最近増えている「ぼっち移住」。気をつけたいポイントは?

最近、単身で見知らぬ土地へ移住する「ぼっち移住」が増えているそうです。ぼっち移住は身軽で決断しやすい半面、知り合いができずに孤立することも。長野県安曇野で長年、移住者のサポートを行っている山下美鈴さんが、移住先直面する問題と解決方法を教えてくれました。

近年増えてきた1人で移住=ぼっち移住

地元の料理教室

 これまで私たちが移住の相談を受けるのは、30代後半から50代の夫婦、ファミリーが多かったのですが、近年は若年層カップルやファミリーも増えています。ここ数年は「今の仕事、やりがいはあるのだけど本当にこのままでいいのかな?」「新しい環境に飛び込んで自分を変えたい」「今まで得た知識や経験を生かして起業したい」など、自分を見つめ直した結果、早々に移住へとシフトチェンジする単身の女性も増えています。

 さて、今回お話ししたいのは「ぼっち移住」について。ぼっちって? そう「1人ぼっちのぼっち」です。

 念願かなって単身で移住暮らしを始めてみると、意外と「人との繋がりがない・まだできていない」「お隣にはどんな人が暮らしているのかわからない」「職場以外で話せる人がいない」「一緒に食事に行けるような友人がいない」といった状況になることがあります。移住先ではご近所づき合いやゴミ出し、地域での常識などさまざまな疑問や問題に直面しますが、それを解決するにはやはり誰かに聞くしかなく、身近な人がいないと孤独や不安を感じる人もいるようです。

 これはぼっち移住に限らず、どの世代、どの家族構成においても起こり得ることですが、「ぼっち」が好きでまったく気にならない人はともかく、人との触れ合い、繋がりがあってこそ見知らぬ土地でも心豊かに安心して暮らせると思います。

 さらに、移住はしてみたもののお金や暮らしの面で「思っていたものと違う」と感じることも多いようです。 そこで今回は、ぼっち移住しても孤立するのを避けるための方法と、移住の際に気をつけたい点を紹介したいと思います。

まずは役所から。相談できる人・友達を見つけよう!

移住者交流会

 ひと口に「相談できる相手」といってもさまざまですが、取っかかりとしていいのは行政の移住定住に関わる窓口。その町の概要や、気候風土、地域の特性、移住者の現況、移住定住への取り組みなど、行政によって内容は異なるにしてもと聞けばいろいろと教えてくれます。

 また、その町で移住定住に関わるキーマンを紹介してもらえることもあります。キーマンとなる人はさまざまな情報とネットワークを持っていることが多く、いいこともそうでないことも教えてくれるだろうし、あなたと誰かをマッチングしてくれる機会もあるでしょう。それをきっかけにして積極的に人に会いに行くなど、地域でのつながりを広げてゆくのもぼっちにならない1つの方法です。

 次にネットやSNSで「〇〇市(町・村)」「移住」「〇〇暮らし」「移住相談」などと検索をして、積極的に情報発信している人や相談できそうな人を見つけたら、思い切ってメッセージを送ってみるのもいいし、地域グループやイベントなどがあれば参加してみるのもいいでしょう。
(SNS活用の際は、くれぐれも事件事故に巻き込まれることのないよう慎重に!)

 とにかく移住の計画段階から目指す地域で相談できる知り合いを見つけたり、同じ趣味趣向を持つ仲間を見つけたりすることは、「移住する前からも、移住してからも知り合いがいる」という大きな安心につながります。

なじみやすい地域かどうか。住まい選びも大切

遊んでいる小学生

「どの場所で、どんなところで暮らすのか」も大切です。まずは賃貸集合住宅や賃貸一戸建て、中古住宅の購入から移住暮らしの第一歩を始める人が多いですが、どこで住み始めても、周りにどんな人が暮らしているかが大切になってきます。それによって地域になじみやすいかどうか、影響されることが多いからです。

