シトラスリボンでコロナで困窮する人に共感を。愛媛から広がる運動

[やのひろみの「四国COLOR」第2回]

 愛媛県発の「シトラスリボン運動」が全国的な広がりを見せています。コロナウィルスに感染した人や、濃厚接触者、医療従事者への寄り添いや支援を広めようというこのプロジェクト。発起人メンバーでもあるフリーパーソナリティのやのひろみさんが紹介してくれました。

コロナ禍で困っている人に寄り添うシトラスリボン

愛媛県四国中央市の水引で作ったストラップ
愛媛県四国中央市の水引で作ったストラップ

 愛媛県のかんきつ類をイメージしたシトラスカラーのリボンをつけることで、コロナウィルスに感染した人やエッセンシャルワーカーなどに対する差別や偏見をなくし、普段通りの生活が送れる地域社会をつくろうという「シトラスリボン運動」が、盛り上がりを見せています。 

 スタートは、コロナ禍で日に日に強まっていく感染者への誹謗中傷、職場への嫌がらせ電話などがネットなどが問題になっていた2020年4月。医療従事者やエッセンシャルワーカーへの偏見に心を痛めていたとき「あるプロジェクトの発起人メンバーになってくれないか」と声がかかりました。幸か不幸か、週末のイベントがすべてキャンセルになっていて暇だったので、こんなときだからこそ「だれかのお役に立てるなら」と、発起人共同代表である松山大学法学部准教授の甲斐朋香さん、愛媛大学社会連携推進機構教授の前田眞さんたちと、たった6人で緩やかに集まったのが「シトラスリボンプロジェクト」です。

「私たちは味方です」とシトラスリボンで伝える

 感染拡大阻止も大事、経済対策も大事。でも忘れてはならないのは、コロナウィルスに感染してしまった人も、感染リスクと隣り合わせで日々奮闘している人も、いつも生活している地域で、笑顔の暮らしを取り戻せることの大切さです。

 大変な思いをしている人たちに、「ただいま」「おかえり」、そんな風に言い合える空気をつくりたい。
 
 とはいえ、そんなことを声高に主張することさえはばかられるような世知辛い雰囲気。せめてその気持ちをそっと「シトラスリボン」を掲げることで表明し「私たちは味方ですよ」という小さなサインのように結んでいければ、というのがメンバー全員の思いでした。このリボンを身に着けたり、玄関や郵便受けなどに掲示することで、人と人とのつながりを示そうと思ったのです。

「家庭」「地域」「職場(学校)」という3つを輪をつなぐため、シトラスリボンは3つの輪で構成されます。そして、このリボンは各々が手づくりで製作しますが、これが意外と難しい。今だから笑える話ですがプロジェクト始動日、メンバーでリボンを結べた人はいませんでした。
 
「これはいかん」と猛特訓開始。と同時に、愛媛県四国中央市の特産「水引」を使えば結べるのではと、伊予水引金封協同組合に相談をしたところ、かわいらしいストラップが帰ってきました。

 

全国に広がるシトラスリボンプロジェクト

シトラスリボンが飾ってある日本酒とおちょこ
シトラスリボンが飾ってある日本酒とおちょこ

 緩やかに仲間や友人、SNSで発信し始めたのですが、反響は数日で愛媛県内に拡大。ライフラインを支えるガス屋さんはガスボンベに、建設会社の方はヘルメットに、洋食屋さんもテイクアウト弁当にシトラスリボンをつけてくれました。

 そして、活動開始から10日ほどでフジテレビの「Mr.サンデー」で数分間取り上げられたのです。シトラスリボンのことを連日私の公式ブログに記載していたのですが、オンエア後のアクセスが急増し、アクセスカウンターが壊れたのかと思いました(笑)。

