デンマークから三重県にUターン。持続可能な家具づくりを目指す

伊賀焼、萬古(ばんこ)焼といった伝統工芸が盛んな三重県。歴史あるメーカーが新ブランドを立ち上げたり、若手作家が移住していることから、工芸品・雑貨好きから注目を集めています。そんな三重県の魅力的なクリエーターや作品を東京から移住したライター・西墻幸さんがご紹介。今回は、家具職人の出⼝真樹さんです。

オーダーメイドにこだわって制作する家具のよさ

タンペレ

 三重県員弁郡東員町。三重県の北部に位置し、町の中⼼には川が流れ、⽥畑が広がるのどかな町に、⽇本全国のみならず海外からも注⽂がくる無垢材の家具⼯房『タンペレ』があります。

 シンプルでミニマル。北欧家具のムードも漂う家具は「持続可能なモノをつくる」というテーマで、デザイナーであり家具職⼈の出⼝真樹さんが⼿がけたものです。

出口真樹さん
家具を設計して作る。デザイナーであり家具職人の出口真樹さん

 タンペレのお客さんは、ホームページや雑誌などから、家具の雰囲気やデザインを気に⼊ってやってくる場合がほとんど。

 オリジナルの家具をそのまま販売することはせず、オーダーメイドのスタイルを貫く理由をうかがうと「⾃分のつくった家具が、10 年先も役に⽴っているモノでありたいと思うから」と出⼝さん。

 たとえば、テーブル。部屋が狭くなるので⼩ぶりなものでいいと言われた場合も、初めにサイズを決めることはないそうです。

「家の間取りや家族構成、そして、そのテーブルで何をするか、どんなふうに使いたいかを聞き、⼼地よい⼤きさについて話し合います。そうすると、その暮らしのなかでのテーブルの価値がはっきりとする。もしかしたら、その空間にテーブルは必要ない可能性もあるんです」

テーブルと食器戸棚
古民家の雰囲気に馴染むようオーダーを受けたテーブルと食器戸棚。塗壁や柱の残る場の雰囲気に抗わないようデザインした

 家具が置かれる空間やシチュエーションを具体化し、形やサイズをイメージする。そして、それをお客さんと共有していく過程は、出⼝さんにとって⼤変なことではなく⼤切なこと。

「お客さんの想い⼊れもプラスされて、より⻑く⼤切に使ってもらえると思っています」

 写真の壁付けの棚は、リビングの顔になるものと考え、流れるような⽊⽬を最⼤限に⽣かしたシンプルなデザインに。合わせてつくったのは、家族や仲間が⾃然とそこに集まるような、というお題でつくったダイニングテーブル。ナラ材を使⽤し、どっしりとした4つの⾜ですべてを受け⽌める印象です。

棚とダイニングテーブル
壁付の棚とダイニングテーブル

「⽊」ありきの家具づくり

木材
オーク、ナラ、メープル、ウォールナット、チーク。⽊の種類によって⾊が違う
切り出した木材
丸太から切り出した⽊材の模様は千差万別。節や⾍⾷いの⽳もある

 材料となる⽊材は、丸太から切り出した無垢材を使⽤します。「これはいい悪いではなく、好き嫌いの問題」と前置きしつつ、木材のことを話してくれました。

「⽊は湿度によって縮んだり膨らんだりするので、無垢材は割れたり反ったりしやすい。集成材のような合板ならそれはない。でも、合板を触っていても幸せじゃないんです。無垢の⽊を切ったり削ったりしているほうが気持ちいい。そして、⽊の性質を受け⼊れて、材の厚みを考えたり⼯夫する。そんな作業も好きなんですよね」

 当然、⾊や⽊⽬もひとつとして同じものはありません。⽊材を⽬の前に朝から⼣⽅まで、ずっと考えることもあるのだそう。

「タンペレの家具は、⽊がありき。⽊の表情をよく⾒て、⽊柄を選びます。⽊⽬を⽣かすか、⾊を⽣かすか。その家具をおく空間と馴染むかどうか。無垢材が適しているかも含め、適材適所を考えて⽊を選ぶことは、機械ではなく⼈間がつくる意味があることなんです」

サイドボード
木目が綺麗な真鍮脚のサイドボード

 タンペレの家具は素材のもつ力に助けられて成立している、という出口さんですが、その仕事の緻密さや丁寧さには、驚かされます。

 合理的なことは⼀切せず、細部にまで渡り丁寧に⼿をかけてつくったアームチェアは、ひじ掛けのエッジの部分はカンナで⼀枚⼀枚削り整えます。機械で⼀様に加⼯されたものとは異なる唯⼀無⼆の美しさです。

アームチェア
アームチェア(左/ペーパーコード155,000円、右下/藤編み各170,000円)

人のつながりのある、心地いい場所で家具をつくる

田園
⼯房の⽬の前に広がる⽥園⾵景

 美術大学を卒業後、⼤⼿ハウスメーカーでの住宅設計を経て、デンマーク王⽴建築アカデミーの家具科に客員⽣として渡り、その後、デンマークデザインスコーレで制作技術を学んだ出⼝さん。帰国後は地元である三重県いなべ市に戻り家具づくりをはじめ、隣町である東員町に⼯房を構えたのは 2010 年のこと。

 名古屋まで⾞で 30 分たらずにも関わらず、⾃然に恵まれた環境はデンマークでの⽣活にも通じるのでは? と聞くと「⾃然を求めた気はこれっぽっちもない」と出⼝さん。

「どこでやるかはどうでもよくて、なにをやるかだと思うので」ときっぱり。「ただここには祭りがあって、⼈のつながりがあり心地いいんですよね」

 16、17 歳の⻘年騎⼿が武者姿で⾺に乗り、約 2.5m の崖を⼀気に駆け上がる上げ⾺神事。稲作の吉凶を占う神事で鎌倉時代に始まったといわれている由緒あるお祭りです。

「お年寄りから⼩さな⼦まで、下の名前で⾔い合う仲。祭りを通じて村全体が⾃然に繋がっていて、まさに、無形⽂化財です。僕もまだこの地にきて 10 年ほどですが、⼤⼯仕事でその繋がりに交われることがうれしい」
 

おがくず
木を削って出たおがくずは、近所の農家さんが喜んで再利用してくれる

 やることは、丁寧に家具をつくり続けること。それは、使い⼿の家具への愛着や、出⼝さんご⾃⾝の幸せとやりがいにも絡み合い「持続可能」というタンペレのテーマにつながっているように感じました。

<取材・文>西墻幸(ittoDesign)
 
西墻幸さん
1977年、東京生まれ。三重県桑名市在住。編集者、ライター、デザイナー。ittoDesign(イットデザイン)主宰。東京の出版社で広告業務、女性誌の編集を経てフリーランスに。2006年、東京より世界1周を経て、夫の地元である桑名市へ移住。ライターとしてインタビューを中心に活動する一方、デザイン事務所を構え、紙媒体の制作や、イベント、カフェのプロデュースも手がける。三重県北部のかわいいものやおいしいものに詳しい。