太鼓教室で障害をもつ子どもたちを支援。横浜の「どんこん教室」

障害をもつ子どもたちが参加できる和太鼓教室「どんこん教室」は、創作和太鼓集団、打鼓音(だこおん)が運営。横浜の高校を拠点とした活動は口コミで広がり、今年で13年目を迎えました。今では発表会にも参加している、教室の様子をレポートします。

障害をもつ子どもたちが通う和太鼓教室

星槎(せいさ)高等学校
神奈川県横浜市旭区・若葉台にある星槎(せいさ)高等学校

 どんこん教室が開催されているのは、神奈川県横浜市旭区若葉台にある星槎(せいさ)高校。この高校では、学校になじめない生徒や不登校の生徒を受け入れ、必要に応じて心理検査やカウンセリング、コミュニケーション能力を高めるSST(ソーシャルスキルズトレーニング)を行うなど、個々の生徒に合わせた支援の取り組みを積極的に行っています。

 おもに障害をもつ子どもたちを対象にした「どんこん教室」は、子どもたちが和太鼓を楽しみながら習得できる教室で、コミュニケーション能力や身体能力の向上も目指しています。

どんこん教室
どんこん教室には全国大会での優勝経験を持つ講師も

 教室では、音楽を通じて体を動かすことで子どもの表現力を育む教育法であるリトミックを採用。子どもたちは、講師のわかりやすい誘導に沿って、全身を動かしながら太鼓にふれあいます。講師の誘導では、動物や食べものなどイメージしやすい単語を使い、子どもたちが楽しくリズムをとれて、交流しながら自由に参加できるプログラムを提供。

どんこん教室
この日は間近にせまった発表会の曲目も練習しました

太鼓は子どもたちのストレス発散の場にも

 障害の有無に関わらず、人はそれぞれその日によって気分の波がありますが、なかでも障害がある子どもたちは、感情や活動の切り替えが難しいことも。どんこん教室では、講師が入室時の朝の声かけで、参加する子どもたちの表情やリアクションをみて、その日の気分はどうか、いつもと変わりがないかに注意をはらっているといいます。

「今日はいつもより元気がないな、というときや、ちょっと興奮しているかな、という場合は、それに合わせて対応できるようにしています」(メイン講師として和太鼓を教える秋本顕さん)

どんこん教室
星槎高等学校の校内はバリアフリーとなっている

 どんこん教室は、障害をもつ子どもたちのストレス発散の場としての側面ももっています。
「障害を持つ子どもたちが自由に太鼓をたたける場所は多くありません。そういう意味でもこの教室をたくさんの方に知ってもらいたいですね」(秋本さん)

 子どもたちが思い思いに太鼓をたたいたり、講師やクラスメイトと音を合わせたりすることで、音楽を通じて非言語的コミュニケーションをとることができるのも教室の魅力のひとつ。

最初は近所から騒音クレームが来た

 楽器を演奏すると、どうしても音の問題が発生します。星槎高校の周囲には住宅が多くあり、また、和太鼓は音が遠くまで響きやすいため、どんこん教室を開催するにあたって地域の協力・理解を得ることは必須。今では地域の社会福祉協議会の助成を受けるなど、地域と一体になって、年齢や障害の有無などを問わず、だれもが楽しみながら参加できる生涯学習としての和太鼓教室の取り組みを進めています。

どんこん教室
実際に教室で使用している和太鼓。叩くときに音が響きすぎないよう布をかけて使っています

「2011年に隣の緑区から旭区に活動の拠点が移りました。そのときは、地域の方との連携がまだ取れていない状況だったので、太鼓の音へのクレームがきてしまって。その後、僕たちがイベント出演や日常の地域活動を続けるうちに、自治会の方にもご協力をいただけるようになり、今は活動へのご理解とご支援をいただいています。地域の方、保護者の方たちのご協力があっての活動ですね」(秋本さん)

 知人の紹介で教室を知り、5年ほど参加しているという女性は、「月2回の教室なので親の負担も少ないのと、子どもがのびのび太鼓のレッスンを受けられるので、通い続けられています。音に合わせてリズムをとって体を動かす協調運動が難しいのですが、教室に通うことで楽しみながらできるといいなと。あとは『皆と音を合わせる』ということも学んでほしい。これまで教室に行くのを嫌だといったこともないし、先生にも親切にしていただいています。なにより本人が楽しくやっているので、それがいいですね」と語ってくれました。

自信のなかった子どもが太鼓で成長していく

どんこん教室
打鼓音の生徒の「MY バチ」。大きさは太鼓に合わせて違う

 どんこん教室の運営元である「打鼓音」を始めたきっかけとなったのは、星槎高校がサイパンとの交流研修で和太鼓を演奏したこと。和太鼓を現地で演奏・披露し、この活動を日本に戻ってからも続けたいということで「どんこん会」は部活として誕生しました。

「それまで自分に自信がもてなかった子どもたちが、人に認められるとか、お客さんが自分の演奏に感動して涙を流してくれたりとか、そういう体験に心を動かされたり。それで一生懸命に太鼓をたたくようになって、たくさんの場所で演奏して、全国大会に出場するようになって…というのがこれまでの活動を通じての発展ですね」と打鼓音の代表の渡邊晃伸さん。

「教室を通じて太鼓の楽しさを広めていきたいです。子どもたちには太鼓を楽しみながら、少しでもなにか身についた、という実感を学んでほしい。個人としては、『この先生みたいになりたいな』と思ってもらえたらなによりです」(秋本さん)と子どもたちへの今後の期待を語ってくれました。

創作和太鼓集団 打鼓音
特定非営利活動法人 創作和太鼓集団 打鼓音

【どんこん教室】
どんこん教室は毎月2回、日曜日に開催している子どもたちの育成、社会参加のために、こころとからだを解き放ち、表現する喜びを味わえるバリアフリーの活動。さまざまな特性をもつこどもたちへの和太鼓の普及を目的とした活動を行っている。
TEL:045-922-1677 MAIL:info@dako-on.com

特定非営利活動法人 創作和太鼓集団 打鼓音
2006年創立、神奈川県旭区若葉台を拠点に活動。高校の和太鼓部が会社となった星槎グループの教育事業の1つ。2011年12月18日に行われた「太鼓祭inくまがやドーム2011日本一決定戦」において地方予選を勝ち抜いた8チームと競い合い初優勝。以後2度に渡り日本一に輝き、2019年には世界一も受賞。他団体やフリーランスの太鼓打ちに声をかけ活動の場を提供するなど、日本の和太鼓文化発展と仲間とのつながりを大切にする活動を行う。

<取材・文/カラふる編集部>