福岡で多胎児支援の取り組み。双子、三つ子の親たちがサポート組織を運営

子育ての大変さ、支援の不足は問題になっても、双子、三つ子などを育てる世帯が抱えるリスクや苦悩が注目されることは多くありません。自らも双子の子育てをしながら福岡県で多胎世帯へのサポート活動を始めた亀崎智子さんが、その現実と活動の必要性について教えてくれました。

虐待発生率が2.5~4倍。双子・三つ子育児の大変さ

三つ子

 多胎(双子・三つ子)妊娠出産育児は、そのかわいさからいい面ばかりがフォーカスされがちですが、さまざまなハードルが数多く待ち受けています。

 たとえば妊娠時の母子にかかるリスクが高いこと。約7割が低出生体重児で、医療的ケアが必要な確率も上がります。そして、多胎妊娠や出産、育児についての情報や行政支援が見つけにくいこと。養育費や外出時に配慮するべきリスクは2、3倍になりますし、社会的、心理的な孤立から虐待死リスクは単胎育児世帯の2.5~4.0倍といわれています。

 日常生活でいえば、双子ベビーカーのサイズは特別で通れない場所も多く、ミルクや離乳食、おむつや着替えなど荷物の量は単純に倍以上、泣き出せば音量も倍。授乳やおむつ替えは同時にできません。ママひとりで2人以上の乳児を連れて外に出かけることは至難の業です。

 そのうえ同じ境遇の人に出会う機会があまりなく、単胎のママと悩みの種類が異なることで地域の子育てサロンなどでも共感できることが少ないのです。そして育児イベントにも参加しにくいなど、どうしても孤立しやすくなってしまい、苦しい妊娠・育児期を過ごしてしまうという人も少なくありません。

 一般社団法人tatamamaは、そんな多胎世帯の支援を目的に、自身も双子ママである牛島智絵さんが2023年7月に起ち上げました。
 牛島さんは産後、自身で同じ境遇の人を探し、個人的に知り合った多胎世帯で交流会などを開催。そこで、同じ境遇だからこそ分かり合える喜びを感じ、活動範囲を広げて支援につなげたいとの思いに至りました。
 tatamamaは理事メンバーも全員が双子のママで、それぞれがなにかしらの孤独を経験し、同じ双子・三つ子のママと交流することで心が軽くなった経験をしています。

産前から安心して繋がりができる環境づくり

親子

 tatamamaでは、双子・三つ子ママの悩みの上位でもある「情報不足」「人手不足」「孤独」の3つを解するお手伝いができるように活動しています。

 一つめは公式LINEによる多胎に特化した情報の配信。通常の妊娠・出産・育児情報では、多胎には当てはまらないことも多いため、多胎向けの情報を集約して配信しています。

 二つめは、多胎世帯交流会・プレファミリー教室の開催です。毎月いろいろなコンセプトで開催することで、地域のタタママパパ(多胎児ママパパの略)同士でつながれる場所を用意。多胎出産に特化したプレファミリー教室では、出産前から先輩や専門家とつながることができ、安心して出産に望める環境づくりのお手伝いをしています。

 三つめは、妊娠から産後3か月まで伴走型で寄り添うtatamamaピアサポート。現在は準備段階ですが、養成講座を受けた先輩タタママパパや専門職などによる、産前産後のいちばん大変な時期に支援ができるような仕組みです。

 手軽にほしい情報が得られるLINEや、すでに開催20回以上を超える多胎世帯交流会は、多くのタタママパパからうれしい感想をもらっています。

双子・三つ子の妊娠出産育児を心から楽しめるまちづくり

tatamamaメンバー

 活動拠点である福岡市では、いくつかうれしい変化がありました。まずは「ふくおか・まごころ駐車場」という障がい者や妊産婦が駐車場を安心して利用できる制度のなかで、多胎児妊産婦の利用期間が産後3か月から産後18か月(1歳半)に延長。子連れ、さらに双子、三つ子の外出には欠かせない駐車場が余裕をもって使えることは、本当に助かります。

 また、福岡市の予算案に「多胎児世帯向け」項目がはじめて追加されました。ほかにも産前・産後ヘルパー派遣の外出支援が20回追加されたり、多胎児の場合は2人目以降の産後ケアの利用料が無料に。
 ヘルパー派遣の回数増加に対しては、供給量の不足が懸念されるなどの問題も抱えてはいますが、「多胎児世帯向け」として独立した予算案が盛り込まれたことで、多胎育児についての関心が広がっていくことが期待され、私たちの活動のあと押しになっています。

 いちばん大変でもある産前産後のタタママに寄り添った伴走型サポートを実現するためには、さまざまな関連機関と協力できる体制づくりが必要です。そして、タタママにとってやさしい街は、最終的にすべての人が暮らしやすい街へと繋がると信じているため、今後もコツコツと、できることから活動していきます。

 設立1周年の2024年、福岡県、福岡市、古賀市、FBS福岡放送の後援で、7/20(土)に多胎シンポジウム(参加費無料)を開催することに。多胎の妊娠・育児中の方はもちろん、多胎の知り合いがいる人、少しでも関心のある人はぜひ、参加してみてください(当日の様子はYoutubeライブにて配信も予定しています)。

<取材・文/亀崎智子>

【亀崎智子さん(一般社団法人tatamama理事)】
代表理事の牛島智絵が2023年に設立した一般社団法人tatamamaは、「多胎児ママにやさしい街は、すべての人が暮らしやすい街」を掲げ、福岡を拠点に多胎育児支援を展開。保育士や保健師の資格を生かし、多胎育児を支援する50名以上の「tatamamaサポーター」協力のもと、法人設立から1年で相談会や交流会を20回以上開催。多胎育児支援を通じ、だれもが生きやすい社会の実現を目指す