「土足厳禁」は「靴を脱いでください」外国人にも理解しやすいやさしい日本語

だれにとってもわかりやすい日本語である「やさしい日本語」。普段聞きなれない言葉ですが、「外国人集住団地」として知られる埼玉県川口市の芝園団地の自治会事務局長を務めた、岡崎広樹さんが自身の経験とともに教えてくれました。

「やさしい日本語」は外国人にも分かりやすい簡単な日本語

「やさしい日本語」は外国人にも分かりやすい簡単な日本語

「やさしい日本語」という言葉を聞いたことがありますか? 初めて聞く言葉だな、と思った人が多いかもしれません。2020年の文化庁によるアンケート結果では、「やさしい日本語で外国人に対して伝える取り組みの存在を知っている」と回答したのは、約3割の人でした。まだまだ知らなくても当然といえます。

2020年の文化庁によるアンケート
文化庁「令和元年度「国語に関する世論調査」の結果の概要」より

「やさしい日本語」とは「外国人にも分かるように配慮した簡単な日本語」のことです。簡単な例を挙げてみます。外国人が、靴を脱がずに土足厳禁の場所に入ろうとしています。「土足厳禁ですよ」と声をかけても、土足厳禁の意味がわからないこともあります。そこで、「靴を脱いでください」と声をかければ、日本語を学び始めた外国人にも、わかりやすい=やさしい日本語に早変わりするわけです。

 もしかしたら、相手は外国人なのだから、日本語がわかるのかな? 土足厳禁を英語で説明すれば、よりわかりやすいのでは? でも、自分は英語を話せないから、外国人に声をかけるのは難しいな、と感じる人もいるでしょう。

 しかし、外国人と英語で会話をする必要がある、というのはじつは思い込みのようです。2023年に出入国在留管理庁が、約6,000人の在留外国人にアンケートをしました(在留外国人は、大まかにいうと、観光客のような短期滞在の方者ではなく、中長期に日本で暮らすことを許可された外国人のこと)。アンケート回答者のうち、じつに75%の在留外国人が、「日常生活で必要な会話ができる」以上の日本語能力があると回答しています。つまり、在留外国人は、日本語での会話をできる可能性が高いわけです。

在留外国人にアンケート
法務省「令和5年度 在留外国人に対する基礎調査 報告書」より

 一方で、まだ日本語での会話に慣れていない場合もあります。そんなときこそ、やさしい日本語の出番です。相手の日本語レベルに合わせて、自分自身の話し方を変えるだけでも、互いに会話がしやすくなります。

やさしい日本語を使うときの3つのポイント

やさしい日本語

 では、具体的に、やさしい日本語の話し言葉のポイントを紹介します。出入国在留管理庁と文化庁は、大きくわけて6つ、細かくわければ28のポイントを挙げています。しかし、最初から28ものポイントを意識していたら、とても会話する気になれないでしょう。そこで、具体的な話し方について、とくに大切と思われる3つのポイントを挙げてみました。

1. 短く切って話す
2.「です・ます」で終わらせる
3. 難しい言葉・言い回しを使わない

 まずは、「短く切って話す」です。次の文章を読んでください。

 昨日、近所のパン屋で甘いクリームがたくさん入ったパンを買いましたが、そのクリームの味が10年前にヨーロッパで食べたお菓子の味によく似ていたので驚きました。

 この文章のなかには、昨日の話と10年前の話や、近所での話とヨーロッパでの話が含まれています。さまざまな話題が1つの文章に含まれていると、日本語での会話に慣れていない人は、混乱してしまいます。そこで、この文章を短く切ってみます。

・私は昨日、近所のパン屋に行きました。
・私は、甘いクリームがたくさん入ったパンを買いました。
・私は、そのクリームの味に驚きました。
・私が、10年前にヨーロッパで食べたお菓子の味によく似ていたからです。

 このように1つの文章を短く切るだけでも、会話の内容に集中しやすくなります。集中力が途切れないので、会話の内容を理解しやすくなるわけです。短く切って話すだけでも、日本語での会話に慣れていない人は、やさしさを感じるでしょう。

 2つ目は、会話の終わりに「です・ます」を使うことです。日本語学校や教科書で日本語を学び始めの頃、外国人は、「です・ます」という丁寧な表現から学びます。そのため、文章の終わりが「です・ます」になっていると、日本語を学び始めた人には、一文が終わったなとわかりやすいのです。

 やさしい日本語の会話では、尊敬語や謙譲語を使わないのが基本です。日本で長年育った人でも、尊敬語や謙譲語の使いわけは難しいこともあります。まだ日本語での会話に慣れていなければ、当然、尊敬語や謙譲語の意味さえも理解できないでしょう。一方で、丁寧な話し方を選ぶのが、日本の生活でもあります。そこで、丁寧語の「です・ます」を使えば、失礼な言い方にもならないわけです。

 3つ目は、「難しい言葉・言い回しを使わない」です。日本語を学び始めた頃には、買い物で自分の欲しいものを説明するような基本的な言葉を学びます。そこで、難しい言葉を簡単な言葉に言いかえるとわかりやすくなるのです。
 たとえば、歯科→歯を治す病院、大家さん→家を貸す人、予防接種→病気にならないための注射、といった小学校低学年の子どもにも理解しやすい言葉を心がけることが望ましいのです。

やさしい日本語はわかりやすく伝えるための技術

やさしい日本語

 やさしい日本語は、相手にわかりやすく伝える会話の技術です。そのため、相手の日本語レベルに合わせて、話し方を変えようと意識することが大切です。やさしい日本語を使った会話について、日本語が上手な外国人は、初心者扱いをされていると感じて嫌な気持ちになるかもしれません。自分は相手に配慮したつもりでも、予想外の反応が出てしまう可能性もあるわけです。そこで、相手が日本語での会話に慣れていない場合に、やさしい日本語を使えばよいのです。相手の日本語レベルに合わせて、話者がやさしさのレベルを変えていくことも、やさしい日本語を使うときのポイントといえるでしょう。

 外国人が声をかけてきたら、自分は英語を話せない、と心を閉ざす必要はありません。まずは日本語で返事してみることをお勧めします。相手の日本語レベルがわかってきたら、必要に応じて、やさしい日本語を使ってみてください!

【岡崎広樹さん】
1981年埼玉県上尾市生まれ。早稲田大学商学部卒。三井物産で海外業務を経験し外国人との共生に関心を持つ。2012年退社後、松下政経塾で学ぶ。2014年から埼玉県川口市芝園団地に住み始め、2017年4月から2023年5月まで自治会事務局長を務めた。現在、埼玉県多文化共生推進会議委員を務める。
著書に『外国人集住団地―日本人高齢者と外国人の若者の“ゆるやかな共生”』(扶桑社新書)、『団地と共生―芝園団地自治会事務局長二〇〇〇日の記録』(論創社)がある。