名物が味わえる「北琵琶湖満喫御膳」香り高い「伊吹在来そば」を堪能

琵琶湖を中心に南北に広がる滋賀県は、豊かな食文化を有します。北部エリアの固有種で1000年の歴史ある伊吹在来そばや、淡水のトロともいわれるビワマスなど、珍しい食材が期間限定で東京のアンテナショップに登場。ご当地グルメ研究家の大村椿さんがリポートします。

特産の7品がセットになった「北琵琶湖満喫御膳」

アンテナショップの店頭

 滋賀県のご当地食材を堪能できる特別な御前がいただけるという話を聞き、日本橋のアンテナショップ「ここ滋賀」2階にあるレストラン「寛閑観(かんかんかん)」へ足を運びました。2024年10月15日から11月17日まで、県北部の旬の食材をふんだんに使用した「北琵琶湖満喫御膳」が特別メニューとして登場します。

 日本のほぼ真ん中に位置している滋賀県。京都の陰に隠れて目立たない存在…といわれることもありますが、 そんなことはありません。ユネスコ世界文化遺産の「比叡山延暦寺」、ゆるキャラブームの火つけ役「ひこにゃん」のいる「彦根城」は国宝ですし、競技かるたの聖地「近江神宮」 魅力的な文化財も多数。

 そして、関西地方の貴重な水資源である琵琶湖! つまり北琵琶湖エリアは、県北部地域(長浜市、高島市、米原市)のことで、琵琶湖の真ん中より上のほうというと少し想像がつくでしょうか。

北琵琶湖満喫御膳の俯瞰

 滋賀県には独自の食文化もあります。「北琵琶湖満喫御膳」には、伊吹在来そば、伊吹大根の鬼おろし(米原市)、鴨汁、合鴨ロース煮(長浜市)、びわます昆布巻、鮒ずしとも和え、新品種「きらみずき」新米ごはん(高島市)が並びます。

1000年の歴史「伊吹在来そば」と琵琶湖のごちそう「鴨肉」

伊吹在来そば

 まずは、伊吹在来そばからいただきました。そばのいい香りと、しっかりとしたコシがあります。つけ汁の中の鴨肉と肉団子も滋味深い。鴨ロースはかむとうま味があふれます。琵琶湖周辺では、冬になると漁網にマガモがかかるので、昔から鴨肉は季節のごちそうとされていました。添えられた鬼おろしは、伝統野菜の伊吹大根。一般的な青首大根の2倍の辛さで、シャキシャキとした食感とピリッとした辛味が、そばと鴨肉を引きたてて、相乗効果を生み出してくれます。

 滋賀県にそばのイメージはありませんでしたが、じつは在来種である伊吹そばには1000年以上の歴史があります。霊峰として名高い伊吹山のふもとで修行していた僧侶たちが栽培したのが始まり。時を経て、江戸時代にはそのおいしさが全国に知られていたそうですが、高度経済成長期のころには農家が激減。しかし、ひっそりと種を守り栽培を続けた人たちがいました。県の協力もあって、自然交配を繰り返しながら栽培面積が拡大し、現在では農林水産省の地理的表示(GI)にも登録されています。

固有種「ビワマス」と新米「きらみずき」、発酵食代表「ふなずし」

北琵琶湖満喫御膳

「琵琶湖の宝石」とも称されるビワマスは固有種で、エビやアユをエサにして回遊します。エサだけでもビワマスがおいしいのがわかりますよね。秋の産卵期を除いて一年中、漁が行われており、昨今は養殖ものもあります。とろけるようなうま味と上質な脂で「淡水のトロ」と呼ばれることも。滋賀県ではスーパーや鮮魚店などにも並びますが、全国的にはほぼ流通していません。そんな「びわます昆布巻」はご飯にもお酒にもピッタリ。

 つやつやの新米「きらみずき」もまた、滋賀の恵みを象徴しています。豊かな水資源を誇る滋賀県は県の農地面積のうち90%が水田で、全国で富山県に次いで2位と水田率が高く、多くのお米が栽培されているのがわかります。「きらみずき」の大粒な米粒はかむほどに甘味が増し、料理のおいしさをさらに引き立てます。

ふなずし

 滋賀の発酵食文化の代表といえば「ふなずし」。魚と米を乳酸発酵させた「なれずし」の一種で、「寿司の原型」ともいわれています。琵琶湖でとれるニゴロブナを使用したものが一般的で、アユを使ったものもあります。今回は、進化版の「鮒ずしとも和え」をいただきました。刻んだふなずしとペースト状のご飯をあえてあります。これをご飯にのせて口に運ぶと、なめらかな食感の中に刻んだふなずしの塩味と独特の酸味が、新米ごはんの甘さと相まってコクを生み出し、ひと口ごとに深い満足感が広がります。

七本槍と大根と米

 お酒とももちろん最高の組み合わせ。銘酒「七本槍」と一緒にいただくと、まさに至福のひとときです。ちなみに「七本槍」のラベルの文字は美食家で知られる北大路魯山人の書。肉、魚、野菜、そば、米、酒……すべてが、豊かな琵琶湖の自然の恵みから生まれており、この土地でしか味わえない魅力があります。

自然と歴史が織りなす映えスポットが日常に

メタセコイア並木

 食文化のほかにも、長浜市の「黒壁スクエア」は北国街道沿いに続く江戸から明治時代の街並みを生かしたエリアで、年間約200万人が訪れる人気スポット。琵琶湖に浮かぶ朱塗りの大鳥居が象徴的な白髭神社は、広島県の厳島神社を思わせる風景です。

 伊吹山にはパラグライダーや、積雪量世界一の記録をもつ関西最大級のゲレンデもあり、琵琶湖でSUP(サップ)ができたりと、アクティビティも楽しめます。高島市には、秋になると赤く色づいたメタセコイア並木道があり、SNSでも話題のスポット。米原市の中山道61番目の宿場町である醒井宿(さめがいじゅく)の地蔵川では、初夏から9月にかけて美しい水中花・梅花藻(ばいかも)が咲き誇り、人々の目を楽しませています。

 整備された観光スポットも多く存在していますが、市民のみなさんの生活のなかに広がる風景が特別に見えます。北琵琶湖エリアは、自然の息吹と歴史の彩りに包まれた場所。実際に足を運ぶと、滋賀の深い魅力にきっと触れられそうです。なかなか行けない人は、10月26日(土)にアンテナショップ「ここ滋賀」で行われる「北琵琶湖まつり」もおすすめ。地酒や炊き立ての新米が味わえるブースもあるようですよ。

<取材・文/大村 椿>

大村椿さん/テレビ番組リサーチャー
香川県生まれ、徳島県育ち。2007年よりフリーランスになり、2008年から地方の食や習慣などを紹介する番組に携わる。その後、グルメ、地域ネタを得意とするようになり、「ご当地グルメ研究家」として食に関する活動も行っている。