長野県北部の北信エリアでは、6月から7月上旬にかけて、サバ缶を使ったご当地グルメ「タケノコ汁」がよく食べられます。地元の「根曲がり竹」と一緒につくられるこの料理。地方の新しい楽しみ方を提唱するライター・大沢玲子さんが紹介します。
長野の北信では初夏にサバ缶が山積みで売られる
2017年頃から爆発的ブームとなったサバ缶。値段も手頃な大衆魚だったはずが、オシャレなパッケージをまとった高級缶詰も登場し、サバ缶を使ったレシピも広がりを見せています。
だが、そんなブームのずっと前から、栄養価も豊富なこの青魚の缶詰を愛し続けてきたエリアがあります。長野・信州北部の北信エリアです。統計を見ても、北信の中心地・県庁所在地でもある長野市は魚介の缶詰の消費金額で全国3位(*総務省統計局・都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキングより)。その代表選手としてサバ缶が多く購入されているのです。
ただし、地元の人の購入時期は6月から7月上旬が大半。スーパーなどの目立つ場所に、ドドーンとサバ缶が山積みされるのもこの時期です。
じつは、北信エリアでサバ缶の代表的メニューといえば、根曲がり竹とサバの水煮缶を使ったみそ仕立てのタケノコ汁。北信や新潟など、雪国を代表する山菜、根曲がり竹が採れる時期に合わせ、多くの北信っ子がサバ缶と値曲がり竹をこぞって買い求めるというわけです。
サバ缶と根曲がり竹で簡単にできるタケノコ汁
根曲がり竹とは、北海道から本州中部以北の標高1000m前後の山地に分布するチシマザサの若竹のこと。一般的に食べられる孟宗竹と比べると、スリムな形状が特徴です。
主な産地は山陰や信越、東北、北海道などの雪国。ほかのエリアでは姫竹とも呼ばれますが、地上に芽が出始める際、雪の重みで根元が横に伸び、弓なりに立ちあがる様子から、信州では根曲がり竹という名がついたそう。
地元では6月から7月上旬にかけ採取が行われ、初夏の郷土料理として家庭で使われるほか、飲食店の入口に「根曲がり竹のタケノコ汁あります」などと、「冷やし中華始めました」的な貼り紙が掲示されることも。
SNSなどでも「タケノコ汁」ネタが投稿され、「やっぱりうまい」「今年も季節がやってきた!」「今の時期は欠かせない」といったコメントがあふれます。
筆者も北信っ子の「タケノコ汁愛」については耳にしていたものの、なかなかタイミングが合わず、食べられずにいました。ならばと今回、県内有数の産地、山ノ内町(やまのうちまち)の根曲がり竹を取り寄せてつくってみることにしました。ウィンタースポーツでも人気の志賀高原を擁し、標高2000m級の山々に囲まれたこの地は、根曲がり竹の一級品が採れる産地としても有名なのです。
調理法は簡単。皮をむき、根本の硬い部分や節を切り落とし、適当な大きさに切ったら火がとおるまで煮て、サバの水煮缶を汁ごと投入。みそを溶き入れれば完成です。
根曲がり竹は新鮮なものなら下ゆでしなくてもえぐみがなく、独特のさわやかな甘味が感じられます。そしてシャキシャキとした歯ごたえ、脂のうま味あふれるサバ缶のコクがみそ汁に溶け込み、季節感あふれる1品に!
もちろん、みそは信州産をチョイスするのが地元のこだわり。同じく信州ブランドの七味「八幡屋礒五郎」をパラリとふりかければピリッと味がしまり、また違った風味を楽しめます。そのほか、溶き卵や豆腐、野菜を入れたりして具だくさんに仕立てるなど、家庭によって受け継がれた調理法に特徴があるそうです。
タケノコ汁を手軽に楽しめる、レトルトの「サバタケ」も登場
難点は初夏の短い期間にしか根曲がり竹が採れないため、採れたての味を楽しめる時期が限られること。また、値曲がり竹が生えているササヤブは高さ2メートルぐらいになり、入り込むと出られなくなるほど群生しているのが特徴。夢中になって採取しているうちに方向を見失い遭難するリスクもあるそう。
また、クマの好物でもあるため、食事中のクマとバッタリ遭遇ということも。こうした事故がニュースで流れたりするのもこの地ならでは。そこまでして食べたい⁉ と思われるほど、愛されているご当地グルメなのです。
根曲がり竹の代表的産地、山ノ内町では、地域資源の掘り起しや農産物を活用した商品開発を進めるなかで、県外の人にも時季を問わず郷土の味を知ってほしいと、タケノコ汁を缶詰にした「サバタケ」を開発、販売。志賀高原で獲れた旬のものだけを使用し、製造される同製品は通販でも購入できます(2020年生産分から、缶から1人分の小容量にしたレトルトパウチにパッケージを変更)。
パッケージを空けて温めるだけで、信州の豊かな自然の恵みが口に広がる逸品。まずはお手頃な「サバタケ」からデビューし、あらためて旬の時期に、採りたての根曲がり竹を使ったたけのこ汁にトライしてみてはいかがでしょうか。
<取材・文・写真/大沢玲子>
たび活×住み活研究家 大沢玲子さん
鹿児島出身の転勤族として育ち、現在は東京在住。2006年から各地の生活慣習、地域性、県民性などのリサーチをスタート。『東京ルール』を皮切りに、大阪、信州、広島、神戸など、各地の特性をまとめた『ルール』シリーズ本(KADOKAWA)は計17冊、累計32万部超を達成。18年からは、相方(夫)と組み、アラフィフ夫婦2人で全国を巡り、観光以上・移住未満の地方の楽しみ方を発信する書籍『たび活×住み活』シリーズを立ち上げた。現在、鹿児島、信州、神戸・兵庫の3エリアを刊行。移住、関係人口などを絡めた新たな地方の魅力を紹介している。