ストレスフル緩和に麺類が効果的と教えてくれたのは、薬膳アテンダントの池田陽子さん。山形県のアンテナショップで買える、とっておきの絶品麺グルメを紹介します。
そばやうどんがストレス緩和におすすめ
薬膳において、麺もさまざまな効能があります。そばは、ストレス緩和におすすめ。中国伝統医学・中医学においてストレスがたまった状態とは人間のエネルギー源である「気」の巡りが悪くなっている状態と考えます。気の巡りは自律神経と重なっています。
気は全身をくまなく巡っているのが正しい状態ですが、その流れが滞ると自律神経のコントロールがうまくいかず、情緒不安定になりやすいのです。そばは、滞った気をスムーズに流す作用が大。イライラした気分を鎮め、落ち着かせてくれるのです。そして、うどんは気分が落ち込んだときにおすすめ。
中医学では「心」と呼ばれる臓器の働きが衰えると、気分が落ち込みやすくなるとしています。心は意識や思考、感情などの精神活動をコントロールする臓器です。心が弱ると不安感、不眠、やたらとマイナス思考になるといったメンタルの不調も現れがちです。うどんの原料である小麦は、心を養う働きがあり精神安定に役立つのです。ぜひ、コンディションに合わせた「麺チョイス」を。
今回は山形県河北町アンテナショップ 「かほくらし」から、おすすめの絶品麺をご紹介します。
鶏肉と鶏だしで食べる「冷たい肉そば」
「そばどころ山形」の名にに違わず河北町もそばが自慢のひとつですが、この地域の名物といえば「冷たい肉そば」。町内では10店舗以上のお店で提供され、地元で愛されてやまない存在です。 近年、冷たい肉そばをもっと多くの人に知ってもらいたいと地元有志で結成された「冷たい肉そば研究会」はB-1グランプリにも出場。好評を博し、全国からも注目を集めるようになりました。
肉そばといっても、肉は牛でも豚でもなく鶏。そしてつゆも、しょうゆベースのコクがある鶏だし。具は肉が固い親鳥をしょうゆなどで甘辛く煮込んだ「親鳥チャーシュー」とネギ。そしてなんといっても大きな特長は、基本的につゆが「冷たい」こと! 河北町では、真冬でも「冷たい」肉そばが定番です。
その歴史は諸説ありますが、戦前にまでさかのぼります。当時の河北町で「お酒を飲みたい」というときはそば屋に行くのが主流。おつまみは少なく、当時は「馬肉の煮込み」をつまみに飲み、そばで締めるというパターンが多かったのだそうです。
あるとき、お客さんが冷たいそばに余った馬肉の煮込みをのせて食べてみたところ、ことのほかおいしく、こぞってほかのお客さんも注文するように。次第に、ほかの店でも提供されるようになり、戦後、具は親鳥になり定着していったといわれています。
つゆが冷たい理由は、時間が経過しても「そばが伸びにくく、コシを保てるから」という酒飲みならではの理由から。トッピングのお肉をつまみにして飲みながら、最後にそば、というときに汁が冷たければ、おいしくいただけるということからのようです。
全国でも珍しい麺を自宅で楽しめるのが、かほく冷たい肉そば研究会オリジナルの「かほく冷たい肉そば」(1400円)。親鳥チャーシューが入ったタレと、乾そばがセットになっています。そばをゆでて、水で締めてどんぶりへ。タレを水で希釈してつゆをつくって入れ、親鳥チャーシューをのせて、小口切りにしたネギをのせれば完成。
つゆを飲んでみると、しっかりとコクのある鶏のだしが口いっぱいに広がります。鶏の脂も浮いているのに、あと味はすっきり。そして黒っぽくてコシがあり、パンチのある味わいの田舎そばに見事になじんでいます。驚くほど、鶏とそばがベストマッチ! コリコリと歯ごたえのある親鳥チャーシューは、かむほどにうま味が出てクセになる味わいです。親鳥をかみしめ、コクうまなつゆが絡んだ力強いそばをたぐっているうちに、あっという間に完食。
ともかく、ウマい! 食べ終わったらすぐに「また食べたい」、そしてしばらく食べないと「ああ食べたい」と思わせる、唯一無二の「鶏とそばの冷たい競演」。「かほくらし」の店内でもいただけます。
