのおみそ汁をつくってみました。クロメを水で戻し、みそ汁に入れて箸でグルグルかき混ぜると、糸を引くほどとろとろに! シャキシャキした食感、濃いうま味、そして猛烈とろとろ! なんともクセになる味わいです。納豆に入れて「スーパーとろとろ」を楽しむのもおすすめですよ
池田陽子さん
薬膳アテンダント、食文化ジャーナリスト、全日本さば連合会広報担当サバジェンヌ。宮崎県生まれ、大阪府育ち。立教大学社会学部を卒業後、広告代理店を経て出版社にて女性誌、ムック、また航空会社にて機内誌などの編集を手がける。カラダとココロの不調は食事で改善できるのでは? 関心から国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。食材を薬膳の観点から紹介する活動にも取り組み、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。趣味は大衆酒場巡りと鉄道旅(乗り鉄)。さばをこよなく愛し、全日本さば連合会にて外交担当「サバジェンヌ」としても活動中。近著に『中年女子のゆる薬膳。』(文化出版局刊)『1日1つで今より良くなる ゆる薬膳。365日』(JTBパブリッシング)ほか、『ゆる薬膳。』(日本文芸社)