シトラスリボンのシールが張られたお弁当
シトラスリボンのシールが張られたお弁当
シトラスリボンマークが入ったガスボンベ
シトラスリボンマークが入ったガスボンベ

 これを機に一気に全国各地に共感が拡大していきました。「私たちも心を痛めていた」「医療関係者ですが、勇気づけられた」「われわれのメンバーでもこのプロジェクトを広めていきたい」。北は秋田県から、南は沖縄まで170を超える個人、企業、団体の方々が既に「仲間」です。

 うれしかったのは、皆さんがそれぞれアイデアを提案してきてくれること。シトラスリボンの曲をつくってくださる方や、結び方の動画を制作してくれるキッズたち、ポスターやステッカーを印刷する業者さんや、HPを構築してくれる人。つい最近は、福岡県の医療関係の方々が、新聞にシトラスリボンの全面広告を掲載してくれるなど、小さな共感の輪が染み渡るように広がっています。

愛媛から生まれたプロジェクトを愛媛の糸で紡ぐ

龍工房での組紐作業
写真右が龍工房5代目福田隆太さん、写真左が4代目・福田隆さん

 そのなかの1人、東京都中央区で創業130年の「龍工房」5代目の組紐職人、福田隆太さんから、「シトラス色の組紐を愛媛の生糸で編んではどうか」という提案をいただきました。

 そこで愛媛県西予市の野村シルク博物館に問い合わせたところ、博物館の方々にも共感をしていただき、世界最高級の野村シルク「伊予生糸(いよいと)」を無料で龍工房に提供してくれたのです。

 なんという優しさの連鎖でしょうか。そんな温かな気持ちがつながって、職人手作業の組紐(国産生糸製・工房オリジナル蓄光糸入り)100m版が完成しました。

完成した組紐
完成した組紐

 その貴重な組紐が愛媛県に里帰りした日。車座になってさわって結んで分かち合いたいと何人かにお声がけしたら西予市長や野村シルク博物館、西予市野村の方々、呉服店の若旦那などが駆けつけてくれました。

組紐を大勢のひとたちで輪に広げる

 みんなで龍工房福田さんからのビデオレターに歓喜の拍手をし、シトラスリボンを結びました。近々地元の子どもたちと、シトラスリボンのワークショップも計画中です。全国各地の共感してくれた人たちと、「お会いしたこともないのに結ばれてるな〜」と心がほっこりした1日でした。

いつかこのプロジェクトがいらなくなる日が来るように

組紐で結んだシトラスリボン

 優しさや温かさも、噂や誹謗中傷と同様に連鎖します。そして、どちらを選ぶかは自分次第です。人を分断していくコロナ禍にあるからこそ、つながる喜び、だれかのために知恵や力を発揮する喜びも、また大きいのではないかと感じます。と同時に、アフターコロナの社会のあり方も見すえたいなと思うのです。

 草の根の理念で広がっていき、いつかこんなことをわざわざ言わなくてもいい世の中になればいい。活動自体が不要になり、消えてなくなることがわれわれ発起人メンバーの目標です。

 その日を待ち望みつつこれからも現状がプラスに変わっていくように、できることをちょびっとずつ続けていきたいです。あなたもぜひ、共に結びませんか、優しい気持ちを。

[やのひろみの「四国COLOR」第2回]

フリーパーソナリティ やのひろみさん
1975年、愛媛県生まれ。有限会社タグプロダクト取締役。イベント音響の裏方スタッフやディレクター、愛媛県のテレビ・ラジオ番組のパーソナリティとして活動中。10年第47回ギャラクシー賞 ラジオ部門DJパーソナリティ賞受賞。09年・12年・13年・14年民間放送連盟賞ラジオ部門全国優秀賞受賞。 NPO法人俳句甲子園実行委員会会員、NPO法人国際地雷処理・地域復興支援の会理事、キリンビールを応援する愛媛のお祭り課長 、砥部焼大使第106号、大洲味楽来しいたけ宣伝大使など多くの地域の宣伝やイベントに携わっている