大分県南部、佐伯(さいき)市蒲江(かまえ)から船でおよそ30分のところにある住民11人の小さな離島「深島(ふかしま)」。島の周囲は約4km、20分も歩けば集落すべてを回ることができる小さな島で、70匹の島ネコに囲まれ暮らすあべあづみさんに日々のことをつづってもらいます。今回は、現在あべさんが取り組んでいる手話の学習について。
さまざまな人とコミュニケーションをしてわかりあいたい
島民が11人しかいない深島ですが、全国各地、また海外からもたくさんの人が島を訪れてくれます。日本語で会話ができなくても、翻訳アプリや身振り手振り片言の英語などでじゅうぶんコミュニケーションは可能(やっぱり英語ちゃんと話せるようになろう!と思っていますが笑)。障害がある人も来てくれます。車イスの人も、聴覚障害や知的障害がある人、本当にいろんな人が来島します。
島にくる人たちの職業や生活環境、考え方が違うように、言葉が違うこと、障害があることも、全部が私たちそれぞれの違いだと考えていて、そしてその違いをできるだけ知りたいなと思っています。自分たちの知らない世界に興味があるのも事実ですが、違いを知ることで仲よくなれたり、距離が縮まる気がしているからかもしれません。
いろんな人とお話する手段のひとつである手話。私も1年ほど前から勉強中です。英語は中学レベルのカタコトとスマホの翻訳機能でなんとかなるものの、手話は独学ではどうにもならず、市の講座などに通っています。
島に来る人たちに、ばあちゃんたちはよく「どこから来たん?」と声をかけますし、私たちも宿泊客とのお話のなかで仕事のことや考え方など、たくさん話をしています。自分たちの知らないことを知っている人との関わりで、自分たちの世界が少しずつ広がっていくと思っているし、お互いを知ることで親戚のようなおつき合いをして行けたらいいな、という希望ももっています。できるだけたくさんお話して、理解して、わかりたい、わかりあいたい、と思っています。
耳の不自由な家族との出会いをきっかけに手話の勉強を開始
手話を始めたきっかけは、ある家族との出会いでした。もう8年前くらいのことになりますが、深島で宿を始めたばかりの頃、耳の不自由な家族が泊まりに来てくれました。予約の際に電話リレーサービスというのを使って電話でお話したり、メールをしていたのでお母さんやお父さんたち大人とは身振りや筆談で島の説明などをすることができました、今思うと、私の口のかたち(口型)を読み取ったりもして理解してくれていたんだと思います。
その家族には子どもがいて、いちばん小さな子は3歳くらいの男の子でした。その子が島に滞在中、私に一生懸命何かを伝えようとしていたのです。身振り(手話)でネコのことを話しているんだなとはわかったのですが、ネコがどうしたのか、なにを思ったのかがまったくわからず、それがとても悲しくて悔しくて。
彼は生まれてから音のない世界が当たり前で、家族とは手話や口話などでお話していたのだと思います。だから、私にも一生懸命いつもの方法で何かを伝えようとしてくれていた、それなのに私は彼の当たり前をわかることができなかった。それは、3歳くらいの子どもにとってはショックなことなのではないかと思うのです。
親になってわかりましたが、小さな子は耳が聞こえていておしゃべりができても、なにを伝えたいのか本人がわかっていないことがあります。そういうときは質問をしながら少しずつ伝えたいことを一緒に理解していきます。大人でも伝えようとしたことが相手に伝わらなかったら悲しいですよね。それと同じように、伝わらないことで彼も悲しい思いをしてしまったかもしれない。そんな思いをすることが多くあったら、もしかしたら誰かに伝えることを諦めてしまうかもしれない。
その出来事をずっと悔しく、申し訳なく思っていました。それを解消するには手話を学ぶしかない。それからも数年に1回(昨年は2組)難聴や耳の不自由な人が島に遊びにきてくれたことが決め手となり、手話の本を購入し、SNSで手話動画を見るように。でもやはり、動画だけでは理解は深まらず、わからない手話表現や微妙なニュアンスなどを聞くことができず限界を感じ、厚生労働省が障害者総合支援法に基づき、各市町村で手話奉仕員になるための第一歩目の講座として開設されている「入門・基礎編講座」に通うことにしました。
まずはこの講座を卒業し、その次に手話通訳者になるための講座に出席し、試験に合格すると市町村での手話通訳者としての登録・活動をすることができます。まずはこの講座に行こうと決めました。しかし、講座は毎週行われ、島から毎週通うのは大変だぞ…とちょっと足踏み…。
そして2024年の4月から満を辞して受講をスタート。3月までの1年間、ほとんど毎週佐伯市内まで通いながら講座を受けています。最初こそとても緊張しましたが、先生も一緒に学ぶ仲間もみんな明るく楽しくて、毎週木曜日がとても楽しみになりました。また、講座終わりにみんなでランチに行ったり、おすすめの旅先や飲食店の話で盛りあがったり、さまざまな年齢のお友だちができてとてもうれしいです。
手話を学んで感じた日本語の難しさ
手話を学び始めて1年半、やっと少し手話での会話に自信がもてるようになってきました。そして気づいたのは、日本語って難しいということ。
「よい」という言葉は声に出せば「天気がよい」も「食べてよい」も一緒ですが、手話では異なります。簡単にいうと、goodとOKの違いみたいな感じですが、こういった「音は同じなのに意味が違う」言葉が意外とたくさんあることに気づきました。「あの人らしい」と「かわいらしい」と「いったらしい」のらしいも全部違います。考えてみると当たり前のことなのですが、手話を学びながら、同時に日本語を学び直している気持ちになることも多く、あらためて日本語の難しさを感じています。
最近はドラマなどで手話を目にする機会が増えたり、手話で注文するカフェがあったりと少しずつ手話に触れる機会が増えています。主要都市には手話カフェがきっとあると思いますので、興味がある人はぜひ行ってみてください。手話ができなくても、難聴や耳の不自由な人たちはたくさんのコミュニケーション方法を知っているし、まずは直接知ることが大切だと思っています。
私はまだまだこれから、手話通訳者を目指してのんびりペースですがスムーズに手話でお話ができるよう学び続けます。もしもこの記事を読んでくださった方の中に、私も手話勉強してるよ!とか、聴覚障害を持つ人がいましたら、ぜひ教えてください。手話を使わない方がいることも理解していますし、もちろん健聴者にも、私たちとは違う世界を知っている1人の人として、いろんなことを教えていただけたらうれしいです。
<写真提供・文/あべあづみ>
【あべあづみ】
住民12人の小さな離島「ふかしま」の島民。「深島を無人島にしない」をミッションに、夫と2人でぃーぷまりんとして深島みその製造やinn&cafeの運営をしています。深島にすむ人も来る人もネコもほかの生き物たちも、みんなが今よりほんの少し幸せになれる島を目指しています。尊敬する人は深島のばあちゃんたち。ふかしまにゃんこ(@fukashima_cats)、深島活性化組織Deepblue