料理研究家のヤミーさんが4年に渡り、仲間と通い続けているという長野県上田市の「鹿教湯(かけゆ)温泉」。その時季によって変わる食材を実際に山に入って収穫し、料理し、地元の人たちと食しているそう。ヤミーさんが魅了された山の恵みと地元の方の暮らしの知恵を、たっぷり教えてもらいます。文末のレシピ紹介もお見逃しなく!
山通いの初回はシカの解体から!
「鹿教湯温泉(かけゆおんせん)」…そもそもなんと読むのかわからないくらい、まったく知らない場所でした。縁もゆかりもなかった土地に通い続けるようになったきっかけは、料理研究家仲間のきじまりゅうたくんに誘われて。最初はたまたま、仕事の関係で十数人の料理家が長野県上田市の近くに行く機会があり、ついでにきじまくんがおつき合いのある鹿教湯温泉に寄ろうという話になりました。
到着してすぐに、なんと「猟師小屋」に案内されるということでびっくり。「ええ! ウソ本物!? すげー!」と口々に言いながら、本物の猟師さんに会えるんだ、動物をさばくところを見学できるのか? と期待が高まっていきました。
猟師小屋に到着すると、中から猟師さんたちが出てきて、「みなさんが来るっていうんで、とっておいたからね」と、木の上に吊るしてあったシカを台におろし、おもむろにナイフを渡されます。冗談でしょ!? と思って遠巻きにしていましたが、猟師さんたちがまったく動こうとしない。これは本当に自分たちでやらないと晩ご飯にありつけないぞ、と、意を決して初めての解体です。
山では獣の解体も生活の一部なのだろう、これは心してやらなければ、せっかく用意していただいたのだし。そう思いながらも、内心はどうしよう…と焦りと緊張で手がふるえます。おそるおそる、猟師さんたちの指導のもとに手を動かしていくと、段々と要領を得ていき、シカは脂肪が少ないので皮はスッと剥けることや、背ロース、もも、スネというように部位に分けるのも、筋膜に沿っていけばなんとかなることがわかりました。
あとで知ったのですが、このことがあったから、現地の猟師さんたちに受け入れてもらえたようです。
「すげーんだよ、最初からシカさばくんだもん」と、いまだに言われます。女性でシカをさばく人は、地元でもいないそうです。あのとき内心は怯えていましたが、今の信頼関係はここにあったのかと思うと、できないと言わなくてよかったと思います。
宴会料理は腕の見せどころ
シカをさばき終わると、その日の宴会のために調理がスタート。地元女性の会「内村っ娘」のみなさんが、プロの料理家がどんな料理をするのか見たいと、たくさんの山の食材を用意して待っていました。初めて目にする食材もあるなかで、30人分くらいの料理をつくるなんて、大きなチャレンジです。調理道具もあまりそろっていない猟師小屋で、みんなで手分けして調理をしていきました。
覚えている限りのこの日のメニューは、
・シカ肉のシシケバブ
・シカ肉のトマト煮
・シカロースト
・シカ焼肉
・シカ肉の山椒煮
・野ぜり、クレソン、ふきのとうなど、山で採れた山菜とキノコの天ぷら
・塩漬けキノコの煮物
・ワラビの煮物
・空豆と数の子の和物
・ヤーコンとキノコの和物
・青大根のたくあん
・野沢菜の漬物
・和恵さんのケーキ
・ミックスベリーのソース
あまりに怒濤の1日で、自分がなにをつくったのかはもう覚えていませんが、現地の方が持ち寄った地元料理とお酒も加わり、親以上に歳の離れた、名前も覚えきれないみなさんと囲炉裏を囲んでの宴会は、終わるのが惜しいほどの楽しい夜でした。この日のうちに、次の山菜採りの予定が決まり、季節ごとに山に通う「鹿教湯温泉友の会」がスタートしました。
見ず知らずの東京から押しかけた私たちを受け入れてくれただけでなく、私たちからも学ぼうという意欲、若い世代に山のことを知ってもらいたいという思いが、通っても通っても、お互い新しい発見がある関係を築いているように思います。これから不定期ではありますが、新しい発見だらけの山の生活と料理をご紹介していきます。
今回は、内村っ娘のみなさんに習った鹿料理のレシピをご紹介します。
【シカの山椒煮】
①ゆでたシカ肉に水、山椒、砂糖、酒、ダシの素を入れ煮込む。汁を少し残す。
②鹿肉をスピードカッター又は細かく刻み煮汁に含ませる。
シカ肉の定番中の定番料理。驚きなのは、山椒の葉も枝も一緒に煮てしまうこと。「だって面倒でしょ」「食べるときによければいいから」。この言葉で、それまで面倒に感じていた山椒仕事が一気にラクに。それ以来、山椒は取った姿のまま洗って乾かして冷凍保存しています。きれいに炊きたいときは、解凍して使う分だけ整えます。煮込みや漬け込みに使うときは、凍ったまま枝も気にせず使っています。
【シカ肉ロースト】
①シカ肉を解凍してペーパータオルで水分をふきとり、塊から筋、膜を取り除き、ロースト用に整形する。
②①を【オリーブオイル、ニンニク、塩、コショウ、イタリアンハーブミックス】に浸けて10分以上置く。
③フライパンを熱し②の表面全体に焼き色をつけ、ポリ袋に入れて空気を抜く。
④③を熱湯を入れた保温器(電気釜)に入れ40分むらす(20分保温スイッチを入れ20分は切る)。
※事前にお手もちの保温器の使用方法をご確認下さい。
⑤保温器から取り出して冷やし、落ち着いてから切る。
シカ肉は、安全のために一度冷凍した方がいいそう。解凍したときのドリップとともに臭みもとれて一石二鳥。イタリアンハーブミックスは、当時、内村っ娘の会の会長だった和恵さんの家の庭で採れたフレッシュハーブを使っています。和恵さんはさまざまなハーブを数種類、生えてきたものからみじん切りにして、塩漬けにしたりオイル漬けにしたり、冷凍したりして取っておいています。長野県はハーブの栽培に適しているそうで、庭にハーブを植えている家を多く見かけます。
取材・写真協力;内村っ娘の会、鹿教湯温泉友の会
ヤミーさん
料理研究家。雑誌やTV、広告、イベントの企画や企業のレシピ開発などを手掛ける。
『ぐるまぜパン』『ワンボウルクッキング』(いずれも主婦の友社)など著書多数。
■オフィシャルブログ
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