「思ったほど安くない」移住先の物価を知って移住を諦める人もいます

「地方は物価が安い」と思いがちですが、必ずしもそうとは言いきれません。長野県安曇野市に移住し、長年移住する家族の相談にのってきた山下美鈴さんが、地方暮らしのお金のことを教えてくれました。

「物価が安くないので、移住を諦めます」という相談者

野菜売り場に並ぶ商品

 先日、「自然豊かな長野県で子どもを育てたい」と言っていた相談者さんから、「実際に行ってみたら思ったほど物価が安くなかったので、移住をやめました」と連絡がありました。

 初めの一歩が踏み出せない、家族の同意が得られない、収入が下がるのは避けたい、移住への思いがそこまで深くなかったなど、これまでさまざまな理由で移住計画をやめてしまった人がいますが、この理由で計画をやめるというのは初めてです。
 
 確かに家賃や地価などは、地方の方が安いかもしれません。でも、地域や周辺環境により価格差はあるでしょうし、地方でもそこそこの値段がするものもあります。普段の暮らしに欠かせない食料品や生活品、さまざまな費用もひとくくりに、地方の方が「安い」「高い」とは言えません。

 同じ品物でも、流通にかかる経費などで現地価格は変わってくるでしょう。ガソリンや灯油の価格に関して「長野は高い」と感じています。「内陸の長野は輸送費がかかるから」と言われていますが、安曇野で暮らしていて食料品や生活品、身の回りのものが特別高いと感じたことはありません。逆に、物価が安いと感じたこともありませんが。

 移住を計画している方には、スーパーのチラシ閲覧ができるアプリやネットを活用し、自分が暮らしたいと思っている地域のチラシと見比べることをおすすめします。ガソリン価格を比較できるサイトもあるので、地方での暮らしに自動車は必要と思っている方は押さえておくのもいいですね。

 スーパーやガソリンだけでなく、ほかにも生活に関わる物の価格を知ることで、移住後の暮らしにかかるコストをイメージすることができます。ホント、便利な時代になりましたね!!

物価が安いことだけが地方移住の魅力じゃない

栽培している野菜

 移住希望地域の物価をあらかじめ知っておくことは大切ですが、単純に安いだけが魅力ではないとも思っています。

 この記事を書くにあたり、安曇野市内にたくさんある直売所の中でも規模が大きく人気のある「安曇野スイス村/ハイジの里」で取材しました。こちらは地元の人はもちろん、キャンパーや旅行者も訪れます。キノコ、キャベツ、タマネギ、大根、リンゴ、ワサビの花、クレソン、白菜、ホウレンソウ、ヤマイモ、お米などから、「こんなものまで?」という珍しい野菜や果物まで、それぞれの旬にはたくさん並びます。産直品は生産者名が記名されているのでお名前でその方を想像してみたり、栽培している姿を想像してみたり…。何より安心できますね!

 また、これからの季節は種や苗が多く出回り、移住後に小さな畑を借りて自分で野菜を栽培する人もいます。ご近所さんが「畑貸してあげるから野菜作りをしてみたら?」と言ってくれますが、私は畑を借りて栽培するなどできっこないので昨夏、こんなことをしてみました。

 野菜培用の土を買って袋に直接ナスとピーマンの苗、バジル、青ジソの苗を植えました。これだけでも育てる楽しみ、食す楽しみができておもしろかったですよ。

 私たちは今も出身地の和歌山に事務所住居があり、住居には義母が暮らしているので仕事と顔見せのため1、2か月に一度は行きますが、品物によって価格差があるものとそうでないものもあり、実際に地域を行き来しながら暮らしていてどうかというと、あまり気にしていません。だって、暮らしている地域で売られているものを購入するしかないですよね。

 余談になりますが、長野県では新鮮な魚介類は手に入らないとのイメージもありますが、流通網が発達したおかげで以前よりよくなったとはいえ、鮮度は店舗によってよし悪しで、海の県で生まれ育った私は「魚を買うならこのお店かな?」と決めています。

家族でよく考え、よく話し合って移住計画を進めて

安曇野の公園

都市部から移住した人からは

・休日は広々とした自然の中で思いっきり遊べる

・季節を感じる暮らしができる

・水がおいしい、空気がきれい

・公園に行っても駐車料金がかからないことがほとんどなので、時間を気にせず遊べる

・さっとお弁当を準備して近くの公園でに出かけるだけでもおいしくて楽しい

・お金を使う遊びをしなくなった(ショッピングモールやテーマパークなど)

・朝は明るく夜は暗いものという感覚が戻った

など、単純に物価のことだけでなく、ほかにもたくさんの「移住してよかった!」という声が聞かれます。

「自分は何のために移住したいのか?」「どういう暮らしがしたいのか?」「移住を考える先には何があるのか?」ということを考え、計画を進めるといいのではないかと思っています。
 すべて思いのままに移住できるとは限りません。妥協が必要なときもあります。昨今の話題に乗っかって、安易に移住や2拠点生活を計画するのではなく、ライフスタイル、仕事、家族のことなどよく考えて話し合い、移住計画を進めてください。

<取材・文/山下美鈴>

山下美鈴さん
建築家の夫と4人の子どものうち3人で2011年夏、長野県安曇野市に移住。自身の移住計画を進めるにあたり、情報収集したいと2008年8月に地域ブログを開始。移住を計画する読者と情報を交換し合い、2011年安曇野市に移住。移住してからは安曇野での人のつながりを広げつつ、移住したい人たちの相談を受けている。2020年6月長野県から「信州暮らしパートナー(相談できる先輩移住者)」の委嘱を受け、連携をしている。安曇野地域への移住相談、空家活用サポートなど、地域活性化や人のつながりづくり、まちづくりを行う「ベースキャンプ安曇野」代表。Facebookグループ「信州移住ヨモヤマバナシ」管理人。