じゅわっと肉汁。「フジバーグ」は敦賀で年間30万個売れるソウルフード

2024年3月16日に北陸新幹線が延伸した福井県は今、注目のエリアです。新たな終着駅となった敦賀駅(敦賀市)で地元民に愛される総菜「フジバーグ」を、ご当地グルメ研究家の大村椿さんがリポートします。

知る人ぞ知る敦賀市民のソウルフード「フジバーグ」

スーパーに並ぶフジバーグ

 福井県敦賀市は敦賀湾に面し、古くは大陸文化の玄関口となっていました。また、「御食国(みけつくに)」と呼ばれ、京の都に海産物を中心とした食材を運んでいました。サバ丸ごと一尾を串に刺して豪快に焼きあげた「浜焼きサバ」や、越前ガニ、グジ(アマダイ)など、豊富な海鮮類が有名です。

 人気のご当地グルメもたくさんあり、福井県のカツ丼は卵でとじない「ソースカツ丼」が主流。冷たい「水ようかん」は冬の風物詩としてコンビニで買えるほどですし、鉄道で栄えた時代に生まれた敦賀の屋台ラーメンは、現在も夜になると国道沿いに出没します。そんな敦賀市に、この周辺でしか知られていない謎の総菜がありました。

 北陸地方出身の30~40代4人に「思い出の味ってなにかある?」と聞いてみたときのこと。小学生の頃、敦賀市に住んでいたという男性が「フジバーグが好きだったけど、引っ越しちゃったから食べられなくなっちゃって」と話はじめたのです。

「え? フジバーグ?」「ファミレスのメニュー?」「ハンバーグみたいな感じなの?」「そもそもフジってなによ?」と、矢継ぎ早に質問が飛び交いました。
「飲食店のメニューではなくてスーパーのお総菜」「敦賀で知らない人はいないくらい有名」なのだそうです。そこには福井市出身の人もいたのですが、「聞いたことがない」と首をかしげていました。

鶏×豚ミンチが特徴。手づくりのサイズ感も楽しい

フジバーグの寄り

 その謎の総菜は、敦賀市のスーパー「ハニー新鮮館 エフレ清水本店」にありました。敦賀駅から歩いて6分ほどの距離にあり、製造元「フジショク」の系列スーパーです。
 総菜コーナーにズラリと並ぶ「フジバーグ」。ひき肉を使っていて形はハンバーグのような楕円形。「ああ、だからフジバーグという名前なのか」と思ったのですが、よく見ると衣がついていて、油で揚げている? どうもハンバーグではなさそう……。

 使用する肉は自社でミンチしており、すべて国産の鶏と豚の合いびき。そう、牛と豚ではなく鶏と豚でした。そこにタマネギや卵などを加えたタネをつくり成形していきます。一旦冷凍したのち、きめ細かいパン粉で薄衣をつけて油で揚げたら特製のソースに浸して店頭に並べてます。

 来店したお客さんは、フジバーグコーナーの前で立ち止まり、ひとつひとつ吟味してからカゴに入れているようでした。どれも同じ気がするのですが、なにを悩んでいるのでしょうか。フジショクの市村さんが「完全に手づくりなので形や大きさが微妙に違うんですよ。だから大きそうなものを選ぶとちょっとお得なんです(笑)」と、教えてくれました。

 タネがやわらかくて成形が難しく、ひとつずつ手作業なので多少の誤差があるのだそうです。規定では1個90g以上なのですが、ものによっては100gを越えることもあり、大きなものを真剣に選びたくなる気持ちもよくわかります。

肉汁あふれるおいしさ。冷めてもやわらかい

フジバーグの断面

 店頭でちょうど揚げたてが並んでいたので、ホテルに持ち帰って実際に食べてみることにしました。フジバーグにお箸を入れると想像以上にやわらかく、切れ目からジュワッとあふれる肉汁。口に入れるとふわっとした食感で、思わず「あっ、おいしい!」と声が出てしまいました。

 鶏肉が入っているせいか、肉々しいのにあっさりしていて、どんどん食べ進んでしまいます。揚げてあるのに油のしつこさを感じません。使っている特製ソースは自社レシピで、これまた手作業で漬けているそうですが、ウスターソースがベースということで、酸味と甘味を感じて、口の中で肉汁と合わさるとうま味が増幅するような気がします。

 翌朝、冷めたものも食べてみましたが、温めなおさなくてもやわらかく、お弁当のおかずにもよさそうでした。牛と豚のひき肉よりローカロリーなのに満足度が高いので、幅広い年齢層の人たちに愛されるのも納得できます。

ハンバーグでもなくメンチカツでもない

フジバーグ丼

 地元の人たちにお話を伺ってみると、「私はフジバーグの方が好きだけど、お父さんはメンチカツ派」「メンチカツだとヘビーかなってときにこっちを選ぶ」など、メンチカツと比較して語る人がいらっしゃるのに気づきました。

 若い女性で「フジバーグよりパリ丼を食べることが多い」という人もいました。前述のように、福井県は卵でとじないソースに浸したカツをご飯の上にのせて食べる「ソースカツ丼」が主流で、その元祖は福井市にある「ヨーロッパ軒」というお店です。敦賀市にも、のれん分けの店舗が複数あります。

 ヨーロッパ軒には、カツ丼と同様にソースで浸したメンチカツをのせた「パリ丼」というメニューがあります。その影響もあると思われますが、「あらかじめソースで味付けされたメンチカツ」がおそうざいとして存在しています。

 つまり敦賀市内では、鶏肉を使ったフジバーグは、メンチカツよりも「リーズナブルでさっぱり食べやすい」という認識が広がったのではないでしょうか。ご年配の方からは「メンチカツはちょっと固いからフジバーグを選ぶ」という声もあり、スーパーのおそうざいならではの愛され方を感じた瞬間でした。

累計1000万個突破のロングセラー商品

フジバーグを製造するスーパー

 フジバーグはどのように誕生したのでしょうか? はっきりとした資料は残っていないそうですが、どうやら1980年頃に「名物の総菜をつくりたい」という思いから開発されたようです。お肉を使った総菜は冷めると固くなりやすいという難点があり、「冷めても固くならずおいしいものを」と工夫されて生まれたのが、このフジバーグだったそうです。

 そのやわらかさと味が評判となり、知らぬ人はいないほどの存在となったのです。40年以上にわたるロングセラーの総菜は、2021年時点で累計1000万個を超える人気商品。現在も年間30万個が地元の人々の胃袋におさまっています。敦賀市の人口は約6.3万人(2023年)ですから、単純計算で1人あたり年間4.7個以上は食べていることになります。最近はMEGAドン・キホーテUNY敦賀店にも卸しており、合計2店舗で販売されています。

 つい先日も、敦賀市に住んでいたことがある男性が「ああ、フジバーグ!おいしいよなー、あれ」と笑顔で答えてくれました。最近では敦賀市のふるさと納税の返礼品にもなっていて、地元を懐かしむ人にも好評なのだとか。

 新幹線で敦賀を訪れる人も増えそうですし、有名なソースカツ丼などとともに、フジバーグを食べてほしいと思います。願わくは、観光客が1個からその場で食べられるお店が駅前などにあるとうれしいです。

<取材・文/大村 椿>

大村椿さん/テレビ番組リサーチャー
香川県生まれ、徳島県育ち。2007年よりフリーランスになり、2008年から地方の食や習慣などを紹介する番組に携わる。その後、グルメ、地域ネタを得意とするようになり、「ご当地グルメ研究家」として食に関する活動も行っている。