移住のきっかけはご縁とタイミング。焦らず待つのが吉

移住したいと思っていても、きっかけをつかめない人も多いそう。家族で安曇野に移り住み、長年移住希望者の相談にのってきた山下美鈴さんが、自身の体験を踏まえて教えてくれました。

移住計画が進まないときは、機が熟していないのかも

安曇野のそば畑

 移住したい気持ちはあるけれど、家族のこと、仕事のこと、将来への不安、いろいろ考えるとなかなか一歩を踏み出せない。早く移住したいのに計画が思うように進まないという人もいるでしょう。

 そんなときは「まだ機が熟していないよ!」って天からのお知らせだと思い、無理せず現状維持、流れにまかせ様子をみてもいいのではないでしょうか?

 わが家の移住計画が持ち上がる前、私たちはミカンの街、和歌山県中部の有田市で夫の父が建てた家に暮らしていました。建築家のは夫「自分の家を建てるんだ!」と県庁所在地へ自宅を建設する計画を立て、当時の坪単価にして54万円、約30坪の小さな土地を購入しました。

 土地を購入するまでは結構早く、このままとんとん拍子に自宅の建設は進むものと思っていましたが、仕事で受けた案件は順調に設計が進み何軒も竣工していくのに、なぜか自宅の計画は思うように進められないまま。いつ完成するだろう?という感じでした。

 そんな数年を過ごしている間も、旅行で信州を何度も訪れては雄大な自然とおいしい水と食べ物を満喫。また和歌山に帰っていつもの暮らしを続けるのですが、あるときふと、「こんなに信州が好きなら引っ越してもいいんじゃない?」「じゃあ、そっちで考えてみるか!」と、「信州で暮らす」ことにシフトチェンジしたら、あら不思議! 驚くようなタイミングで、安曇野市内での新築住宅の設計監理のご依頼をいただきました。

打ちわせの合間に長野の土地を探す日々

和歌山と安曇野で購入した土地

 当時はまだオンラインミーティングなど便利なものはなく、クライアントとの打ち合わせはメール、電話、安曇野市内でお会いすることが中心。「打ち合わせ」と称してしょっちゅう信州に出かけていく夫を「いいな〜私も行きたい!」とうらやましく思いながら送り出していました。

 打ち合わせと称して信州に出かけていく、ということは、土地を探すにも絶好の機会で、事前に不動産屋さんにアポを取り、何度も土地を見に行きました。

 土地探しだけのためにわざわざ出向かなくても、クライアントとの打ち合わせのたびに土地探しができたのです。これこそ一石二鳥ですね。

 信州で暮らすことにシフトチェンジして約9か月後、出会った土地の景観は申し分なし、広さは和歌山で購入した土地の3倍以上、坪単価は1/4以下。私たちが思い描いたエリアで土地を購入することができ、設計も工事もあれよあれよという間に進み、2011年8月に引っ越すことができました。

 その日は不動産屋さんのいつもの担当者さんが不在で、別の担当者さんに案内してもらい「こんなところもあるのですが」と紹介されたのが今の土地。購入に迷いはありませんでした。

 和歌山市内での住宅建築が思うように進まなかったのは、山下家は信州で暮らすことになっているから和歌山に家を建てることはできないよ!という天からのお知らせ。すべては不思議な「ご縁」だったと今は思います。

 なので、今、思うように計画が進まない、まだ迷いがあるという方は、急がず時期がやってくるのを待ってみませんか?

 6年越しの思いを実らせ移住した方、子どもの進学を機にパートナーと別居して子どもとで移住された方、移住計画を心の底に置きながら時間ができたときには旅行で訪れ、移住する機会を模索中の人もいますよ。

移住できなくても地域と関わり続けることはできる!

ゲストハウスで楽しむ人たち

 また、最終的に移住を諦めることになったとしても、あなたの人生にはそれが最良という天からのお知らせだと考えてはいかがでしょう? 移住できなくても旅行で訪れる、関係人口として関わることもできます。

 自分が移住したいと思っている(思っていた)地域でつながりをつくり、関わり続けることで新たな方向性が見出せたり、ひょんなことから移住に発展するチャンスがあるかもしれません。

 移住仲間がやっている農家ゲストハウスには、移住計画中や移住はできないけど「安曇野の農と人と自然に関わり続けたい」人たちが集まってきて、共に農作業をし、コミュニケーションの場となっている例もあるので、そんなつながり方から始めてみるのもいいですね。

<取材・文/山下美鈴>

山下美鈴さん
建築家の夫と4人の子どものうち3人とともに2011年夏、長野県安曇野市に移住。2020年6月長野県から「信州暮らしパートナー(相談できる先輩移住者)」の委嘱を受け、連携をしている。安曇野地域への移住相談、空家活用サポートなど、地域活性化や人のつながりづくり、まちづくりを行う「ベースキャンプ安曇野」代表。Facebookグループ「信州移住ヨモヤマバナシ」管理人。