罪を犯した人は地域社会でどう暮らす? 社会包摂の立場で考える

障害、貧困、ジェンダー、マイノリティなど、多様な人がいる社会で私たちは生活しています。罪を犯して矯正施設にいた人たちは、その施設を出た後、地域社会でどのように過ごせるといいでしょうか。インクルージョン(包括、包含)の研究をしている野口晃菜さんにお話をうかがいました。

刑務所や少年院で支援を行う

刑務所や少年院で就労支援を行う

 野口さんは刑務所や少年院に入っていた人、特にその中でも障害のある人が、施設を出た後スムーズに地域で生活するための支援を5年ほど行っているそうです。現場で支援を行うなかで、社会の枠組みからこぼれ落ちざるを得ない人をどうやって包括できるか考えているといいます。

「今の社会で福祉的な支援などにつながることができる人は限られています。こぼれ落ちざるを得なかった人たちを、どうしたら社会の中で包摂できるのか? まずは自分が知らないといけないので、現場に入り込んでいろんな支援をしているところです。現場で支援をしていると、制度的にうまくいっていないところが見つかるので、必要に応じて研究をしたり、提言をしたりしています。なぜ罪を犯してしまったのか、をたどっていくと、やはりその背景には様々な社会の構造があることがわかります」

 支援をすることで学んだことを、そもそもどうやったら格差を生まないですむか、どうしたらこの人は罪を犯さなくてすんだのか、今後どんな制度が必要か、という検討につなげているそう。

罪を犯した社会的な背景を考える

罪を犯した社会的な背景を考える

 罪を犯した人を社会から排除するだけではインクルーシブにはならない、という野口さん。そのとき社会はどうだったのか、に意識を向けるといいます。

「罪を犯した人たちは、排除されても仕方ないと思われている人たちですよね。そこに対して、『本当にその罪ってその人たちだけのものなのか』、ということをいつも考えます。その人だけを悪者にして排除することで、社会は本当にインクルーシブになるのか。なんでその犯罪を起こさざるを得なかったか、という社会的な背景を分析して、そこに対してアプローチをしていくことがとても大切だと思います。

たとえば、貧困状態にあり、知的障害がある人は役所の窓口に行っても、なにが書いてあるかよくわからない書類を渡されて、自分で生活保護の申請をすることが難しかった。そのため、なんども窃盗を繰り返さざるを得なかった。また、小学生の頃からできないことが多く、家族にも学校にも何度も叱責をされ孤立し、仲間に入れてくれた人に頼まれて詐欺をした少年もいます」

 役所の申請主義はどうしていったらいいのか。できないことの多い子への学校での関わりはなにを変えられるか。何回も罪を犯してしまう人とも接しているという野口さんは、背景にある根本的な問題を解決することで、罪を犯さなくてすむのでは、と考えています。

 最近は10代後半や20代でも社会課題に対して関心の高い人が増えていて、とても心強いです、と野口さん。

「私が理想とする社会のあり方はシンプルです。ある属性や一部の人だけが中心になるのではなくて、マイノリティを含めた多様な人がいることを前提として、だれもが自分らしく生きられるような社会の仕組みをつくっていくこと。それを1人1人の責任にするのではなく、社会の構造を変えていく。これが、私のやりたいこと。私自身も年齢が上がっていくなかで、いつも思うのは、不均衡な構造を次の世代に継承したくない、ということです。自分自身が行動をし続けるとともに、若い世代自身が望む社会をつくっていけるように、できることを最大限やっていきたいと思います」

野口晃菜さん
野口晃菜さん

【野口晃菜さん】
一般社団法人UNIVA理事/国士舘大学非常勤講師。小6でアメリカへ渡り、障害児教育に関心を持つ。その後筑波大学にて多様な子どもが共に学ぶインクルーシブ教育について研究。小学校講師を経て、株式会社LITALICO研究所長として、学校・少年院等との共同研究や連携などに取り組み、その後一般社団法人UNIVAの立ち上げに参画、理事に就任。インクルージョン実現のために研究と実践と政策を結ぶのがライフワーク。経産省産業構造審議会教育イノベーション小委員会委員、文科省新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議委員、日本LD学会国際委員など。共著に「発達障害のある子どもと周囲の関係性を支援する」など