北九州のド派手成人式を関東出身女子大生が取材「私もやってみたいかも」

レインボーのリーゼントにド派手な着物、巨大な幟や扇子を手に集合する新成人の姿が今年も話題となった北九州市の成人式。関東出身の女子大生が参加者たちにいろんな疑問をぶつけてきました。

恐る恐る声をかけると笑顔で回答、選挙も行きます

北九州市成人式の様子

 2025年1月12日(日)、北九州市主催の成人式「二十歳の記念式典」が開催されました。この日の天気予報は雪。どうなることかと思いましたが、当日は晴れ間も見えるいい天気。開場時間の10時になると、ド派手な振袖や袴に身を包んだ新成人がやってきます。

 今回、北九州市の成人式を取材したのは栃木県出身で北九州市立大学3年生の私、田村美咲です。自分自身の成人式には昨年、地元の栃木県で出席しました。栃木ではほとんどの人が一般的な振袖またはシンプルなスーツ姿。式典に出席し、旧友と写真を撮ったり近況を報告したりと、ごく普通の成人式を楽しみました。

 一方で北九州市の成人式といえば、ギラギラと輝く衣装に虹色リーゼントで現れ、ケンカやお酒、バイクでここぞとばかりに暴れて目立った者勝ち、というイメージ。どんな様子か気になるけれど、直接話を聞くのは怖い…というのが取材前の正直な印象でした。

真摯に取材に対応する新成人

 実際、現場で目の当たりにすると、なにより威圧感がすごい。初めて見るリーゼントやいかついサングラスに気圧され、声をかけるのを非常にためらいました。しかし、思いきって取材をお願いすると「もちろんいいっすよ!」と快諾。話かけていた友達に「ちょっと待って」と伝えて、とても丁寧に取材に答えてくれました。

 極彩色の衣装をまとう男性は、「今は車屋をしています。お金持ちになってお母さんに親孝行をしたいですね。それから結婚もして、子どももほしい。2人くらい!」とのこと。

不動明王がコンセプトの衣装を着た新成人

 特注でつくってもらった、という背中の炎が会場でとにかく目立っていた真部大地さんのコンセプトは、不動明王。普段は電気工事士として働いており、「言葉と行動が伴っている大人になりたい。ここを節目に新しくスタートして、口だけではなくみんなに尊敬されるような仕事をしていきます」と決意を語ってくれました。話してみると真面目で時折さわやかな笑顔を見せる好青年です。

 気になっていた髪型についてどのくらい時間がかかったのかきくと、「髪の毛は2年前から成人式のために伸ばし始めて、ヘアセットは昨日の22時からで寝てません!」とのこと。あまりの熱の入れように、今の衣装でどのくらい過ごすのかきいたところ、「成人式終了後は同窓会があるので着替えます。早く髪を切りたいです」だそう。この日のたった数時間が彼にとって、これから大人として人生を歩んでいく決意を示す、かけがえのない日であることをあらためて思い知りました。

イギリスマフィアをイメージしたスーツ姿の新成人

 また、北九州市では1月26日に市議会議員選挙があることから会場で投票を促す広報活動も行われましたが、「選挙行くぞぉ! 投票入れちゃうぞぉ!」と宣言していた新成人も。若者の投票率が下がっているなか、まさかここで明るい話が聞けるとは…。

黄色でド派手な衣装を着た新成人と名前の入ったのぼり

 虹色や黄金、ビビットピンクや花魁風などインパクト大な衣装に大きく名前の入ったのぼりや扇子。衣装にかかった費用を聞くと、総額はおよそ30万円から60万円。聞いたなかでトップは100万円でした。

赤と青を基調とした袴姿の新成人2人

「そのお金はどこから?」と聞くと、自分のお給料から出しているという人がほとんど。それに対して私の成人式の費用は前撮りも含めて両親もちで、およそ15万円。ハレの日にかける熱量の違いを感じました。

娘がやりたいことは応援したい。優しい両親へ心温まるサプライズ

金と銀の衣装で着飾った新成人とその家族

 いちばん印象に残った新成人は、頭にキティちゃんをのせ、巨大な扇子を手にした金本麗夢さん。普段は看護学生として勉強しているそうです。ご両親から「やりたいことはやらせてあげたい。一人娘やし。明後日から髪も黒くして、いい看護師になってほしい」という話を聞いていると、麗夢さんが紙袋からなにかを取り出し始めました。

両親にサプライズプレゼントを渡す新成人

 なんと、ご両親へサプライズプレゼント。生まれたときの体重と同じ重さのウェイトベアを抱っこしたお父さんは、「こんなに重たかったっけ?」としみじみ。お母さんは麗夢さんを抱きしめながら目をうるませていました。最後に3人で記念撮影。感動の瞬間に立ち会わせてもらいました。

