香川では「タイムランチ」に「うどん焼き」なぜかひっくり返る表現にびっくり

普段、なに気なく使っている言葉が、地域によって違う表現をされていることがあります。香川県で耳にしたご当地表現を、ご当地グルメ研究家の大村椿さんがリポートしてくれました。

香川では「ランチタイム」ではなく「タイムランチ」

看板に書かれたタイムランチ1

 香川県高松市に滞在していたときのことです。東京から一緒に行った3人で喫茶店に入り、コーヒーを飲んで打ち合わせをしている最中でした。「追加の飲み物をオーダーしましょうか」という流れで、1人が「えっ?」と小声でつぶいているのに気づきました。
 
 彼は手元のメニューを見ています。ドリンクやデザート、軽食のほか、モーニング、ランチの時間帯限定のメニューが並んでいる、ごく一般的なものです。目を落としていたのはランチの部分でした。そこでピンと来たのです。そこには大きく「タイムランチ」と書かれていました。

 じつは、香川県では「ランチタイム」という言葉を、「タイムランチ」とひっくり返して言うのです。私はお隣の徳島県出身ですが、徳島では聞いたことがない表現で、香川県独特のものです。

 町を歩いていると、お昼どきには店頭の看板などにもメニューが並んでいたりしますよね。高松市内にいると、看板にも「タイムランチ」と書かれていました。

「ランチタイム」と「タイムランチ」の違いを調査

看板に書かれたタイムランチ2

 東京からUターンして高松在住のKさんに尋ねてみたところ、「いやいや、みんな『ランチタイム』って言うよー」とはじめは否定したものの、送ってもらった街角の写真には、このように「タイムランチ」が飛び交っていました。

 また、とくに気にしていない人もいるようで、「え? タイムランチ……?」という人が複数名いらっしゃいました。でも翌日、1人から「ごめん。めっちゃタイムランチやった」と写真つきでメッセージがきていました(笑)。

 あらためて香川県に住む人に話を聞いてみると、「え、タイムランチでしょ。そんなの当たり前」(50代男性)、「だってメニューにも書いてあるやん?」(30代男性)などのご意見をいただきました。皆さん、当然過ぎてまったく違和感がないようです。

「ランチタイムとは言わないのか?」と聞くと、「お昼ごはんだからタイムランチ」(30代女性)、と言われました。ん? だったらランチタイムでいいのでは……? なんならタイムランチを略して『タイム』と言うようです。……ランチじゃなくて?

看板に書かれたタイムランチ3

 さらにヒアリングしていると、「お昼のメニューやからタイムランチやん」(40代女性)、「今日のタイムなんやろねー?」(40代男性)、という話も出てきて混乱しつつも、「朝はモーニング、お昼はタイムランチ。それがなにか?」(30代女性)、という意見を踏まえ、だんだん「ランチタイム」と「タイムランチ」の違いがわかってきました。

 つまりランチタイムとは、一般的には「昼メニューを提供する時間帯」を指す言葉ですが、香川では「お昼の時間帯」や「お昼休み」のことで、タイムランチは「昼メニュー」そのものを指しているわけです。「でもやっぱりランチタイムでいいのでは…」と思ってしまう私はやはり香川県民ではないですね。

うどん県では「焼きうどん」は「うどん焼き」である

メニュー看板のうどん焼き

 さて一方、香川県のお昼ご飯で外せないのが、やはりうどん! しかしここにも謎がありました。香川では、「焼きうどん」のことは、「うどん焼き」と、これまたひっくり返して呼ばれているのです。

 母が香川県出身で、昔、「お昼にサッと『うどん焼き』でもつくろうか?」と言われたことがありました。そのときは母オリジナルの表現だと思ってとくに気にしてなかったのですが、あとで調べて香川独特なのだと知ることになったのです。

 こちらも香川在住者に確認してみたところ、「うどんを焼いてるから『うどん焼き』」(50代女性)とか「お好み焼き、うどん焼き、そば焼き、一緒やろ?」(40代男性)との話。飲食店でもうどん焼きが提供されており、スーパーの総菜コーナーに置いてある焼うどんの表記は、よく見るとうどん焼きでした。ちなみに、いわゆるうどん屋のメニューに焼きうどんがあるのは稀です。だいたい食堂やお好み焼き屋、鉄板焼き屋、居酒屋などにあります。これは他県と同じです。

 ヒアリングした印象としては、うどん焼きという言葉は、使う人がわりと多いようなのですが、「 うどん焼きもそば焼きも言う」という、どっちも使う派と、「そば焼きは言ったことないなぁ」と言う派とが混在。大手メーカーのインスタント焼きそばなども流通していますし、使う人が減っているようです。

めし焼きの看板

 そして今回、衝撃の「めし焼き」を発見! しかし香川県出身のKさんは「私もこれは初耳です(笑)」と言っていたので、さすがにこの表現は一般的ではなさそうです。とはいえ、最近は全国チェーンのお店も多いので、いずれも若者を中心に「言わない」「知らない」という人も少なくはないようで、「ランチタイム」や「焼きうどん」という言葉も違和感はないそうです。

 なぜひっくり返して表現するようになったのかは、さらなる調査が必要ですね。せっかくなので、皆さんも香川県へ行ったときは、看板やメニューをよく見て、ぜひ、タイムランチやうどん焼きを楽しんてみてください。

<取材・文/大村 椿>

テレビ番組リサーチャー・大村 椿
香川県生まれ、徳島県育ち。2007年よりフリーランスになり、2008年から地方の食や習慣などを紹介する番組に携わる。その後、グルメ、地域ネタを得意とするようになり、「ご当地グルメ研究家」として食に関する活動も行っている。