うららかな日差しが心地よい春。外に出てアクティブに動きたいと思っても、体がだるくて、疲れやすい、なんてことも。そこで春をアクティブに過ごすため、薬膳アテンダントの池田陽子さんに、平戸市のアンテナショップで見つけたとっておきグルメを教えてもらいました。
体調を崩しやすい春は「気」の不足に注意
寒暖差が大きい春は、体がバランスを崩して「春バテ」しがち。そんなとき、中国伝統医学の中医学において、まずは人間のエネルギー源である「気」を補うことが大切。春は気温の上昇とともに、体内のエネルギーも高まる季節。気が不足していると、体が変化に追いつかない状態になってしまうのです。
春にやたら眠いという人は、気があきらかに不足している状態なので心して食養生につとめましょう。春バテ撃退のためには、気を補うことが大切。おすすめはタイなどの白身魚と卵・ウズラの卵。いずれも滋養強壮、免疫力アップに優れた食材です。今回も、長崎県平戸市の食の幸がそろう「有楽町ひらど商館」を訪ねて、春バテに役立つグルメをご紹介します。
絶品のブランド魚のお茶漬け
平戸で近年、話題をよんでいるブランド鯛「平戸なつ香鯛」。その味わいを存分に堪能できるのが、坂野水産「平戸なつ香鯛茶漬け」(1200円)。平戸なつ香鯛は、平戸の果樹園「善果園」で栽培されているサマーオレンジ「平戸夏香」をえさの中に混ぜ込んで育てたタイ。甘味とコクのあるうま味が魅力の「フルーツ鯛」です。平戸なつ香鯛茶漬けは、加工場から1kmほどの沖合で2年かけて育てた平戸なつ香鯛を水揚げしてすぐ活〆にして使用。刺身で使うクオリティの身を大きめにカットして、平戸産のコクとうま味にすぐれたしょうゆ、焼きあごだしなどをブレンドした調味液に漬けて仕上げてあります。
ビンをあけてみると、たしかに分厚くドーンと大きな身に驚きます。まずは、そのまま食べてみると、コリコリした食感。まろやかで、少し甘めの調味液をまとったタイは、じわじわとやさしいうま味と、タイそのものの甘味が口いっぱいに広がり思わずにんまりしてしまいます。このまま、お酒のつまみにも最高!
お茶漬けにすると、表現が不思議かもしれませんが、タイはふっくら、ほっくりとした煮魚の身のように。そして、平戸なつ香鯛のうま味が浸み出ただしは、コクうまで力強いのに、極めて上品。ちょっとほかにはない、唯一無二の味わい! それはきっと、平戸のタイ、しょうゆ、あご、というトライアングルのなせる技。食べだすと止まらなくなる「魅惑のタイ茶漬け」です。
ストローにくるまれた「すぼかまぼこ」
長崎県は、じつは日本一かまぼこ屋さんが多い町。その消費量も全国1、2位を争うほどの「かまぼこ王国」。地魚を使ったおいしいかまぼこは、地元で愛される存在です。平戸でも、絶品のかまぼこを味わうことができます。平戸ならではの、かまぼこといえば「川内かまぼこ」。川内浦という小さな漁村が発祥で、その歴史は平戸オランダ商館までさかのぼるともいわれています。
川内かまぼこは、地元で水揚げされた白身魚・エソやアジ、あごをすり身にして、「すぼ」とよばれるストローで巻いて、蒸しあげたかまぼこ。珍しい「板のないかまぼこ」です。当初は麦わらの「ワラスボ」を使っていたものの入手が難しくなり、近年はストローになったようですが、はがすとかまぼこの表面がギザギザになるのが特徴です。
有楽町ひらど館でも高い人気を誇るのが、川内町「白孝屋」の「すぼかまぼこ」(3本入り540円 えそ、あご、アジの3種)。白孝屋のかまぼこは、平戸近海で水揚げされた新鮮な魚を、厳選して仕入れ、長年の経験を積んだ職人が手作業で仕上げたもの。鮮度の高い魚をさばくところからはじまり、魚肉を水にさらしてうま味はそのままに、余分な脂分などを除く「水さらし」「水切り」を行います。
さらに創業以来使っている石臼で丁寧に身をすり、きめ細やかなすり身に。原料、水、塩分の配合は、気温や湿度に合わせて調整し、すぼで巻いて蒸し上げます。すぼをはがしたかまぼこは、白雪のような美しさ。食感はプリプリというより、しっとりふんわり。優しい味わいで、魚の「ピュアなおいしさ」だけが、感じられます。これに慣れてしまうと、普通のかまぼこがものたりなく思えそう。ラップをしてレンジで温めて、「蒸したて」で味わったり、バター焼きにして少しこげ目をつけて食べたりするのもおすすめ。
紅のふちどりたまごが愛らしい練り物
白孝屋では、長崎ならではの珍しい練り物「アルマド」(216円)も製造、販売しています。アルマドはエソ、イトヨリなどのすり身の中に、食紅で色づけた卵を入れて揚げたもの。名前の由来は江戸自体初期、海外貿易の拠点だった平戸で。オランダ語で「包む」を意味する「アルマトーレ」や、ポルトガル語の「武装する」=「アルマード」に由来するといわれています。長崎市内では、断面が龍の目に似ているとして「龍眼」という名でよばれています。
アルマドは、切ると赤く彩られた断面から、くんち(秋祭り)や、お正月などめでたい席に提供されてきました。コロッと丸いかたちのアルマドを半分に切ると、なんとも愛らしい紅のふちどりの卵(白孝屋は、うずらの卵を使用)。プリプリしたすり身と、ほっこりした卵の黄身のマリアージュがなんだか癒やされる味わい。おでんの具にしたり、煮物に使ったりしてもおいしくいただけます。
池田陽子さん
薬膳アテンダント、食文化ジャーナリスト、全日本さば連合会広報担当サバジェンヌ。宮崎県生まれ、大阪府育ち。立教大学社会学部を卒業後、広告代理店を経て出版社にて女性誌、ムック、また航空会社にて機内誌などの編集を手がける。カラダとココロの不調は食事で改善できるのでは? 関心から国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。食材を薬膳の観点から紹介する活動にも取り組み、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。趣味は大衆酒場巡りと鉄道旅(乗り鉄)。さばをこよなく愛し、全日本さば連合会にて外交担当「サバジェンヌ」としても活動中。近著に『中年女子のゆる薬膳。』(文化出版局刊)『1日1つで今より良くなる ゆる薬膳。365日』(JTBパブリッシング)ほか、『ゆる薬膳。』(日本文芸社)