フィンランドの「自然の恵みを受ける権利」幸福度の高い暮らしのために

フィンランドは、国連の持続可能開発ソリューションネットワーク(SDSN)が発表している世界幸福度ランキングで7年連続トップの国。ヨガやバレエの講師で「フィンランドに恋して Suomiでしたい50のリスト」の著者、伊集院霞さんに、現地で感じた文化の違いや幸福度の高い理由などを聞きました。

自然を享受しながら心地よく暮らす

Lappennranta(ラッペーンランタ)の森の小道
フィンランド南東部南カルヤラ県の都市 Lappennranta(ラッペーンランタ)の森の小道

 日本(約37.8万㎢)とさほど変わらない約33.8万㎢の国土面積を保有し、人口は20分の1(兵庫県と同じくらいの555.6万人)ほどであるため、人と人との距離がたっぷりとあるというフィンランド。国土の3分の2が森であり、居住地と森との距離が近く、すぐに自然の中でリフレッシュすることができるというところも魅力だといいます。

「日本の森はちょっと一般の人は入りにくい起伏が大きな山だったりして、地域にもよりますが、暮らしの近くに森があるという感覚はあまりないですよね。フィンランドでは生活のすぐ近くに森があるから、まちで働いてちょっとリフレッシュしたいときに森を歩いて、みたいなことがすぐにできたりします。そういう地理的なところも幸福度に影響があるといわれています。フィンランドの森はほどよく整備されて歩きやすくなっていることが多いです」

フィンランドの森に自生するブルーベリー
森に自生するブルーベリー

 また、フィンランドとその近隣国(スウェーデンやノルウェー、デンマークなど)には、「自然享受権」という独自のルールがあるそう。これは、自然の恵みをだれもが楽しむ権利が認められているというもので、自然に敬意をはらい、土地の所有者に迷惑をかけなければ、自由に森の中でキノコやベリーを収穫していい(国の保護区や個人の所有する農作物を除く)というもの。

「自然享受権の考え方からは、この国の人々が自然や野生の動植物を大切に共有し育んでいることがわかるような気がします。また、人気のアクティビティであるブルーベリーつみのできるシーズンは夏に始まり秋の始めまで。シーズンに間に合えば、森のなかになっているベリーを摘んでそのまま口にぽいっと入れて味わう、などの楽しみも経験できますね」

レヴォントゥレット(Revontulet)と呼ばれるオーロラ
レヴォントゥレット(Revontulet)と呼ばれるオーロラ

 オーロラの鑑賞は、現地でも人気のアクティビティ。鑑賞できる期間はだいたい8月末~2月の間で、秋から冬にかけてみることができるそう。

「オーロラはフィンランド語で「狐火」という意味のレヴォントゥレット(Revontulet)と呼ばれます。フィンランドの先住民族であるサーミには、『キツネが丘を走るときに尻尾が雪原に触れ、それが火花となって巻き上がり、夜空に光となって現れる』という伝説があります」

伊集院さんの言語学数ノート
伊集院さんの言語学習ノート

 伊集院さんがフィンランドに興味を持ったきっかけは、インドのヨガ道場でフィンランド人のオッリ(Olli)さんとその友人に出会ったことだったそう。

「私がインドで初めて聞いたフィンランド語の会話は、英語でもない、アジアの言葉でもない、聞いたことがないかわいらしい響きの言語でした。たとえば、フィンランド語で「おはようございます」は「Hyvää huomenta!」(フヴァー フオメンタ!)っていうんです。ありがとう、はKiitos(キートス)です」

現地で感じた文化の違い

ヘルシンキ市にあるヘルシンキ中央駅
ヘルシンキ市にあるヘルシンキ中央駅

 現地に滞在する際は、友人やそのご家族とのコミュニケーションを積極的に行い、現地の文化や慣習を体感するようにしているという伊集院さん。フィンランドと日本の違いについては以下のように話してくれました。

「フィンランドの人と接していると、彼らは控えめで愛情深く、主体性についての意識がしっかりとあるんだなと感じます。たとえば、日本でいうところの今年の目標って年始に立てますよね。それを自分との「lupaukset(訳:約束事/ルパウクセット)」とする、と。目標としてこうしたいな、こうだったらいいな、とふわっとしたものはなくて、明確に自分に約束をする、という表現になる。日常の会話のなかでも、『あなたはどう思うの?』とよく聞かれるので、その度に私はどう思っているんだろう?と立ち止まって考える機会になったり」

 ほかにも、サービスの提供を待つ立場において、印象に残っているエピソードがあったそう。

「以前フィンランドとノルウェーの国境を越えてドライブをした際に、途中で工事があり一方通行になっている道があったんです。日本ではたいてい30秒か1分くらいで通過できると思うのですが、そのときは20分くらいそこに停まって待つことに。でもフィンランド人の友人は怒ったりしないで、飲み物を飲んだりしてただ待っているんですね。別の日にデパートでクリスマスギフトの包装を待ったことがあったんですが、そこでは5、6人が長イスで待っていてなかなか進まない。けど、だれもそれにイライラしたりしているようには見えない。待つことに寛容というか、サービスを提供する側もされる側もどちらも無理をしていないことが自然である、というところに驚きがありました」

伊集院霞さん
伊集院霞さん

 豊かな自然をそれぞれが大切に享受し、共存する。人間は自然の一部なのだ、ということを実際に生活のなかで感じることができるフィンランドが大好き、という伊集院さん。
 著書の「フィンランドに恋して Suomiでしたい50のリスト」では、伊集院さんが現地でしたいことをBucket List(死ぬまでにやっておきたいこと)として、ひとつずつリストを達成していく様子を美しい写真やイラストとともに紹介しています。

「フィンランドが好きな人はもちろん、どんな国か知らない人にもぜひフィンランドのことを知ってほしいし、その魅力をちゃんと伝えられていたらうれしいです」と話してくれました。

伊集院霞さん
自然からの恵みをわけてもらいながら感謝して、国内外へ旅をする自称「旅するヨーギニ」。旅先の美しい背景の中でヨガをしてYouTubeで紹介。これまでに訪れた国11カ国、50都市以上。国内では 38都道府県と5島。独学でフィンランド語をゼロから学び、悪戦苦闘中。著書に『本当に体が硬い人のためのくずしヨガ』(誠文堂新光社)、『腰痛』『更年期』(技術評論社)など。

<画像提供/伊集院霞、取材・文/カラふる編集部>