 ド派手な見た目とは異なり、大人の一員としてしっかりと責任感ももち、自分の道を進んでいる新成人たち。取材するうちに、人に迷惑をかけてでも目立とうとする人たちだ、と思っていたのが申し訳なくなっていきました。

馬で登場予定がNG。代わりに爆音スピーカー

スピーカーを引いて歩く新成人

 取材を進めていると、どこからか爆音で久保田利伸のヒット曲『LOVE RAIN』が。イベントかな、と思い音のするほうへ行ってみると、着物姿の新成人が大きなスピーカーを引いて友達を探していました。

新成人2人と大きなスピーカー

 なぜスピーカーを持って来ようと思ったのか、持ち主の丸山穂夏さんに聞いてみると、「本当は彼氏のお父さんがサラブレッドの馬を準備してくれていたんですが、天気が怪しくて…。代わりにコストコの4万円のスピーカーをもたせてもらいました」とのこと。お友達の藤井乙葉さんもノリノリ。自分たちだけでなく、身内のあと押しで派手な衣装やグッズを用意する人も多いようです。彼女のように、「着物以外で目立ちたい」というパターンもあるのかと新鮮でした。が、まさか馬や巨大スピーカーまで…。

名前の入った扇子をもつ新成人3人組

長く沢山の装飾が施されたネイル

 平田夏恋さん、遠嶋愛華さん、上河綾樺さんも生花や盛り髪、大きなリボンで華やかな装い。ネイルで指の長さが1.5倍くらいになっていますが、つけたのは4日前だそう。どうやって生活するんですか?と聞くと「髪とか洗えないんで、数日間お母さんに洗ってもらっていました」と苦笑。かわいいけれど、確かに髪を洗うどころかからまりそう。成人式のためにここまで…。

総勢14人の新成人

 先ほどの3人組に加えてお揃いの銀の袴や黒のファーに身を包んだ一際目立つ総勢14人のグループは、北九州市ではなく、会場から約30分離れた中間市から来ていました。「地元の成人式は小規模だから。こっちにいる高校の友達にも晴れ着で会いたくて」地元の式典の時間が近づいたら移動するそうです。成人式のハシゴなんて!

周りもじつはド派手にしてみたい、北九州を盛り上げてほしい

派手な袴を着た新成人とスーツ姿の新成人

 最近では武内和久北九州市長が衣装を着用したり、ド派手な衣装の文化をつくった貸衣装店、「みやび」が世界四大コレクションのひとつ「ニューヨーク・ファッション・ウィーク」に招待されたりと、北九州市の成人式は一つの文化として成り立ってきています。では、一般的なスーツや振袖で参加する成人は、この文化をどう見ているのでしょうか。

クリーム色の振袖を着た新成人2人組

 ド派手な衣装のグループと写真を撮っていた普通の振袖の2人組を発見。「みなさんお友達ですか?」と聞いてみると、「いえ、初対面です。なかなかこういう人と会う機会ないし、せっかくだから一緒に撮らせてもらおうと思って」とのこと。ド派手な成人に対して意外と抵抗はなく、むしろ貴重な機会として一緒に楽しんだほうがいいという意見でした。

スーツ姿の新成人2人組

 スーツ姿の新成人にどう思っているか聞いてみると、こちらも予想に反して本当は自分も着てみたかったそう。専門学生・大学生だからアルバイト代ではたりなくてスーツにしたということでした。「怖いとは思わない、これをきっかけにもっと北九州が知られてほしい」というコメントも。

頭にクレヨンしんちゃんのぬいぐるみをのせた新成人

 数年前までは、ド派手な衣装や荒れる様子に対して苦情の電話や陳情書が寄せられていましたが、今では地域に受け入れられてきているようです。

 私自身も取材前は、「もし、地元の成人式がこんな雰囲気だったらちょっと恥ずかしいかも…。なぜこの1日限りなのにこんなにお金をかけるのだろう」と思っていましたが、今回の取材を通して、こんなにも楽しそうなんだから、私ももう少し衣装や髪型をこだわってもよかったかもしれない、と思うようになりました。

北九州市の成人式の様子

 そして、取材したほとんどの新成人が家族への感謝の気持ちをしっかりともっているところが本当にすてきだと感じました。私も見習って、次の帰省では両親に親孝行しなくては、と思ういいきっかけに。新成人の皆さま、おめでとうございます。

<撮影・取材・文/田村美咲>