住宅街に特大ニジマス!? 富士宮の「紅富士」がスゴイわけ

川魚がおいしいこの季節。川魚というと、渓流釣りのイメージが強いかもしれませんが、各地で養殖もされています。水が豊富に湧き出る静岡県富士宮市もその1つで、そこではスゴイご当地サーモン「紅富士(あかふじ)」が生産されています。どんな点がスゴイのか、おさかなコーディネータのながさき一生が出向きレポートします。

静岡県富士宮市のニジマス「紅富士」は特大サイズ!

紅富士
富士宮のブランドサーモン「紅富士」Ⓒ有限会社柴崎養鱒場

 静岡県富士宮市は、ニジマスの生産量が日本一。ニジマスは、サーモンと呼ばれることが多いサケ科の魚の中でも成長しやすく、味もよいため養殖が盛んです。そのなかでも、富士宮市の富士養鱒漁業協同組合で展開されているブランドサーモンが「紅富士」です。

 紅富士は、富士山の豊富な湧水で通常よりも長い育成機関(2~3年) を経て、2kg以上の特大サイズになるまで丹念に育て上げたプレミアムブランドのニジマス。紅富士には「養殖管理指針」や「養殖管理マニュアル」が定められており、品質管理が徹底されています。その基準は大きさや飼料に関してだけでなく、身の色にまで関しても、「サーモンカラーチャート」と呼ばれる色の指標で25以上のものとするように決められている徹底ぶりです。
 こうしてつくられた紅富士は、静岡県が認定する「しずおか食セレクション」にも認定され、味、品質ともに高い評価を誇っています。

富士山の麓で生き生きと育つニジマス
富士山の麓で生き生きと育つニジマスⒸ富士養鱒漁業協同組合

住宅街の中にあるニジマスの養鱒場

 今回、この紅富士の詳細を調べるべく、富士宮市淀師にある柴崎養鱒場を訪ねました。地図に従って向かうと、「この辺りだろうな」と思った場所がまさかの住宅街。「場所を間違えたかな?」と思っていたところ、平林社長が迎えてくれました。

 どうして住宅街のど真ん中に養鱒場あるのかと質問すると、「昔は、このエリア一体が養鱒場だったのです。それが、時代が進むにつれて養殖池が閉鎖されて、宅地に変わっていきました」とのこと。つまりこの景色は、住宅街の中に養鱒場があるのではなく、養鱒場の周りに住宅街ができた結果だったのです。

 平林社長の事業に掛ける思いはひと際強いものがありました。
「この養鱒場の景色がなくなるのでないかと危機感を抱いて、養鱒場を継ぎました。これまで、食品商社や外資系コンサルにも務め、MBAも取得しましたが、すべてはこのために築いたキャリアです」

柴崎養鱒場と住宅街
柴崎養鱒場と住宅街

豊富なわき水と品質管理がおいしいニジマスを育てる

 養鱒場の中へ案内されてまず驚いたのが、街中に川をつくるほどわき出る水の量でした。柴崎養鱒場では、ニジマス養殖に適切とされる温度帯のちょうど真ん中あたりである14℃に水温が保たれていますが、これは常に水が湧き続ける恩恵です。平林社長が言うに「本当に水に恵まれた地域」とのことで、富士宮で養殖業が盛んな要因の1つになっています。

 また平林社長は、品質とともに生産性向上にも力を入れており、病気で死ぬ稚魚を減らすため、入池時の殺菌を徹底するなど、ご自身に代が変わってから新たな取組みを行っています。さらに若手の積極的な雇用も進め、社員の平均年齢は20歳代にまで若返ったとのこと。

「今、変革を起こせないと、日本の養殖業は世界から取り残されてしまいます。そうした危機意識から、様々なことにチャレンジしています」(平林社長)
 こうした新たな取組みや若い力が、ブランドサーモン「紅富士」を牽引しているのかもしれません。

養鱒場を案内いただいた平林社長
養鱒場を案内いただいた平林社長

紅富士は鮮やかな色と濃厚な香りが魅力

 さてさて、紅富士の気になるお味についてです。スモークサーモンでいただくと、まずはその鮮やかな色に目を引かれます。しっとりとした食感に、ニジマス特有の濃厚な香りが漂い、それでいてクセがなくて食べやすい。市場で高い評価を得ていることにも頷けました。加熱してもおいしく、特に身のふっくら感がほかのサーモンとは異なり、印象的でした。

紅富士のスモークサーモン
紅富士のスモークサーモン

 柴崎養鱒場のニジマスは、「食べチョク」から購入できます
 ただ味がいいだけでなく、日本の養殖業の未来へつなぐ、そんな思いがこもっている紅富士でした。紅富士が作り出すこれからの未来に注目です。

〈文・写真 ながさき一生〉

おさかなコーディネータ・ながさき一生さん
漁師の家庭で18年間家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。現在、同大学非常勤講師。元築地市場卸。食べる魚の専門家として全国を飛び回り、自ら主宰する「魚を食べることが好き」という人のためのゆるいコミュニティ「さかなの会」の参加者は、延べ1000人を超える。