日本一食べづらい『よいとまけ』誕生のヒミツ
「日本一食べづらい」というキャッチコピーのお土産をご存知でしょうか? その名も「よいとまけ」。北海道は苫小牧に位置する株式会社三星さんの看板商品なのですが、よりもよってなぜそんなキャッチコピーに? どれだけ食べづらいのか? 今回はそのあたりに迫ります。
ハスカップを使用したお菓子
まずこの「よいとまけ」とは、ハスカップジャムを使用したロールケーキのこと。姉妹品にイチゴジャムを使用した「よいとまけ いちご」もあるとのことでしたので、今回はこの2つをお取り寄せ。2本入りで1520円はなかなか良心的に感じます。
ハスカップとは黒紫色の実をつけるスイカズラ科の植物。苫小牧を中心とする勇払原野で栽培されているそうですが、傷むのが早いため北海道外であまりお目にかかる機会はありません。
で…、なにがそんなに「食べづらい」のかというと、コレです。ロールケーキのまわりにびっちり塗られたハスカップのジャム! 一応、ジャムの外側にはオブラートもめぐらされているのですが、そんなもの意に介さないといった勢いで、袋を開けた瞬間から手がベタベタします。既に嫌な予感。
袋から出してお皿に移し……あーあーあーあー。
そりゃベトつきますよね。拭いても洗っても手がなんとなく甘い&ベトベト感が…。なかなか手ごわい。そして机やら食器やらスマホやら触ったはじからなんとなくベトついていきます。
なんでこんな形にした!? 外側のジャムはなしにすりゃいいじゃん!? となりかけたところで、『昭和28年の発売直後から「ジャムを内巻きにしたらどうか」「あらかじめ切っておいてはくれないか」とクレームが殺到したが、初代社長の小林正俊氏はそのつど丁寧に説明した』という記載を見つけます。おや?
『苫小牧への想いをお菓子で表現できないか』と小林氏が考えた際、彼のふるさと苫小牧の原風景は、子供の頃よく食べたハスカップの実、そして王子製紙の作業現場から聞こえてくる「よいとまけ」=「よいとぉ、まいたぁ」という労働者の掛け声。
ジャムに囲まれたロールケーキは労働者が運ぶ丸太をイメージしており、つらい仕事に耐えながら苫小牧を支えた彼らを思って創られたのがこの「よいとまけ」…。
このお菓子には製作者のふるさとへの強い思いが込められているからこそ、世間へ安易には迎合しなかったということですね。その結果「よいとまけ」は半世紀以上に渡り愛されるお菓子となり、「食べづらさ」を逆に武器にしたという…めちゃめちゃいい話じゃないですか。
自分の生業としている漫画にも似たようなところがあり、「○○が流行ってるから○○な漫画」というのは読者に見抜かれやすく(売れず)、「誰がどう言おうと俺は□□が描きたいんだ!」という初期衝動こそが人の胸を打ったりするのです。難色を示されるとすぐ初志を曲げるタイプの小心漫画家としては、よいとまけの食べづらさが輝いて見えてきました。
さて味の方はというと、ロールケーキ部分が想像よりもしっかり甘く、その分ハスカップジャムの酸味がよく効いています。まずジャムの酸っぱさ、のあとにケーキの甘さが混じってマイルドにしていく感じといいましょうか。とても2つの相性がよくおいしいです。
姉妹品の「よいとまけ いちご」も同じくとてもおいしいのですが、こちらはジャムにそこまで酸味を感じない分、本家ハスカップのほうが私としては好みでした。夫は反対に「いちご」の方が癖がなくて好き、と言っていたので参考にしてみてください。
そんなわけで日本一食べづらいお土産「よいとまけ」いかがでしたでしょうか。現在はカットされたものが販売されていますが、発売当初は1本そのまま販売されていて、その「さらなる食べづらさ」を懐かしむ声に応えて「復刻版」として丸1本も数量限定発売されたこともあるとか。
皆さんもぜひあちこちベタベタさせながら「よいとまけ」召し上がってみてください。
株式会社 三星
『よいとまけ「ハスカップ・いちご」詰合せ (2本入)』
1520円(税込)
日持ち ★★☆☆☆
配りやすさ ★★★☆☆(箱ごと渡せば…)
食べにくさ ★★★★★
西園フミコ
漫画家。「コミックDAYS」で2018年から全国のおみやげをとりあげる『おみやげどうしよう?』を連載(全4巻)。