ヘイトスピーチもあった埼玉の団地で外国人と共生。大切なのは世代間交流でした

日本で暮らす外国人の増加にともない、さまざまな文化的バックボーンをもつ人たちとの共生が社会的なテーマになっています。今回は「外国人集住団地」として知られる、埼玉県川口市の芝園団地の自治会事務局長を務めた、岡崎広樹さんに多文化共生のためのポイントを聞きました。

かつては「チャイナ団地」と呼ばれヘイトスピーチも

芝園団地
埼玉県川口市にある芝園団地

 埼玉県川口市の芝園団地は、礼金や保証人が不要で、一定の条件を満たせば外国籍の人でも入居しやすいUR(都市再生機構)の団地。1990年代の終わり頃から中国出身者の居住者が増え、以降さまざまな国の家族が居住し、現在では2500人以上の外国人が暮らしています。

 一時期は「チャイナ団地」と呼ばれ、排外主義団体がヘイトスピーチを住人に浴びせる事件も発生。メディアにも取り上げられることもあった芝園団地ですが、岡崎さんは2014年ここに移り住みました。

「20代の頃は商社で働いていて、ノルウェーに住んでいました。そのときに、日本とは全然違う働き方や考え方に触れたことで、さまざまなバックボーンをもつ人が暮らす芝園団地に興味をもったんです」(岡崎さん)。

岡﨑広樹さん
岡﨑広樹さん 撮影:浅野剛

 岡崎さんが住み始めた頃には、そうした騒動もひと段落していたそうですが、「上の階の子どもの騒ぎ声が気になる」、「ゴミ出しのルールが守られない」、「夜遅くに共有スペースで騒ぐ」といった苦情は絶えなかったそう。

 自治会に参加した岡崎さんは、住民と協力しながらこうした問題に対応。
「生活ルールの中国語版「芝園ガイド」をつくり、配布したり、住人が触れ合える場を設けるため、団地の夏祭りに参加を呼びかけたりしました」。

中国語版「芝園ガイド」
中国語版「芝園ガイド」
中国語版「芝園ガイド」
ガイドでは団地の歴史や暮らしについて中国語で説明している

問題は文化ギャップよりジェネレーションギャップ

 こうしたトラブルに対応するなかではっきりと確信したことがありました。それは、トラブルの原因は出身国の違いによる文化的なギャップだけではなく、若い世代が多い外国人家庭と高齢者世帯が多い日本人家庭の間のジェネレーションギャップも少なくないということ。
「子育て世帯と高齢者世帯は交流が少ないですよね。子どもがいる家庭同士なら『お互い様』ですむ騒音の問題も、お年寄りはそう思えない場合もある。生活時間もずれがちだし、そうしたところから問題が起きていたんです」。

 外国人が多く暮らしていることで文化の違いに目が行きがちですが、実際には世代間のコミュニケーション不足が大きな問題のひとつだったのです。
「日本人同士でも同じような問題は起こりますよね。文化の違いだけではなく、世代の違い、共通点が少ないことがこうした住民トラブルの根本にある場合も多いんです」。

大学生が地域コミュニティづくりに参加するプロジェクト

芝園団地
団地の掲示板

「芝園団地に限らず、さまざまな人が暮らす地域では、お互いの共通点が少ないために、『見知らぬ隣人』になりやすい。自治活動を行う際には、その見知らぬ隣人同士をどうやってゆるやかに結びつけることができるかを考える必要があります」と岡崎さんはいいます。

 そもそも、隣人同士を結びつけるコミュニティづくりを担う自治会や町内会の運営も難しい時代になった、という岡崎さん。芝園団地でもよその団地でも、自治会でコミュニティづくりにかかわる人は子どもの頃や若い頃に地域コミュニティで助けたり助けられたりした経験のある高齢者が多かったそう。
「これからは、こういった経験がない人が多くなると思います。そんな人たちが『地域のために活動しよう』とは考えにくいですよね。ですから、若い世代には、地域コミュニティにかかわる経験を積み重ねてほしいと思っています」。

 そんな思いが込められているのが、さまざまな大学などの学生たちが参加する「芝園かけはしプロジェクト」。「多文化・多世代が共生できる、より暮らしやすい芝園団地をつくる」をテーマに、イベントやお祭りなどを通じて、住民同士の交流を促進しながら、地域コミュニティのあり方を模索しています。日本人と外国人だけではなく、世代間の交流も図るイベントを開催していて、芝園団地の共生コミュニティづくりに貢献しているそう。

芝園かけはしプロジェクト
「芝園かけはしプロジェクト」が企画して、誹謗中傷が書かれた机とベンチを日中の住民で交流のシンボルに
芝園かけはしプロジェクト
「(この手形を付けてくれた)団地の住民はおそらくもう転居し入れ替わっているけれど、日常の一風景になっています」

「どのような地域社会を築いていくことがそこに暮らす人々にとって望ましいのか、それらを実現するためにはどのように行動するのがよいのか。そんなことを、考え続けていきたいですね」と岡崎さんは話してくれました。

【岡﨑広樹さん】
芝園団地自治会前事務局長。1981年埼玉県上尾市生まれ。早稲田大学商学部卒。三井物産で海外業務を経験し外国人との共生に関心を持つ。2012年退社後、松下政経塾で学ぶ。2014 年から埼玉県川口市芝園団地に住み、2017年から自治会事務局長を務める。執筆活動や講演などを通じて隣近所が外国人になる時代を考えるきっかけづくりに取り組む。自治会として2017年度国際交流基金「地球市民賞」など、個人として2018 年日本青年会議所「人間力大賞総務大臣奨励賞」を受賞。