那覇市の老舗漆器店が営むカフェで沖縄の伝統工芸「琉球漆器」に触れる

沖縄に琉球王国時代から伝わる伝統工芸の「琉球漆器」。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級など食に関する資格を持つ津波真澄さんが、琉球漆器が身近に感じられるカフェを紹介します。

独特の美しさをもつ琉球漆器

角萬店内

 琉球漆器は沖縄県の伝統工芸品のひとつで、その起源は14世紀から15世紀にさかのぼります。15世紀に統一された琉球王国は中国や東南アジアとの貿易が盛んで、これが琉球漆器の発展に大きく寄与。中国の漆器技術に影響を受けながらも、琉球独自のデザインや技法を加え、独特の美しい漆器を生み出していきました。

 鮮やかな朱や黒の漆と、金や銀の箔や貝殻を用いて細かい装飾を施した琉球漆器は、王族や貴族、寺院などで重宝され、食器や家具、装飾品として取り入れられたほか、祭事や儀式にも用いられました。

王国時代からの伝統を今に伝える「角萬漆器」

商品

 その琉球漆器の伝統を受け継いでいるのが、那覇市にある創業120余年の琉球漆器最古の老舗、角萬(かくまん)漆器です。店内には伝統的な琉球漆器から現代風の漆器、そして器だけでなく、漆器の技法を取り入れたカトラリーやアクセサリーが展示販売されています。
 豪華な重箱や東道盆(とぅんだーぶん:宮廷料理を盛りつける器)を見て王国時代に思いをはせ、また「え? これも漆器?」と目を見張るような作品にも出合え、店内を1周するだけでもワクワクします。そして、店舗の奥にあるカフェスペースでは、さらなる驚きが待ち受けています。

先入観を払拭し、琉球漆器を日常に

カフェ店内

 多くの人が持っている「高価、壊れやすい、傷がつきやすい、使いにくい、洗えない」などといった、漆器に対する誤った先入観を払拭し、もっと日常的に漆器に親しんでほしい。そして、琉球漆器文化を復興させたいという願いを込めて2023年1月にオープンしたのが「CAFE角萬」。琉球漆器でドリンクやスイーツを楽しめるカフェです。

 漆器の色や気配を生かすため、壁もエアコンなどの電化製品もすべてグレーに塗られています。電化製品は別ですが、テーブルもいすも漆塗りなのだとか。
 なんともぜいたくな空間ですが、目に優しい色合いに、ふっと肩の力が抜け、まったりとカフェタイムを楽しめそうです。

沖縄のおいしいものを漆器とともに

メニュー

 熱い料理にも冷たいデザートにも対応できる琉球漆器。アイスクリームセットが人気だと聞き、「漆器でアイス」という驚きと新鮮さにひかれて、早速注文してみました。漆器の器に盛りつけられた手づくりアイスは、沖縄食材を生かしたさわやかで優しい味わい。コーヒーのほろ苦さとのバランスも絶妙でした。そしてなにより、漆塗りの器でアイスをいただき、漆器のカップでコーヒーを楽しむという組み合わせは、ほかではなかなかできない貴重な体験です。

 漆器はとても軽いのに、冷たさも熱さも手には伝わらないため、安心して味わうことができます。さらにトレイや添えられたスプーンもすべて漆塗りで、その統一感が一層特別感を引き立てます。

青木さん

「こちらのカフェで提供する飲食物は、私たちがつくっているものではないです。沖縄のおいしいものにも出合ってほしいとの思いから、選りすぐりのものをそろえているんですよ」と話してくれたスタッフの青木ちひろさん。せっかくなので紅茶もいれましょう、とおいしい紅茶もいただきました。

 実際に漆器を使いながら、お手入れ方法などを聞けるのもカフェの利点。お客さんからは、プラスチックと漆器の見分け方など、意外な質問も寄せられるそうです。飲みながら、食べながらのリラックスした雰囲気で、日頃の疑問を解決し、漆器の新たな使い方が発見できるかも。

泡盛

 そして最後に、「泡盛を漆器で飲むのもおすすめですよ」と紹介してくれました。琉球漆器と泡盛の組み合わせは、おみやげにもよさそうです。

ショップ

 首里城から徒歩圏内の角萬漆器。高台に位置するので、那覇市内はもちろんのこと、慶良間諸島も一望できるロケーション。首里を訪れた際に、お散歩がてら立ち寄ってみてはいかがでしょう。

<取材・文>津波真澄

津波真澄さん
広島県出身、那覇市在住。外資系企業などに勤務し、海外でも生活。15年ほど前に沖縄に移住。野菜ソムリエ上級プロ、アスリートフードマイスター1級、インナービューティープランナーほか、食に関する資格を持ち、「沖縄」「環境」「食」の知識や経験をもとに、料理教室を主催。企業やメディアからの依頼でレシピ開発やメニュー監修をするほか、通訳や講演・執筆活動も行っている。美と健康の知識を要するミセスジャパン2019世界大会で第3位(2nd Runner-up)を受賞