山の秋の味覚ヤマブドウ。砂糖と煮てシロップにするとおいしい

里山の秋の味覚、ヤマブドウ。「名前は聞いたことあるけど、実際に実っているところは見たことはない」という人も多いのでは? 新潟県魚沼市に移住して木工に携わる中川光嗣さんが、地元の母ちゃんたちとヤマブドウ狩りに出かけた様子をレポートしてくれました。

地元の母ちゃんたちと秋の山の恵み、ヤマブドウ狩りへ

ヤマブドウを探して森へ入る

 台風一過で気持ちよく晴れた秋の朝、地元の母ちゃんしょ(母ちゃんたち)に同行させてもらい、ブドウ狩りに出かけました。六十里越(ろくじゅうりごえ)峠の向こうは奥会津、こちらは新潟県魚沼市の北部エリア。秋の登山で賑わう浅草岳の登山口から少し歩き、向かいの守門岳(すもんだけ)の山肌には雲の影がくっきりと見えました。

森に自生するヤマブドウ

 ブドウと言っても山に自生している、天然のヤマブドウ。「エビカズラ」とも言うそうですが、この地方の方言では「サナヅラ」と呼ばれます。ここはヤマブドウに限らず、山の幸を採りに行き、そのまま食卓にあがる「狩猟採集」が暮らしの中に浸透している地域です。

 春は山菜、秋は何と言ってもキノコですが、秋が深まる前の稲刈り時期にはクリやクルミ、トチノミなどの堅果類のほか、アケビにサルナシ、ヤマブドウといった果物が豊富に実ります。

ヤマブドウをつむ母ちゃんたち

 この季節、アケビやクズといったつる性の植物が生い茂り、ヤマブドウを遠目からほかの植物と識別することは初心者には難しいので、見つけるのは母ちゃんしょにお任せし、私は採る際のお手伝い係となりました。ブドウのつるは木々に絡みついて育つため、通常では手の届かない場所に実がなることが多く、高いところのブドウを採るには、下の方に垂れたつるを1人が引っ張り、やっと手の届く位置に下がったところをもう1人が採取するという連携作業となります。それでも手が届かないときには、木によじ登ったり、絡みついた木が細い雑木であれば伐って倒すことも。その執念と実った果実を前にした時の母ちゃんしょの高揚感には圧倒されつつ、こちらも気づけば無我夢中で撮影も忘れてしまいました。

 この日収穫されたブドウの大半は、実は駐車したすぐ脇に生えていた場所で十分な量が採れたため、小1時間で済みました。それを山分けしてこの日の採集はおしまい。

採れたヤマブドウはシロップにして味わう

この日採取したヤマブドウ

 ヤマブドウは生食もできますが、酸味が強いのでシロップにします。皮のついたまま潰しながら煮立て、布でこし砂糖を加えて甘くします。地域の人はこれを焼酎で割って飲むそうですが、まずはシンプルに炭酸で割っていただきました。栽培品種のブドウと比べるととにかく酸っぱいのですが、レーズンのような独特な風味があります。
 何より自分で採ってきたものを、自ら加工し、山の幸をダイレクトにいただく。まさに山暮らしの醍醐味です。

ヤマブドウを鍋で煮る

 またヤマブドウは籠や花器などのつる細工の材料としても古くから利用され、近くの道の駅で販売されていますが、つくり手の高齢化、担い手不足は顕著です。お隣の会津地方ではお祭りの出店でよく目にすることができます。ヤマブドウやアケビのつるで編みこまれた製品は丈夫で長持ちするそうです。新潟や東北で少し紫がかった茶色いつるで編まれた製品を見かけたら、「サナヅラですか?」と聞いてみてください。

ヤマブドウシロップでつくったジュース

*今回採取したのは、地元の人が管理している森です。

<取材・文/中川光嗣>
神奈川県湘南地方で育ち、大学で建築を学び、首都圏の建築事務所などで住宅建築や都市設計などに携わる。30代で新潟県十日町市に地域おこし協力隊として移住。その後、県内の魚沼市に移り、「小屋丸」の屋号で地元の木材を使った木工作品を制作している。