 単身女性で賃貸集合住宅を考える場合は安全面を考慮し、女性専用とか、フロアは2階以上といった条件とともに、ファミリー層が暮らしているものをお勧めしたいです。でも、静かに暮らしたい方にはファミリー層が多いと、子どもの声や振動など、少しにぎやかで気になることもあります。

 ほかにも、駐車場にとまっている自動車の車種、自転車置き場の様子、各戸の玄関ドア付近に置かれているもの、干されている洗濯物など、敷地内を見渡せばどのような住人がいるのかがうかがえます。

 賃貸一戸建てや中古住宅の購入、土地を購入し新築する場合などは、その周辺を歩いて見て回り、出会った方に尋ねてみるのも方法の1つです。

 戸建ては「自治会加入」が必須だったり、強制ではないものの加入を勧められることもあるので、賃貸集合住宅よりも地域に密着した暮らしになります。

 こうしたことは不動産屋に聞けばわかるものだと考えがちですが、実際、不動産屋が詳細に理解・把握していることはあまりありません。頼りになるのは自分自身の行動力です。

移住には細かなお金がかかるもの。余裕をもった計画を

安曇野の風景

 1人で決断できて即実行できるぼっち移住ですが「エイヤ!」と飛び出す前に、お金の面もきちんと考えておきたいものです。

「なんとかなるさ」と勢いで憧れの移住暮らしを始め、蓄えを切り崩しながら仕事を探す人もいれば、移住前後の収入と支出を徹底的に比較し「これなら大丈夫!」と判断して希望収入額に見合う就業先を決め、移住をする超堅実派もいます。かと思えば、少しの迷いを持ちながらも自分の思いをかなえるために決断し、移住のステップを歩む人もいます。

 移住は案外細かなところにもお金がかかるものです。小さな金額でも積もり積もって「あら!?」となっていることもありますので、ある程度の余裕を持って計画をしてくださいね。

「キラキラ移住」に惑わされないで。苦労話もきちんと聞くべき

冬の農地

「自分の夢を実現したい」「憧れの暮らしを手に入れたい」とぼっち移住に踏みきる人もいますが、その前にちょっと注意してほしいことがあります。

 メディアなどで地方移住で自分の夢を実現し、多くの友人知人に囲まれ充実した暮らしを送っている人たちなど「キラキラ移住」を取り上げた情報を目にすると、誰もが簡単に移住し、夢を実現できるような気になるのは仕方ないと思います。しかし、キラキラ移住に見える人たちは、本当に初めからキラキラだったのでしょうか?

 なかには「何の苦労もなく最初から今の暮らしを手に入れました」という人もいるかもしれませんが、ごく限られた人だと思います。多くは自身の行動力で積極的に人と関わり、つながりの輪を広げ、目の前のハードルを1つずつ乗り越えながらがんばってきたはず。なのでキラキラ移住に憧れるだけではなく、実際の苦労話も聞けると参考になります。

 見知らぬ土地への移住を思いたつ人は、それだけの行動力を持ち合わせているでしょうから、少々のひとりぼっちはやネガティブな状況は苦にしていないと思います。でも、人って1人では生きられない生き物。つながりをつくり、その輪の中で上手に暮らしてくださいね。

<取材・文/山下美鈴>

山下美鈴さん
建築家の夫と4人の子どものうち3人で2011年夏、長野県安曇野市に移住。自身の移住計画を進めるにあたり、情報収集したいと2008年8月に地域ブログを開始。移住を計画する読者と情報を交換し合い、2011年安曇野市に移住。移住してからは安曇野での人のつながりを広げつつ、移住したい人たちの相談を受けている。2020年6月長野県から「信州暮らしパートナー(相談できる先輩移住者)」の委嘱を受け、連携をしている。安曇野地域への移住相談、空家活用サポートなど、地域活性化や人のつながりづくり、まちづくりを行う「ベースキャンプ安曇野」代表。Facebookグループ「信州移住ヨモヤマバナシ」管理人。