IT系企業でバリバリ働く夫婦が、ひょんなことから2拠点生活を始めました。都会と農村の2拠点とはいえ、同じ千葉県内、クルマで1時間半の近距離。田舎の家は古民家のシェアハウスです。仕事と子育てで慌ただしい日々を送る松宮恵さんが、週末田舎暮らしの魅力をつづります。
千葉の里山に春がやってきました
房総半島にも春がやってきました。菜の花が咲き、田んぼにはたっぷりと水が張られ、盛大なカエルの合唱が始まっています。暮れゆく赤い夕日が水田の水面に映っているさまは、はっとするほど美しく、その風景にはほれぼれしてしまいます。そして、子どもたちは春らしい遊びに夢中! ダンゴムシやカエルを追いかけ、土をほじくり、タンポポを摘んで髪の毛にかざる…子どもたちが田んぼのあぜ道で遊ぶ姿を見ていると、都会での出来事など本当に起こっているのかと感じてしまいます。
平日は人ごみを避け、マスクで顔を覆う日々ですが、里山ではのびのびと深呼吸ができ、安心して子どもたちを遊ばせてあげられる。都会と田舎それぞれに拠点をもっていることは、想定外の災害が起こったときにリスクヘッジになるな…と感じています。
移住したいエリアナンバー1。でも空き家問題は深刻。
さて、私たちが週末を過ごしているいすみ市は、移住したい田舎ランキングでは常に上位に入る、関東では人気のエリアです。東京駅まで特急電車で70分というアクセスのよさに加え、子育て支援や移住支援、創業支援が充実しているのがその理由。市内の空き店舗や空き家を使った創業へ自治体が補助金を交付したり、クラウドファンディングの利用を助成したり。私たちが住んでいる古民家シェアハウスも、もともとはそんな空き家のひとつ。管理・運営をしているのは移住者により創業された会社です。
移住先として人気がある一方で、空き家率が進行する「空き家問題」は、いすみ市でも深刻です。市内の空き家率は約28%※。4件に1件は空き家の状態で、全国平均より2倍ほど高くなっています。
※平成25年の総務省調査より
それでも私たちが賃貸物件を探したときは、物件を見つけるのがとても大変でした。空いている物件をオーナーさんが市場に出していないのは、貸し出す手間もあり、物件への思いもあり、荷物もあり、貸し出したときにトラブルがあったらどうしようという心配もあり…と、さまざまな事情があるようです。
商店街の空き店舗が1日だけ開放される!? 1DAYイベントへ潜入
先日、空き店舗を活用した「おさんぽマッチ」というイベントがあると聞いて遊びに行ってきました。このイベントが行われたのはローカル線・いすみ鉄道の「国吉駅」にある苅谷商店街。いすみ鉄道は、電車が往来するのは1時間に1本。鉄道ファンに人気があり、撮影に訪れている人をよく見かけますが、駅周辺に観光スポットはありません。営業している店舗はありますが、シャッターを閉めている空き店舗も多い、そんな場所です。
この商店街の空き店舗や空きスペースが、1日だけなんと無料で 開放され、一般公募で誰でも好きな活動にチャレンジできるという試み。空き店舗を1日だけ貸し出すって珍しい! いろいろな人が自分の好きなこと、やってみたいことに挑戦しているようです。その様子をお散歩しながら回ろう、というコンセプトのようでした。
駅前のタクシー会社がラジオ局に!旧剣道場ではいすみ古材研究所のワークショップ
駅前に行ってみると、いつもの静かな雰囲気とはまるで違う! いろいろなお店が出ていて、たくさんの人が訪れていました。まるでマルシェみたい! タクシーの営業所だった場所をのぞくと、カルメ焼きのお店に、本屋さんに、奥の方ではローカルラジオ番組の収録の真っ最中! その横ではスパイスカレーのキッチンカーがあり、奥のカラオケ屋さんにはミニ四駆ののぼりがたっている…謎です。
近くの旧剣道場では、いすみ古材研究所という団体によるワークショップがやっていたり、コンポストトイレの展示会もやっていたり。なんというか、マルシェと呼ぶには自由すぎる…! 小学生のころ、「お祭り集会」なる、子ども達が自分たちが好きなものを好きなように出店する、学校行事があったことを思い出しました。
元瀬戸物屋さんが七五三体験&アロマ&昔話をするお店へ
そして、駅から少し歩いた場所にある瀬戸物屋さんだった空き店舗では、「七五三衣装の展示と撮影予約会」が。昨年、七五三をして以来、着物が大好きになっていた娘は、脇目も振らずに色とりどりの着物へダッシュ。
このショップを開いていたのは、いすみ市へ移住し、訪問美容や結婚式の撮影・スタイリングの仕事をしているRiReさん。「呉服屋さんがなくなってしまった」「七五三を見なくなった」という地元の商店街の方からの声を聞き、このショップを思い立ったそう。里山の風景のなかで七五三の撮影してもらえるなんてステキ!
大人も子どももたくさんの人が往来し、ふだんは静かな商店街に昔の活気が戻ってきた…って、昔を知らない、地元民ではない私ですらうれしい気持ちになりました。こんなことをしたい、と旗を掲げることで、地域で応援してくれる人も増えていくんだろうな、と、訪れる人たちと会話をしているRiReさんを見ながら感じました。
このイベントを企画した、創造系不動産株式会社の金瀬ちゆきさんに企画意図をお聞きするしたところ、「空き家の活用を進めようといっても、貸す側も借りる側もやっぱりいろんな不安があると思います。そんなハードルを少しでも下げられるように、まずは実験的なことから始めたいねという話から、複数の空き店舗で行うみんなのチャレンジを歩きながら巡れるお散歩を企画しました。人が歩く気配は風景を変えますね。これが日常になればいいねなんて声もありました。活動者と空き家の所有者さん、地域の方が触れ合う機会になったと思います」とのこと。
いきなり空き店舗を借りるのはハードルが高いけれど、まず短期間借りてチャレンジしてみる。そして、物件のオーナーさんにとっても、人に貸し出すチャレンジができる。この取り組みは創業支援にもなり、空き店舗・空き家に血が巡っていく、いい循環が生まれるのではないか。ローカル線のとある駅前商店街での1DAYイベントで、空き家を活用して地域が元気になっていくひとつの方向性を見た気がしました。
そして次回、このイベントが開催されるときは、大阪出身の夫と「たこ焼き屋」を出店して、子どもたちに売り子をしてもらおうかな…なんて楽しい想像も広がっちゃいました。
松宮恵さん
30代のワーキングマザー。エンジニアの夫、3歳、1歳の子どもと千葉県浦安市で暮らす。近所で家庭菜園を探しているうちに、ひょんなことから県内のいすみ市の古民家をシェアすることに。2019年4月から2拠点暮らしを開始