群馬はご当地パンの宝庫「みそぱん」「バンズパン」「ビスロール」を食べ比べ

小麦の産地、群馬県はご当地パンの宝庫です。焼きまんじゅう風のみそダレをソフトフランスパンにはさむ「みそパン」、ビスケット生地を合わせたバンズパンとビスロール、群馬県でしか出合えない人気のパン3種について、ご当地グルメ研究家の大村椿さんがリポートします。

収穫・消費量がトップレベルの群馬県ならではの小麦粉グルメ

一面の小麦畑

 初夏の頃、日本各地の郊外では、田植えが終わって根を張り始めた稲が青々と美しい、昔ながらの風景が広がっていることが多いですよね。しかし群馬県に行くと、ちょっと事情が違いました。同じ時季なのに風にゆれる黄金色の田んぼがあちこちに見られます。じつはこれ、小麦畑。小麦は秋に種をまいて、翌年の6~8月頃に収穫します。ちょうど収穫シーズンなのです。

 群馬県は日照時間が長く、乾燥した気候と水はけがいい土壌のため、昔から小麦の生産に適した土地でした。現在でもその収穫量は東日本エリアで第1位(北海道を除く)で、群馬のブランド小麦である「きぬの波」や「さとのそら」をはじめ、パン向きの「ゆめかおり」なども栽培されています。

 さらに、小麦粉の消費量は全国6位(総務省家計調査)で、粉もんのご当地グルメがとても多いのです。古くから食べられている、水沢うどん、ひもかわうどん、おっきりこみ(すいとん)。近年では、高崎市を中心としたパスタ文化などの麺類をはじめ、伊勢崎もんじゃ、太田焼きそば、焼きまんじゅう、ぎゅうてん、じりやきなど、有名なメニューから、あまり聞き覚えがないものまで、全国屈指の小麦粉食エリアなのです。

 郷土料理やご当地グルメだけではなく、パン屋さんも多く、昔ながらのレトロなお店からオシャレなベーカリーカフェまで多種多様。クオリティの高いパンが食べられるなかなかの激戦区です。そして、なぜか群馬県にしかない「ご当地パン」が存在しています。

群馬県ではだれもが知る「みそぱん」は、焼きまんじゅうが原形

焼きまんじゅうが原形のみそパン

 おそらくいちばん知られているのは「みそぱん」でしょうか。群馬県では知らぬ人はいないほどの身近な存在です。1970年代頃に沼田市の「フリアン」で「焼きまんじゅう」をヒントに生まれました。

香ばしく焼いた焼きまんじゅう

 焼きまんじゅうは小麦粉を発酵させて蒸した生地を、大きめのみたらし団子のように串に刺し、甘塩っぱいみそダレをたっぷりつけて香ばしく焼いたおやつで、江戸時代から庶民に愛されています。そのみそダレ風のタレをパンにはさんだものが「みそぱん」です。

 フリアンでは石窯で焼いた特製ソフトフランスを使用していますが、お店によってパンやみその味はさまざま。形はコロンとしたひょうたん型のような、まゆ状のようなことが多いです。
 そんな、パンと群馬県民に親しまれているみそダレとの組み合わせは、和洋折衷でちょっと不思議な味わい。現在はお土産としてサービスエリアなどにも置かれていることがあります。

あんバターのみそバージョン「みそバターパン」

 上の写真は、みそパンからさらに一歩進んだ「みそバターパン」。あんバターのみそバージョンといった感じで、甘塩っぱい味にコクが加わります。

ビスケット生地を使った「バンズパン」と「ビスロール」

小学生に大人気の「バンズパン」

 高崎市を中心としたエリアでは、「バンズパン」という小学生に大人気のパンがあります。ハンバーガーのバンズのようなドーム型ですが、表面にビスケット生地がかかっていて甘い味わい。こちらも1970年代あたりに登場したようです。

 学校給食で提供されているパンで、余ったバンズパンが教室で争奪戦になることもしばしば。高崎の子どもたちはここを通過して大人になります。パン屋さんで買えるので、「大人になっても好き」という人も多いようです。

 シンプルなバンズパンは、そのままおかずと一緒に食べたり、間に好きなものを挟んだりします。マーガリンをはさんた「バターバンズ」や、あんこやジャムをはさんだもの、生地にレーズンが入ったものなどもあります。ちなみに、「バンズパン」を使った「みそぱん」もありますよ。

桐生市周辺で目につくパン「ビスロール」

 桐生市周辺で目につくのは「ビスロール(ビスケットロール)」。かつて桐生市内にあった「ナトリ」という、パンと洋菓子のお店で販売されていました。「ナトリ」から独立した人たちがそれぞれつくりはじめ、現在はほかのパン屋さんにも定番のパンとして並んでいます。

 ナトリで修業して独立したお店のご主人にお話を伺ったところ、「はっきりしないが、たぶん50年前にはすでにあった」とおっしゃっていて、桐生では当たり前のパンとして認識されています。

パン「ビズロール」の断面

 パン生地にビスケット生地を挟んで、パイのように織り込んで焼いていて、ロールパンのようなクロワッサンのような見た目。でもサックリ甘さ控えめのメロンパンのような味です。
 お店ごとに生地の配分や焼き方が違うので味や食感が異なります。ビスケット生地が多いほど甘いパンになります。一部の小中学校では、短期間ですが、給食で出ていたことがあるそうです。

食の洋食化をきっかけに生まれたご当地パン

学校給食で出されていた「バンズパン」

 バンズパンは学校給食で出されていたのがポイントで、子どもたちを通じて地元に浸透していったと言えます。学校給食の起源は明治時代とされていて、その当時は米食でした。戦後まもなく、国内の物資が少ないなかで、アメリカの余剰品だった小麦粉や乳製品などの食材が日本に提供され、学校でコッペパンと牛乳(脱脂粉乳)が出されるようになったと言われています。
 さらにその後、1964年の東京オリンピックをきかっけに、日本の食は一気に洋食化が進み、給食で提供されるパンのバリエーションも増えていきました。

 群馬のご当地パンは、いずれも1970年頃に生まれており、おそらく各地のパン屋さんは新しいパンのレシピを模索していた時代だったのかもしれません。実際、全国的にもビスケット生地を使ったご当地パンはいろいろあります。メロンパンは日本生まれですが、洋風のおしゃれなパンのひとつだったでしょうから、ビスケット生地を使ったバンズパンやビスロールのような新しいパンが生まれてきたとしても不思議はないですよね。

 もし小麦粉王国・群馬県を訪れる機会があったら、有名なお店や郷土料理だけではなく、ちょっと不思議なご当地パンもお試しください。お土産にもおすすめですよ。

<取材・文/大村 椿>

大村椿さん/テレビ番組リサーチャー
香川県生まれ、徳島県育ち。2007年よりフリーランスになり、2008年から地方の食や習慣などを紹介する番組に携わる。その後、グルメ、地域ネタを得意とするようになり、「ご当地グルメ研究家」として食に関する活動も行っている。