コシも風味もバツグンの乾麺「奴蕎麦」
河北町には「とんでもなくおいしい」と話題の乾麺があるのをご存じですか? 創業明治18(1885)年と、長い歴史を誇る「今田(こんた)製麺所」はそば、うどん、ひやむぎ、そうめんなど10種類以上の麺類を製造。すべて乾麺ですが、乾麺の概念を覆すおいしさで、ふるさと納税をはじめお取り寄せで高い人気を誇ります。原料となる粉にこだわり、地元・月山の清らかな雪解け水を使い、独自の製法で仕上げています。
なかでも好評を博しているのが、「全日本乾蕎麦大賞」を受賞した「奴蕎麦」(580円)。昔ながらの田舎そばは、創業当初から変わらぬ味わいの今田製麺所を代表する逸品です。そばのコンディションに合わせて、粉のひき方を工夫し、とりわけ乾燥の工程は気を遣うポイントなのだそう。自然の風を取り込み乾燥させるため、その日の気温、湿度に合わせて調整する熟練の職人技が必要。乾燥させすぎて麺が割れないように、一瞬も目を離さずに確かめてていねいに仕上げます。そんな「こだわり乾そば」をゆでて、水でしめて、まずはひと口。
えええええーーっ!!! 衝撃!
乾麺といえば香りもコシもいまひとつ、ぽそぽそして味がしない…といったイメージがありますが奴蕎麦はそうではありません! むしろその主張のすごさは、そば屋のそばを凌駕するほど。まず、香ばしいそばの香りが炸裂。麺をなにもつけずに箸でそのまま口に入れると、もっちりしたコシ、そしてシャープな口当たりとともに、滋味あふれるそばの風味がバシッと立ち上がります。つゆをつけるのがもったいないくらいの味わい。
けれど、つゆをつけても、とんでもなくそばの風味が全開。正直乾麺とはだれも気づかないはず! そもそも乾麺か生麺かで語るべきレベルではない「絶品そば」です。そんなすさまじく「そば感」あふえる奇跡のそば、ぜひお試しを。
もちもちすべすべ。赤ちゃんのお尻のような「ももじりうどん」
今田製麺所はユニークなネーミングのうどんも人気。その名も「ももじりうどん」(560円)。もちもちすべすべした生地は、まるで「赤ちゃんのお尻」のようなことから名づけられました。温かくても、冷たくてもどちらでもおいしくいただけるそうですが、今回はおすすめという山形の郷土料理「ひっぱりうどん」にしてみました。
ひっぱりうどんとは、ゆで上げたうどんを鍋からすくい上げ、納豆、サバ缶、卵などが入ったつけだれに絡めて食べる料理。
ゆでたももじりうどんの特徴は、すべすべ感! コシはちゃんとあるのに、くちびるにも、舌にも優しく、のどにすべり落ちていきます。1㎜も角がない、ほおずりしたくなるような口当たりに思わず、にんまり。細目でソフトな、ももじりうどんは、ひっぱりうどんのつけだれにもしなやかに絡んで、たしかに相性バツグン。温かくでもおいしいですが冷たい状態でいただくと、今度は「てゅるん」とした口当たりがまたまた魅力的です。
池田陽子さん
薬膳アテンダント、食文化ジャーナリスト、全日本さば連合会広報担当サバジェンヌ。宮崎県生まれ、大阪府育ち。立教大学社会学部を卒業後、広告代理店を経て出版社にて女性誌、ムック、また航空会社にて機内誌などの編集を手がける。カラダとココロの不調は食事で改善できるのでは? 関心から国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。食材を薬膳の観点から紹介する活動にも取り組み、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。趣味は大衆酒場巡りと鉄道旅(乗り鉄)。さばをこよなく愛し、全日本さば連合会にて外交担当「サバジェンヌ」としても活動中。近著に『中年女子のゆる薬膳。』(文化出版局刊)『1日1つで今より良くなる ゆる薬膳。365日』(JTBパブリッシング)ほか、『ゆる薬膳。』(日本文芸社)