水道どころかシンクも凍る!長野で家を選ぶときに注意すべきこと

暖かい地方から寒冷地へ移り住むときには、いろいろ注意することがあります。10年前、和歌山から長野県に建築家の夫ともに移住した山下美鈴さん。現在では、移住希望者の相談にも乗っている彼女が、家を選ぶ際に気をつけたいことを教えてくれました。

温暖な地方から来て驚いた冬の長野の寒さ

軒先から下がったつらら

 私が今暮らしているのは長野県安曇野市。山岳エリアなので標高が高く(わが家は約540m)、厳冬期ともなれば最低気温が氷点下10℃になったり、場所によっては氷点下20℃をさらに下回ることも。最高気温も0℃に届かない日があるなど、暖かい和歌山県から移住した私たちにとっては、目を丸くするような気温の極寒の地でした。

 とはいえ、わが家は夫が建築家ということもあり、寒さ対策のために断熱性能を高め、快適に暮らせる家を建ててもらいました。外気温が氷点下10℃になっても、室内は常に19℃から20℃を保ち、結露はせず、就寝時も毛布1枚で寝ることができます。家中どの部屋にいても暖かいと、体の芯から冷え切ることがないので体も楽で、本当にありがたいと思っています。

マイナス14℃まで下がった天気予報

 長野県への移住相談では、予算内でなるべく費用をかけずに暮らし始めたいと考える人も多いのですが、大半は冬場でも氷点下にならない地域からの移住希望なので、実体験してみないとその寒さはわかりません。なので「冬の暮らしとお住まいあるある」として自然環境や建物、暖房設備のことをお話しさせていただきます。

きちんと断熱されているか、必ず確認して

結露が凍ったサッシ

 例えば、建築当時には今のような優れた断熱材がなかった古い建物や、新しくても断熱性能が満たされていない建物などは、外気温とともに室温も下がり、厳冬期には室内でも凍結することが。

「コンタクトレンズの保存液が凍った」、「サッシの結露が凍った」、「凍結防止のためにチョロチョロ出していた水道が流し台のシンクごと凍った」、「家の中でもダウンジャケットを着て過ごしている」ということもあります。

 くつろげるはずの家の中で寒さと闘いながら暮らすのは、心にも体にも辛いことですよね。主治医から「持病がある中で寒冷地への移住は賛成できない」といわれ、移住をあきらめた相談者もいました。

「部屋がなかなか暖まらない」、「もっと暖かくしたい」と室温を上げるためにガンガン暖房しても、その熱が外に逃げてしまっては、暖房にかかる費用が増えます。ある程度の断熱性能と換気性能を保っていることが大切なのです。

断熱性能が大事

 賃貸集合住宅へ夏に入居したものの、冬の底冷えと寒さに耐えかねて、「賃料は上がるけれど」と早々に引っ越しを考える人もいます。

 中古住宅の購入の際に気をつけてもらいたいのは、「どこまでリフォームされているか」。周辺環境や規模、築年数、リフォーム内容などにもよりますが、内容をよく確認したうえで契約することをおすすめめします。断熱材施工ずみの記述がある場合には、目視で確認できる部位は断熱材が隙間なく施されているかを確認。目視できない壁などはどのように施行されているかなど、業者にしっかり確認しましょう。

 意外と断熱されていないのが、床下基礎部分。施工されていないと足元からの底冷えと戦わなくちゃならなくなります。サッシはアルミのシングルガラスではなく樹脂サッシのペアガラスがおすすめです。換気の状況にもよりますが内外気温の差で結露が起こり、それが凍ってしまうことがあります。

水道には凍結防止帯。電気代がかかります

水道管に巻き付けた凍結防止帯

 あと注意すべきなのが、水道管に巻きつけている凍結防止帯の通電にかかる電気代。これも氷点下にならない地域で暮らしていると、凍結防止帯自体が必要なく、まったくの想定外。最近の建物は水道管を建物内に取り込むなど露出をなるべく少なくしていますが、どうしても外部に露出している部分はあるので凍結防止帯は必要です。

 とくに築年数が経った建物では、露出部に施されている凍結防止帯と保温剤に劣化はないか、しっかり巻かれているかの確認は忘れずに。

雪の結晶

 また2階にトイレや水まわりがある場合は、立ち上がる水道管に合わせて必然的に凍結防止帯と保温剤が長くなるので、その分電気代がかさみます。賃貸入居や中古住宅購入の際、目先の費用に気を取られていると「寒さと戦う暮らし」になってしまうので注意が必要です。

憧れの薪ストーブ。でも「薪活」が大変

薪ストーブ

 信州の暮らしで冬の暖房といえば、「薪ストーブ」を思い浮かべる人もいると思います。実際、私たちも薪ストーブの導入を検討しました。でも、移住前にブログで知り合った長野県のブロガーさんたちから「薪を買うのは簡単だけど、費用がかかるよ」、「原木を自分で調達して自分で薪割りするといいけど、原木の調達がちょっと大変かな?」、「薪割りの道具が必要だよ」など教えてもらい、自分たちの仕事と暮らしのペースを考え、薪ストーブの導入を諦めています。

薪

 薪ストーブ生活をしている友人は、「薪棚に隙間ができてくると不安」、「2〜3年先の分もどんどん調達するように心がけている」、「原木の無料配布の情報をこまめにチェックしている」ということで一生懸命薪を集める「薪活」をしています。

おがくずを固めたペレット

 薪ストーブとは少し趣は異なりますが、近年はペレットストーブも人気があります。こちらも揺れる炎を見て暮らしたい方にはおすすめです。製材の木くず(オガ粉)や間伐材などを細粉し、乾燥、圧縮させた小粒状の固形燃料(木質ペレット)を燃料とするので、嫌なにおいがなく、購入や運搬、取り扱いが簡単。地域差もありますが、1袋10kgで500円から800円くらいで販売されていることが多く、そのときの寒さで変動はあるものの、使用量は1日1〜1.5袋くらいとのこと。

灯油のタンク

 わが家の暖房は灯油で温めた不凍液が各部屋のパネルヒーターを循環し、輻射熱方式で温めるというもので、部屋ごとの温度差がなく快適です。使用する灯油の量は厳冬期で1日約10リットル。今ならリッターあたり約75円なので、ペレットと比べると少々高い気もしますが、お風呂とキッチンなど家中の湯にも使っているので、あまり差はないのかとも思います。ただ、設置費用は少し高くなります。

<取材・文/山下美鈴>

山下美鈴さん
建築家の夫と4人の子どものうち3人で2011年夏、長野県安曇野市に移住。自身の移住計画を進めるにあたり、情報収集したいと2008年8月に地域ブログを開始。移住を計画する読者と情報を交換し合い、2011年安曇野市に移住。移住してからは安曇野での人のつながりを広げつつ、移住したい人たちの相談を受けている。2020年6月長野県から「信州暮らしパートナー(相談できる先輩移住者)」の委嘱を受け、連携をしている。安曇野地域への移住相談、空家活用サポートなど、地域活性化や人のつながりづくり、まちづくりを行う「ベースキャンプ安曇野」代表。Facebookグループ「信州移住ヨモヤマバナシ」管理人。