天塩町に移住して5年ぶりに中国・天津市を訪問。中国ならではの変化に感心

北海道札幌市で生まれ石狩市で育ち、東京や中国・天津市でもさまざまなキャリアを積んだ後、2021年の暮れに北海道天塩町へ移住。現在は地域おこし協力隊として活動する三國秀美さんが、日々の暮らしを発信します。今回は元移住先の天津市にある職場を訪問し、最新の中国をレポート。

日本人の中国訪問短期滞在ビザが再び免除に

天津古文化街
まだ人の出がまばらな天津古文化街。旧正月には人であふれかえる

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて2020年から停止されていた、日本人の中国訪問短期滞在ビザの免除措置が2024年11月30日から再開。すぐにチケットを予約し、12月には約5年ぶりに天津市を訪れることができました。

 ビザチェックがない入国審査は、拍子抜けするほどスムーズ。一度は中国移住を決めた自分が、南京路に面した高層ビルのガラス扉に映ると、まるでタイムマシンでコロナ禍前に戻ったような気分になりました。

 さかのぼること2019年。北海道移住を考え始めた頃に知人からオファーがあり、東京・中目黒の治療院を閉院して移住した天津市。初めて訪れた中国は、道端で売られている野菜もすでにQR決済で、その先進度にかなりのカルチャーショックを受けたのを覚えています。

 通訳や、のちに合流した中国人セラピストとの交流では、現地の人たちが大事に身に着けるヒスイの腕輪や、バラの香りのする月餅など、たくさんの新しいものに触れることができました。

 ホテルスパということもあり、深夜に入る施術の予約を断ろうと交渉に苦労したことも、今では懐かしい思い出。移住から1年弱で帰国となり、その後2年近く東京で自宅待機が続くとは思いもしませんでした。

道端に座る人
外気温ほぼ0℃のなか、商店街の片隅で中国将棋に興じる地元住民

 今回、あらためて訪れた天津市は、経済活動を緩めることなく新たな時代を迎えている、アツい都市でした。現地のニュース番組ではさかんに観光政策がアピールされていましたが、厳密なビザ申請を必要とした期間が長期に渡っていたのと、正月・旧正月の前でもあったため、観光客の数はまだ多くなく、逆に天津らしさを垣間見ることができました。

日本人鍼灸師として初めて就労ビザを取得

交差点の角に建つホテル
1863年創業の趣を残す天津利順徳大飯店。元勤務先の日本式サロン「禾笙」がある

 天津利順徳大飯店は、当時3カ月をかけて就労ビザを取得した思い出の地。今でもサロン立ち上げメンバーは大切な仲間です。そのうち私を含め2人に、日本の鍼灸マッサージ資格をもつ施術家として初めての就労ビザが発行されました。とくに私は当時美容鍼指導をしていたこともあり、日本式美顔鍼は富裕層の中国人だけではなく、世界から集まる宿泊客にも注目されるメニューでした。

 こうして今回、免除措置直後に中国に訪れたのには訳があります。かつて1989年にドイツでベルリンの壁崩壊という歴史的転機があったとき、私は仕事でロンドン郊外に住み、ドイツ人も含め世界中から集まる職員といたのに、その重みをまったく理解できていませんでした。

 知っているようで知らない、社会潮流を自分ごとしてとらえる力のたりなさを反省し、歴史や文化を学ぶ姿勢をもつことにしたのです。

古い展示物
博物館では当時の貴重な資料や道具を使い文化を再現している

 在職中は行く余裕がなかったホテル地下の博物館を初めて訪れ、自分の職場の歴史や文化を知ることができました。エレベーターは創業以来働き続ける、中国最古のオーチス社製。まさに歴史を感じることのできる場です。

古いエレベーター
オーチス社製エレベーター

中国らしい温故知新を巻き込んだ都市づくり

大きな建物
ホテル最寄りの郵便局は博物館級。ポストは緑

 1400万人近くの人口を抱える大都市、天津。歴史ある建物は「天津市歴史風貌建築」として厳重に管理され、異国情緒豊かな点も魅力です。

大きな建物
中国元への両替によく使う中国銀行。向かって右隣は中国銀行博物館

 ホテルだけでなく郵便局や銀行は博物館級の建物が現状のまま使われています。道路も広く、横断歩道を渡るのにもあせってしまうほどです。

 5年前より確実にシェア自転車や車両の数は増え、駐車場確保が難しそう。歩道には二重三重に車が駐車されていて驚きました。現在中国では電気自動車への移行が進み、青いナンバープレートがガソリン車、白と緑のナンバープレートが電気およびハイブリッド車と区別されています。

大きな交差点の真ん中にいる犬
昼夜問わず交通量は多い。野良犬が渡れるか心配

 一方で、歴史的景観の一部である商店街は、これまでと変わらない営業風景。冬の風物詩であるサンザシあめを探して歩いていたら、ふと目についたナガイモあめにクギづけに。想像以上においしかったので、機会があったら試してみてはいかがでしょうか。

屋台に集まる人々
屋台の飴は人気。あまりの驚きに選んだナガイモ飴は、イモが蒸してあって食べやすく二度びっくり

 サロンに置いていたはずの自分の道具が見つけられないまま帰国となりましたが、それも中国らしさのひとつかもしれません。個人的には、日本では品薄だった棒灸(モグサを和紙で巻いて棒状にしたお灸)などが買えたのは貴重でした。変わらぬ天津と変わりゆく天津のギャップを楽しみに、また訪れたいです。

ビルが立ち並ぶ街
夕暮れ時のまち。電気自動車が増えたため空気がきれいになったように感じる

 2025年は乙巳(きのとみ)。「努力を重ね、物事を安定させていく」年という説もあるようですので、引き続き天塩での積み重ねは続きます。

お灸や道具が並ぶ
中国の棒灸など。東洋医学は道具も多様で奥が深い

<取材・文・写真/三國秀美 取材協力/時暁晨(とき・ぎょうしん)>

【三國秀美(みくにひでみ)さん】
北海道札幌市生まれ。北海道大学卒。ITプランナー、書籍編集者、市場リサーチャーを経てデザイン・ジャーナリスト活動を行うかたわら、東洋医学に出会う。鍼灸等の国家資格を取得後、東京都内にて開業。のちに渡中し天津市内のホテル内SPAに在籍するも、コロナ感染症拡大にともない帰国。心機一転、地域おこし協力隊として夕日の町、北海道天塩町に移住。