肉や魚介がてんこ盛り! 島根の「神楽めし」「のどぐろ丼」がすごい

お隣の鳥取県と間違われたりして、ちょっとマイナーなイメージがある島根県。だけど、出雲大社や石見銀山(いわみぎんざん)など、多くの観光資源を有するエリアでもあります。今回はライターの大村椿さんが、そんな島根県の新しいご当地グルメを紹介してくれました。

八百万の神が集まる土地・島根県と石見神楽

石見神楽

 皆さんは「山陰地方の島根県」というと、どんなイメージがあるでしょうか?お隣りの鳥取県と混同しがちで、それをネタにされることもよくありますが、右が鳥取で左が島根ですのでお間違いなく!

 その島根県は東西にとても広く、その距離は約230kmに及びます。東京~静岡と変わらぬほどなのです。県庁所在地の松江市や出雲大社がある東部の「出雲地方」と、世界遺産として「石見銀山遺跡とその文化的景観」が登録された、西部の「石見地方」、そして「隠岐諸島」の3つのエリアに分かれています。また石見神楽は、2019年に文化庁より日本遺産(Japan Heritage)に認定されました。

 島根県は『神様が集まってくる土地』としても知られています。古くからの呼び方で、一般的に10月は「神無月(かんなづき)」と言われていますが、島根県では、10月に全国から八百万(やおよろず)の神が集まるため、「神在月(かみありづき)」と言うのです。

 石見地方に暮らす人々にとって欠かせないのが「石見神楽(いわみかぐら)」の存在です。地元に根付いた伝統芸能で、石州和紙を使って作られるお面や豪華絢爛な衣装を纏い、太鼓や笛の音に合わせて、日本の神話を題材にした神楽を老若男女が舞います。なかでも盛んなエリアが浜田市で、人々の生活の中に神楽があり、お囃子の音を聞いて育ちます。高校の部活動に郷土芸能部があったり、子供の頃から慣れ親しんだ神楽を続けたいとの思いから、地元に就職をする人も少なくありません。

ヤマタノオロチ、えびす様に大黒様が登場?石見の神楽めし

 そんな人々に愛されている神楽の名を冠した「石見の神楽めし」なるものが、島根県西部の25店舗で食べられます。お肉てんこ盛りの「オロチ丼」、海の幸をたっぷりの「えびす丼」、旬の食材や特産品を使った「大黒めし」、石州瓦(せきしゅうがわら)で焼く「瓦ぬご縁」の4種類で、「神楽めし」はその総称です。

 今回お邪魔したのは、JR山陰本線の浜田駅から歩いて2分の場所にあるホテル松尾。7階のレストランでは山陰地方の海の幸が楽しめると評判です。

オロチ丼
オロチ丼

 まずは2種類のお肉を楽しめる「オロチ丼」からいただきましょう。神話に登場する八岐大蛇(やまたのおろち)からのネーミングです。お米は地元・弥栄産のツヤツヤのコシヒカリ。お肉は自然豊かな石見地方でのびのびと育った牛と豚をたっぷりと使っています。

 ヒレカツに使用しているのは、こだわりの飼料で育てたケンボロー芙蓉ポーク。食べるととても柔らかくてジューシーです。また、年間200頭の限定生産という石見和牛のカットステーキは、噛めば噛むほど旨味が出てきます。上にガーリックチップも散らされたスタミナ抜群の丼で、これは男子も大満足間違いなし。こちらは2019年のオロチ丼人気NO.1だったそうで、それも納得できる味とボリュームでした。

えびす丼
えびす丼

 そして新鮮な魚がふんだんにのった「えびす丼」。世界的なテニスプレイヤーの錦織圭選手が全米オープンで準優勝した際に「帰国したら食べたい」と言って、その名が一気に全国区となったノドグロ(赤ムツ)はもちろん、サザエやウチワエビなど、見た目も華やかで旬にこだわった魚介類がこんなにのっていて迫力満点。いろんな味と食感が楽しめて、これはまさに「神の丼」ですね。

 これらの「神楽めし」は、提供するお店によって中身が異なる「企画系ご当地グルメ」なんです。そのため、その見た目、具材やレシピもお店の数だけあります。ご自分のお気に入りのお店を探して食べ比べてみてください。

漁港で食べる絶品「のどぐろ炙り丼」

のどぐろ炙り丼
のどぐろ炙り丼

 そして、ノドグロと言えば……。個人的におすすめしたいのが、浜田漁港の敷地内に建つ浜田公設水産仲買売場2階にある「めし処ぐっさん」です。朝6時から営業していて、その日に水揚げされたばかりのお魚が食べられる人気店。市民や観光客も訪れるので、土日のお昼前後はいつも行列になっています。

 漁港で働く人たちの食事場所なので、メニューはかなりバラエティに富んでいて、親子丼やカレーなどを食べている人もいるのですが、わざわざよそから来た人が頼むとすれば、ぜひ食べてほしいのが、「のどぐろ炙り丼」です。

 ご飯の上にびっしりと敷き詰められた、柔らかなノドグロの切り身。それをバーナーで炙ったものが提供されます。日本海で獲れるおいしいノドグロは脂が多く、「白身魚のトロ」と呼ばれることもあります。炙ると脂が落ちて香りが立ちあがり、これがまた食欲を刺激するのです。この切り身とワサビが相性抜群。ふわっとした糸唐辛子もアクセントになって、ご飯がどんどん進んでしまいます。

 しかし、ここで食べすぎてはいけません。テーブルに置かれたポット。この中にノドグロのアラから取った出汁が入っていて、これを注いでお茶漬けにできるのです。なんとも贅沢ではないですか。しっかりとした深みのある旨味が溶け込んでいてもう最高……。お出汁の量には限りがあるので、くれぐれもこの出汁をかけすぎないこと。ほかの人の分を奪ってしまわないようにご注意ください(笑)。

お茶漬け

 公設市場は老朽化のため、2020年秋頃に新しくなるとのこと。こちらの食堂も営業継続するのでしょうか? のどぐろ炙り丼が引き続き食べられることを祈っています。

 石見地方を訪れるチャンスがあれば、「石見の神楽めし」と「のどぐろ炙り丼」を食べに行ってみてくださいね。絶対に後悔させません。

<取材・文/大村 椿>

テレビ番組リサーチャー・大村 椿さん
香川県生まれ、徳島県育ち。2007年よりフリーランスになり、2008年から地方の食や習慣などを紹介する番組に携わる。その後、グルメ、地域ネタを得意とするようになり、「ご当地グルメ研究家」として食に関する活動も行っている